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同じ時代 同じ時間を共に生きた君へ

「明日香」いま何処に居ますか?  元気にしていますか?
    誰よりも幸せに暮らしていますか?

明日香とは同じ学校だったこともあり 自然と近くにいて何気なく毎日会って話したりしていました。その頃何を想い何を感じて何を話していたのかは今となってはよく覚えていませんが、大きな瞳で僕の顔をじっと見ながら話すとても笑顔の似合う女性でした。そんな話の中で少し覚えているのは病気がちな母親と、ちょっとだけみんなのお父さんより年上の父親との三人家族で私がだいたい御飯当番と洗濯当番なんだと明日香は笑いながら言っていました。だけど辛いとか嫌だとかは一度も言いませんでした。そんな中でも僕らは時間を見つけては二人で御飯に行ったり、二人で出掛けたり、そんな楽しい時間を二人で過ごしました。やがて半年が過ぎ卒業も間近な頃、彼女に本気で恋をし大好きになっていました。きっと彼女もそうであったはずでした…
  

それから一年が過ぎた頃 会社に明日香から電話がありました。
ちょっと長い沈黙があり…「どうしたの明日香」と聞くと
「私ね…これ以上あなたと一緒にいると後戻りできなくなる…これ以上あなたを好きになると……今まで黙ってたけど私ね小さい頃から結婚の約束をしてる人がいるの…でもね…このままずっとあなたと一緒にいたい…でもそれはできないの…ごめんなさい…私は本当の自分の恋がしたかったの…だからあなたと一緒にずっといたかったの…でもそれはできないの」電話の向こうの明日香は明らかに涙声で何度もそう言った。
僕は「もう分かったから泣かないで…苦しかったね…ごめんな明日香」そう言って受話器をおろすことしか出来ませんでした。その瞬間、止めどもなく涙が溢れてきました。

どうして結婚の約束をしている人がいるのに僕と?
小さい頃からってどういう事なんだろう?
本当の自分の恋って?
家の事情ってこと? 
その延長線上での親からの結婚話ってこと?
色々聞きたかったけど涙声で何度も「私は本当の自分の恋がしたかったの…だからあなたと一緒にずっといたかったの…」を繰り返す明日香にそんなことは聞けませんでした。

それから世の中や時代の呼び名も何回か変わりました。
あの頃のような日中の連絡手段といえば会社の電話くらいしかなく、お互いが涙しそれを会社の同僚や上司に見られた時代はとっくに終わり、人目も気にせず携帯電話でお互いの世界に浸りながら話せる世の中です
あの時 確かに同じ時代 同じ時間を共に生きた僕と明日香
帰れないけど帰ってみたいと想う時が幾度となくあります。
僕は明日香を時々思い出します 君も僕を思い出すことがありますか?

「明日香」いま何処に居ますか?  元気にしていますか?
    誰よりも幸せに暮らしていますか?


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