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カプラプーン:重力波通信の失敗

カプラプーン星第三衛星軌道上に浮かぶ重力波通信ステーション「エコー・ゼロ」は、常に沈黙を保っていた。ステーション長のザラック博士は、幾何学的に完璧な六角形の観測室で、ホログラフィック・ディスプレイに映し出される波形を凝視していた。


「重力波パルスの同期が取れません」副官のリンダが報告する。「量子干渉計の位相がずれています。」


ザラックは眉をひそめた。カプラプーン星系外との通信確立は、彼らの文明の存続にとって不可欠だった。太陽フレアによる電磁パルスが従来の通信手段を無力化して以来、重力波による星間通信が唯一の希望だった。


「重力レンズの歪みを補正せよ」ザラックは命じた。「第五次元座標での微調整が必要だ。」


リンダは複雑な計算を実行し、量子コンピュータに新たなパラメータを入力した。ステーションを取り巻く空間が微かに歪み、重力場が再構築される。


しかし、予期せぬ事態が発生した。カプラプーン星の三つの月が一直線に並んだ瞬間、潮汐力が急激に増大。ステーションの構造に致命的な負荷がかかる。


警報が鳴り響く中、ザラックは冷静さを保った。「緊急脱出プロトコルを起動せよ。全データをクォーク・メモリに圧縮し、量子テレポートで地上基地へ転送だ。」


リンダは躊躇した。「しかし博士、私たちは?」


「我々の使命は、カプラプーン文明の知識を守ることだ」ザラックは毅然と答えた。「個人の生存は二の次だ。」


転送が完了した瞬間、ステーションは重力の奔流に飲み込まれた。カプラプーン星の夜空に、新たな光点が瞬く。


地上の科学者たちは、犠牲となった同僚たちの遺志を継ぎ、重力波通信の研究を続けることを誓った。カプラプーン文明の存続を賭けた闘いは、まだ始まったばかりだった。