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最後のレース:絶望と受容の物語 深夜薬局 佐々木一郎の過去

最後のレース:絶望と受容の物語

年月の重み

24歳の一郎は、彼の人生を決定づけるかもしれない選択の岐路に立っている。8年間もの間、バイクのレーサーとして過ごしてきたが、その経歴は決して華々しいものではなかった。日本グランプリへの出場が、彼のスキルを評価した結果ではなく、単なる礼儀であることを彼は知っている。未練と失敗の重みが、8年間という長い時間を通じて、彼の肩に重くのしかかっている。

最後の賭け

鈴鹿サーキットが彼の前に広がっている。夢であり、悪夢でもある曲がりくねった道。オートレースに転向する選択肢もあるが、このサーキットこそが彼にとって全てだ。他の全てを諦めた今、彼はこの一戦に全てを賭ける。チームは財政的に厳しく、バイクも古い。それでも、彼は華々しく引退するために全てをかける。

エンジンを吹かすと、その振動が彼の腕を通って全身に広がる。観客のざわめきは遠く、その期待も無関係。この瞬間、彼とサーキットだけが存在する。スタートの合図が鳴り響き、スロットルを最大限に開く。世界が一瞬でぼやける。バイクは、ようやく解放された猛獣のように吠える。

猛スピードで第一コーナーに突入する。焦点は、彼の運命を決定づけるアスファルトの一区画に絞られる。そして、一瞬のうちに世界が逆さまになる。バイクがスリップし、現実から足を滑らせる。彼は宙に浮かび、短くも恐ろしい瞬間、目の前に広がるのは果てしなく青い空だけだ。

バイクと一緒に外壁に激突する。金属と肉が容赦ないコンクリートと出会う。その衝撃が彼の体を貫き、各神経が痛みで叫ぶ。しかし、そこには奇妙な平和感が広がっていた。

終わりと始まり

救助隊が駆けつけ、彼をバイクの残骸から引き剥がす。彼がサーキットを離れる際、チームマネージャーと目が合う。言葉は必要ない。この瞬間の終わりを二人とも理解している。

救急車に乗せられる際、一郎は最後に鈴鹿サーキットを一瞥する。それは甘く切ない別れであり、新たな受容と共に感じられる。彼は夢見た栄光を手に入れられなかったが、同じくらい重要なものを見つけた。

・・・・・「 8年間」

あばよ 俺の青・・・・やめとけ。その台詞は、あまりにもかっこが悪い。

聴いてみて。
"Don't Stop Believin'" by Journey