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品行改悪逆無道

毎度おなじみ
無口夫婦の小噺。

末期的関係だとか仮面夫婦などと
友人親戚各方面に噂されたものだが
隣の芝生の色など気にも留めず
脳内会話で成り立つ技を編み出し
言葉を発せずとも
なんとなくではあるが
正解のプールに飛び込めていた。

房総半島では珍しく大雪の降った日。
出勤前の私の元に
連れ合いから電話がかかってきた。
冬用のタイヤを装着しているので
通勤中の車にトラブルなどなかろうと
そう思いながら電話に出ると

「雪がもうねぇ。すごいから、君も
 運転にはくれぐれも気をつけて。」

彼とは長年連れ添ってきたが
このような優しい言葉が
ダイレクトに飛んでくることは
この時まで皆無に等しかったので
嬉しみの舞いを踊りながら
私はつい 本音のマグナム44を
標的にブっ放してしまった。

「え。私の事、心配してくれてんの?」

「当たり前じゃん。事故って入院したら
 猫のお世話 誰がするんだよ。」

この通話のテイストに
私はヘンテコな既視感を覚えた。
古今亭志ん生の「厩火事」
そのものだったから。

ニヤニヤ運転は安全運転に相成り。
電話のやりとりを脳内再生しつつ
私は無事、職場に到着した。

大雪から数年後に3月11日の大震災。
互いの電話も通じず。
やきもき。
そう。初めて やきもきが
身体中に纏わりついた。

爾来、私達は脳内会話を止め
言いたいことは即座に放つ。

『じゃむたんの様子がいつもと違う。
    病院行って来る』

「ゴホッ。僕、風邪っぽい。」

『引き出しに風邪薬あるよ。ほな』

これはAK47案件だったかも。阿吽。

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