櫻坂46 9th Single「自業自得」 評論

ついに、というところだ。

現時点で24時間再生数 表題曲歴代No.1、100万再生到達速度 全曲歴代No.1を達成し、およそ最高の出だしと言える状況の、櫻坂46 9th Single「自業自得」。
個人的にもかくあるべきと思える会心の一作だったと考える。

まず曲である。

ティザーのBGMから衝撃だった。

チョップされたボーカルサンプリングから重低音が鳴り響くリズムトラック。
今まで櫻坂…というより秋元康グループ全体で弱点と思っていた音響/プロダクションの面において明らかに今までとは一線を画しており、逆にこれはあくまでティザー用の音源なのかと訝しんでいた。
だが、MVに先立ち公開された曲において、ティザーと寸分違わないあのイントロが流れた瞬間の衝撃は相当なものだった。

まず個人的に衝撃だったのがAメロのリズムである。
いわゆるイーブンキックではなくブレイクビーツとなっている。
あらゆる音楽が氾濫している現状そんなこと特筆すべき事ではないと思われるかもしれないが、現状の櫻坂の曲(特にクラブミュージックをベースとした曲)において、驚くほどイーブンキックが主体となっているのだ。
例として「Dead End」も「承認欲求」も、「BAN」も「摩擦係数」もAメロ〜サビは全てイーブンキックである。
私はそこに大きな不甲斐なさを感じていた。
もちろんイーブンキックも上モノと合わせることでグルーヴを作ることは無限に可能だが、秋元康グループにおいてはむしろイーブンキックが合わないウワモノに対しても無理やりイーブンキックにしてしまっていた。(勝手な推察だが、複雑なリズムにするとダンスの音取りが難しくなるせいか?と考えている)
そこに対して今回は表題曲において全体的にブレイクビーツを採用しており、まさにダンスミュージックとして大きな進歩を遂げているのだ。
それこそプロディジーのようなダンスアクトとも勝負ができるほどとも言える。

また全体的に音の抜き差しについてかなりセンスを感じさせる。
1サビ終わりにリフレインをした後リロード音→爆音の間奏に入るところや、2Aで1Aとは別に8小節ごとにストップをいれるところなど色々あるが、秀逸なのはやはり2サビからラスサビまでの間奏部分だろう。
2サビ後最低限のボーカルチョップとイーブンキック→ギターの轟音→J-POPらしいコーラスとラップ→16小節のタメのあとのラスサビの流れは、今までの表題の中でもかなりビルドアップを意識した構成と思われる。

そしてラップパートである。
「自業自得」ではラップのほとんどがトリプレット(3連符フロウ)、かつその中でも4/4拍のリズムに対し3連符の1,3,5拍を強調する、以下の曲ラストで見られるようなトリッキーなラップを見せているのだ。

トリプレット自体は2010年代からトレンドとなっていて、すでにスタンダード(というか陳腐化?)なものではあるが、そもそも坂道グループは秋元康が歌詞を担う都合上、ラップに関しては相当に弱いものだった。
櫻坂においても、表題でラップと言えるものは「承認欲求」が初めてで(「桜月」のBメロはポエトリーリーディングとする)、既存曲のように間奏で脚韻をそれっぽく揃えたぐらいのものであり、胸を張ってラップといえるのはほとんどなかったと言える。
そこに対し今回は随所にラップパートを挟み、かつそこに工夫を凝らすというところは大いに評価したいし(恐らくだが制作陣と秋元康でもある程度のコミュニケーションを取らないとできない)、しっかりとフロウをこなす櫻坂メンバーにも称賛を送りたい。

総じてダンスミュージックとして素晴らしい曲を先行公開で聞いて、MVとして予想したのは「承認欲求」や「BAN」のようなカット多めのダンスシーン+リップシンクシーンでビジュアル的に華やかな明るいトーンのものだった。

が、その予想は裏切られた。

一見して感じたのは「ホラー」の3文字である。

裁判所を思わせる円形のセットの中でひたすら中心で見世物のように踊る櫻坂メンバー。
メンバーの表情は終始固く、ダンスも今までのようなフォーメーション移動やキメの多いものではなく、「Start Over!」の間奏のように儀式的なダンスを展開していく。
かつ、今回センターの山下瞳月は、グループ屈指のダンスメンであるにも関わらず、イントロ〜1サビまで椅子に座って動かない。
ダンサブルだったはずの曲はむしろ映像のヘヴィさからドゥームメタルのような重さを持ち始める。
そして1サビ終わり、山下瞳月が立ち上がり得意のワックを思わせる腕の振りのあと、曲のリロード音と同時にアゴを上げた瞬間に一気に照明が変わる。
このMVの最初のハイライトである。

この曲を聞いてこのような儀式的なホラーのテンションで進めようと考えた池田一真監督の感受性に驚嘆を禁じ得ない。

他にも随所で儀式を思わせるカットがある。

ただし、であればダンスが非常に画一的な見どころのないものになっているかというと、個人的には随所での振りが揃っていたり、速いテンポで動く振りがあったりと、そこはやはり櫻坂が今まで培ったスキルが(目立った形ではなくとも)発揮されていると思う。
2サビでジャズダンスのような振りがあるのも面白いなと感じさせられた。

そして2サビが終わり、間奏で周りのオーディエンス?からペンキを投げられる。
真っ白な服、メンバーの顔にも容赦なくそのペンキはあたり、まだら模様になっていく。
そして間奏ラスト、音が引いた瞬間に山下瞳月のソロダンスで得意とするワックの振りを抜群のキレで披露した後、フィナーレへと向かう。

円形の台の上、オーディエンスからペンキを投げつけられながら、一糸乱れぬダンスの後、カメラが周回を始め、この曲で最も感情をむき出して、最後尾も含めた全メンバーが思い思いのダンスを踊る。
そしてラスト山下瞳月にカメラがフォーカスを当て、ゆっくりと寄っていき、この表情でMVが終わる。

監督から「好きな表情をしてほしい」というオーダーがあったとのことだ。
他の表題曲と比べ今まで感情を抑制した分、脳裏に深く刻み込まれる。

山下瞳月は今までのMVやライブなどでもあまり大きく表情を変える印象はなかった。基本的には努めて冷静なトーンで踊るタイプであり、以下の記事で紹介したように、新参者の「語るなら未来を」でも冷たい目をしていた印象が大きい。

その山下瞳月が、フリーに任されたラスト、このような表情をした意図は正直今の私では計りかねるが、このMVの価値を一つ上げたことは間違いない。

全体的に、以前の記事で書いた、櫻坂の「各制作チームがボトムアップで考えたコンセプトを、パフォーマーであるメンバーが独自に解釈し、高いスキルで表現していく」というバリューがまさに体現されていると感じた。
頭で書いたように曲だけで見るとダンサブルな部分がフォーカスされそうだが、そこに対しあえてホラー的な要素を入れることで曲の「重さ」に多面的な意味をもたせ、最終的なその結合をセンターの山下瞳月のラストカットに任せるというところは、本当に櫻坂でしか成し得ないプロダクトだと痛感する。

もちろん、Xで散見されるように色々目に付く点はある。
サビが弱い、歌詞が甘い、ダンスが揃っていない部分がある、場面転換がなく単調、そもそも既視感のあるシーンが多いetc…
そこについては異論があるわけではない(特にスタッフについては今回大きく刷新するチャンスだったかなと思っていたところはある)。
だが、「櫻坂にしかできないことをする」という面では、これ以上ないものができたと考えるし、それが今までで最高のリアクションがあったというのは、やはり今は櫻坂の個性を推し進めていくことが最適解だろうと考える。

来週は東京ドーム公演だ。
この曲も演ると思われる。
「承認欲求」のようなダンサブルな面と「Start Over!」のような儀式/演技的な側面がハイブリッドに融合したこの曲が、東京ドームという演出空間でどのように表現されるのか。
非常に期待したいところである。

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