六角形と自然のはなし
突然ですが皆さん、下の写真は何か分かりますか?
これは島根県出雲市の日御碕で撮影した柱状節理(ちゅうじょうせつり)という奇岩です。
溶岩がゆっくり冷えて固まる際に、体積が収縮してこのような割れ目が形成されました。写真では分かりにくいですが、節理を上から見てみると、六角形の断面をしているものが多いです。
それでは次に、下の写真のオレンジ色のものが何か分かりますか?
これは角閃石(かくせんせき)という鉱物です。
角閃石自体は細長い長柱状の形をしていますが、写真の角閃石はxy平面での断面の形を示しています。少し歪ですが、六角形ですね。
このように、地球科学を学んでいると六角形によく遭遇します。
そんな中、私は思いました。
エネルギー状態が一番安定しているのは、六角形なのでは?
そこで六角形について調べてみることにしました。
安定することが大切
自然界の六角形について書かれているこの記事は、一体何番煎じなんだろうとヒヤヒヤしながらも、それについて私が学んだことや考えたことをまとめてみました。この季節の寒さに負けないような温かい気持ちで読んでいただけると幸いです。
さて、結論から言うと、自然界に六角形が多い理由としては、
最小の材料・エネルギーで安定を得ることができるから
だそうです。
シャボン玉
シャボン玉がなぜ丸いのか、皆さんは考えたことがありますか?
これは物理の話になるのですが、シャボン玉の膜には表面張力が働いており、空気圧と表面張力がバランスを取ろうとして球形となっているそうです。
……ここでもう少し、表面張力について掘り下げてみましょう。
表面張力とは、
表面張力が働いているシャボン玉は、常に己の表面積をできるだけ小さくしようとしており、その結果、球という形に落ち着いたということですね
(言い換えれば、球は表面積が最小となる立体(最もコスパの良い形)ということですね)。
プラトーの法則
正六角形の一つの内角が120度であることは、皆さんもご存知のとおりだと思います。では、同じサイズのシャボン玉が複数接している時の結合角は何度でしょう(ベンツのエンブレムを思い浮かべてみてください)。
実は、これも120度だそうです。
19世紀の終わり頃、ベルギーの物理学者のジョゼフ・プラトーは、石けん膜が結合する際の機械的に安定する角度が120度で、常に3つの液膜が接合していることを突き止めました。この膜の境界をプラトー境界と呼びます。
先ほどのシャボン玉の表面張力の話を思い出してみましょう。
シャボン玉は常に表面積が最小となる形をとろうとしていましたね。
つまり、同じサイズのシャボン玉が隙間なくぎっしりと並んだ場合、最小の表面積で平面を埋め尽くすのに効率の良い形が六角形ということになります。
自然界に存在する多くの物質・物体が、このプラトーの法則に基づき、自らが最も安定し効率の良い形(六角形)を成そうとしているそうです。
プラトーの法則についてさらに詳しく知りたい方は、「極小曲面」を調べてみると良いかもしれません。
六角形は建築物にも
土木や建築の世界では、六角形より三角形(トラス構造)を用いた構造物が主流ですが、自然界に存在する幾何学的な形にインスピレーションを受けた建築物も多く存在します。
実際に六角形が用いられている建築物の例としては、
ジオデシック・ドーム
北京国家水泳センター(中国/北京)
ベッセル(アメリカ/ニューヨーク)
などが挙げられます。
この世の中には、炭素原子のみで構成された球状の構造を持つ化合物があります(以下写真)。その見た目がジオデシック・ドームに似ていることから、ジオデシック・ドームの生みの親であるバックミンスター・フラーにちなんでフラーレンと名付けられたそうです。
【コラム】 バイオフィリックデザイン
ここで少し、六角形から話題を広げてみましょう。
コロナ禍で普及したリモートワークにより、働く側は、通勤負担の軽減、休憩時間における家事育児への従事などの恩恵を享受することができるようになりました。
しかし近頃、「withコロナ」という言葉とともに出社再開に向けた動きが多く見受けられます。
リモートワークの利点を上回り、出社したくなるようなオフィスとはどのようなものなのでしょうか。
その問いに答えるための一つの案が、バイオフィリックデザインです。
もともと我々人間は、自然との関わり合いを持ちながら進化を遂げてきました。
というバイオフィリア仮説が登場するぐらいに、人と自然は切っても切れない間柄です。また、宮崎ほか(2011)により、人工環境下における現代人のストレスは、自然セラピーによって緩和されることが科学的根拠に基づき明らかになりました。
それならば、出社したくなるオフィスを実現するために、意識的に屋内に自然を導入してみるのも一つの手ではないでしょうか。
観葉植物を配置しようとしても、如何せんスペースの確保やメンテナンスが難しい場合があるでしょう。
このようなとき、六角形をはじめとした自然界に存在する螺旋やアーチなどの有機的なパターンをオフィスに取り入れることで、人が本能的にリラックスできる空間を機能させることができます。
自然の一部を組み込んだオフィス空間をデザイン(バイオフィリックデザイン)することにより、従業員たちの出社意欲を少しでもアップさせることができるのではないかなと思います。
おわりに
この記事を書くために色々と調査をしていると、自然科学から導き出された原理は、さまざまなプロダクトに応用されているなと新たな気づきを得ることができました。フラーレンの名前の由来も知ることができて良かったです。
建築巡り、したいな。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
参考文献
Philip Ball, 2011, Shapes: Nature's Patterns: A Tapestry in Three Parts, Oxford Univ Pr.
宮崎良文・ 李 宙営・朴 範鎭・恒次祐子・松永慶子, 2011, 自然セラピーの予防医学的効果, 日衛誌 (Jpn. J. Hyg.), 66, 651-656.
フローレンス・ウィリアムズ, 2017, NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる―最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方, NHK出版.
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