Case 1 84歳男性 腹痛
難易度:★★★☆☆
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なお,画像については患者さんの同意を得た上で,当医療法人弁護士と相談し,掲載可能と判断した上で掲載しております.掲載不可能な画像につきましては文面だけでわかりにくい場合もありますがご了承ください.
所見と解説
肺野,心臓,大動脈
順番にみていきます.
肺野はこのwindowでは見えません.
普通は見えないはずの心筋がよく見えます.
心腔内が低吸収を示しているからで貧血を疑う所見です.
ROIをおくと43HUであり,上矢状静脈洞のCT値とHbの関係式を無理やりここで流用すると,Hb 9.0 g/dlとなります.実際は10.7 g/dlでした.
CTから貧血を疑う必要はありませんが,貧血があるというイメージを持って読影していくことになります.
僧帽弁,大動脈の石灰化や蛇行は,年齢相応かむしろきれいな印象です.冠動脈も一部のみの描出ですがきれいです.
肝胆膵脾,腎臓,その他泌尿器,副腎,腹部リンパ節
肝表に腹水を認めます.血性という感じではありません.一般的に,30HU以上のCT値であれば直近の出血と言われます.薄まる程度でいくらでも変わりえるので一概には言えないともされています.
しかしながら,一番重要なのは血性腹水の判断に必ず骨盤底をみることです.
血液を放って置くと血清と血餅にわかれます.
下図は腸管壊死の別症例です.腹側の薄いところは10HU程度ですが,背側の白いところは30HUを示しています.
骨盤底(男性では直腸膀胱窩,女性ではダグラス窩)は,立位,臥位ともに一番下に存在するため一度たまった血餅はなかなかここから移動しません.ましてや腹痛で動かない人であればそれが顕著になります.ですので,血性腹水の判断は,必ず骨盤底をチェックします.
本症例では明らかな血性腹水はないと判断します.
胆嚢は,若干の拡張はありますが,胃内容物は少なく腹痛を原因とした絶食に伴う変化で異常とは言いづらいです.
膵臓,脾臓,腎臓,泌尿器,副腎,腹部リンパ節には異常を指摘できません.
皮膚,骨,筋肉
消化管に明らかな異常があるので,そちらをみたくなるものの,ここはぐっとこらえて他の部位も見ておきます.
とはいえ,椎体の骨棘が多少目立つ程度です.年齢相応の変化でよいと思います.
消化管
消化管は,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸に分けて読影するとよいと思います.今回,貧血がありそうなので,腫瘍,つまり,癌は意識的に読影しておきたいところです.
食道は問題なさそうですが,胃噴門部に壁肥厚を認めます.
また,周囲に小リンパ節も認めます.噴門部癌がありそうです.貧血の原因として納得がいきます.
腸閉塞の読影方法
しかし,主訴の原因ではありません.すでにお気づきのように小腸の拡張があります.
小腸の拡張を認めた場合は,イレウス,腸閉塞を考えなければなりません.その場合には,肛門から大腸を追っていくのが定石です.大腸も拡張していればイレウスなどを考えますが,大腸が虚脱したり,大腸内が通常の糞便であれば,それより上流のどこかに閉塞があることになります.
本症例では,直腸に通常の糞便を認め,
下行結腸の虚脱を認めます.
ですので,腸閉塞だと思われます.
腸閉塞であれば,閉塞起点を探すことになりますが,慣れないうちは拡張している腸管をしっかり追っていくのが良いと思います.
特に初心者は,拡張している腸管の一番尾側を出して,その腸管の両端を追っていくというのがわかりやすいようです.
実際にやってみます.
拡張した腸管の一番尾側は上図です.この右側(ピンク色矢印)と左側(黄緑色矢印)を追っていきます.
追えなくなり,狭窄している様にみえます.
十二指腸まで追えました.
以上のことから,ピンク色矢印側を追った先で狭窄していると考えられます.
拡張した腸管を追う時のポイントは,以下の3つです.
拡張していない腸管を追う必要はない
端っこで消えるまで確認する,冠状断も利用する
windowやスライス厚も変えながら追う
今回は,十二指腸まで追えましたが拡張していない腸管を追うのは難しい割に得るものが少ないため,原則として追う必要はありません.
また,動画のように腸管は端っこで消えるところまで追う方がよいと思います.具体的に説明します.
この患者さんの造影CTの画像ですが,矢印の腸管どうなっているかわかるでしょうか.
この様にピンク色と黄緑色で囲った腸管は別物ですが,この写真では繋がっているようにみえます.
動画でもみてみましょう.
他の方法としては,冠状断でも確認したり
airがわかりやすい様にwindowを変えたり
薄いスライス厚で確認したりするとわかることがあります.
ここまでで,貧血,噴門部があり,それとはおそらく別に腸閉塞があることがわかりました.
Closed loopは,ステップにわけて理解するとよい
次のステップは手術がすぐに必要かどうかの判断です.つまり,腸管が壊死する可能性があるかの判断が必要です.壊死を疑う所見は様々ありますが,今回はclosed loopについて見ていきます.
そもそも,closed loopとはなにかを説明します.
バンドや内ヘルニアなどの穴があり腸管がそこにはまり込み,狭窄部位が3ヶ所,近くに存在している場合に疑います.
ここでは,さらに一歩進めてその経過を見てみます.
1.まず,なにかの拍子に穴に腸管が入り込みます.
2.口側からは腸管内容物が運び込まれ,肛門側は送り出されていきます.
3.拡張した口側腸管により穴の部分がきつくなり(この時,首をしめられているような腸管の気持ちになってみるとイメージがつきやすくなります),静脈がうっ滞します.
4.それにより,loop腸管の腸間膜はうっ血します.
5.うっ血したloopの腸管壁は浮腫性の壁肥厚をきたし,腸液を出すことにより拡張します.そして,さらに首がしめられます.
6.そうなるといよいよ動脈も潰され虚血になります.
7.虚血がしばらく続くと壊死になってしまう.という流れになります.
これを理解した上で,本症例をみます.
腸間膜の浮腫を認めるものの,loop腸管の拡張はわかりません.上図のloopが拡張する直前の「4」の状態と考えられます.
この状態です.
また,バンドと思われる脂肪織索状物を認めます.
ここまでみると,バンドと思われる部分の左右で腸間膜脂肪織の濃度上昇が異なるのも納得が行くと思います.
また,バンドがあると思われるところより末梢では静脈の拡張が,バンド部分では静脈の狭窄を認めます.これはバンドで締め付けられているためと考えられます.
今回はloopを追うこともできたので,余裕のある人は確認してもよいかもしれません.
ここまで理解すると,ぜひとも手術したい症例であることがわかります.腸管はうっ血はしているものの壊死には陥っておらず,かつ,放っておけば壊死に陥る可能性が高いからです.また,腸管切除になる可能性は低く,バンドを切るだけですむと考えられます.
実際,本症例は緊急手術を行いバンドを切るだけですぐに終了しています.なお,噴門部癌は上部内視鏡検査で確認され,術中腹水細胞診は陰性でした.
本症例のように,loopが拡張する前のclosed loopというのは時々みる急性腹症です.ここで診断して手術にいけないとより状態が悪くなり,腸管切除といった侵襲も大きくなる可能性が高くなりますので,この段階で診断できるようになりたいものです.
今日のポイント
心筋壁が見えたら貧血
血性腹水は骨盤底を確認
拡張腸管を追う時は端っこ,冠状断,window,スライス厚を変える
loopが拡張する前のclosed loopを診断する
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