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Case2 糖尿病既往のある55歳男性 呼吸困難

難易度:★★★★☆

ぜひ,この記事を読んでから読影してください.

救急外来受診時の胸部CTです.

隔離した上で2日間アンピシリン/スルバクタムを投与しましたが改善乏しく,呼吸状態が増悪したため挿管することになったという状況です.
鑑別診断も重要ですが,どのようなことを考えるべきでしょうか

挿管,胸腔ドレーン挿入後の画像はこちらです.

答えを見る前に,まずじっくり読影してみてください.
1.一時停止して
2.「➔」で5秒送って
3.「,」「.」ボタンでコマ送りしながら読影してください

解説は下の方にあります.
なお,画像については患者さんの同意を得た上で,当医療法人弁護士と相談し,掲載可能と判断した上で掲載しております.掲載不可能な画像につきましては文面だけでわかりにくい場合もありますがご了承ください.












所見と解説

肺野,心臓,大動脈

今回はここがメインになりますので,後に回します.

肝胆膵脾,腎臓,その他泌尿器,副腎,腹部リンパ節

肝胆膵,脾臓,腎臓に異常は指摘できません.
副腎腫大もなく,腹部リンパ節腫大もありません.
膀胱も異常ではありませんが,膀胱内にdebrisがあるように思う人もいるかも知れません.

この画像ですが,膀胱内にfluid levelがあるようにも見えます.背側が高吸収で腹側が低吸収です.

赤線の部分にfluid levelがあるように見える

わかりにくければ,windowを狭くすると良いかもしれません.読影する上でwindowをいじくり倒すのはとても重要なことです.

覚えておきたいのは,windowを狭くするのは細部をみること,windowを広くするのは全体をみることになります.「木を見て森を見ず」ということわざで言えば,windowを狭くするのは木をみることになります.ことわざとは異なり,森をみることが重要なわけではなく,どちらも重要です.

windowを狭くした画像

実際,windowを狭くしてみると,膀胱内のfluid levelがわかりやすくなった一方で,脂肪,骨,筋肉の詳細は全くわからなくなっています.ですので,windowは必要に応じて使い分けるのが重要です.

一概には言えませんが,window広めで読影して(森をみて)から,気になるところだけをwindow狭めで読影する(木をみる)ことが多いと思います.

膀胱内のfluid levelは同定できたとして,これは何でしょうか?
一般的には,汚い尿が沈殿しているというのが一番考えやすいと思います.一方で,この年代男性で膀胱内にdebrisがあるというのは,少し違和感があります.また,debrisだとすると量が多すぎるのも違和感を感じます.もちろん,重症肺炎があるためADL低下に伴う神経因性膀胱から膿尿になってもよいですが,今回は骨盤骨がヒントになります.

骨盤骨とfluid levelの高さが一致している

骨盤骨の高さとfluid levelの高さが一致しています.これがartifactを疑う所見です.
そういう目でみると全てのスライスで骨盤骨の高さにfluid levelが生じています.これは,photon starvation artifactと言われるものです.詳細な機序の説明は省きますが,beam hardening effectといわれるartifactでは逆のパターン,つまり骨盤骨側が低吸収にもなります.こちら(論文のFig.5)を参考にしてください.
いずれにしても重要なことは,膀胱内にきれいなfluid levelを認めた場合,骨盤骨によるartifactの可能性を考える必要があります.
基本的には,重力に従っているかどうかで鑑別します.論文にあるように体位が斜めの場合は,fluid levelも斜めになればdebrisではないと判断できます.今回のようにきれいな仰臥位の場合は,骨盤骨の高さが変化するにつれて,fluid levelも変化することで鑑別可能です.

この様に,スライスによって骨盤骨の高さが変化し,それに伴いfluid levelの高さが変化しています.これが膿尿やdebrisによるものであれば,重力に従うのでfluid levelの高さは変化しないはずです.

皮膚,骨,筋肉

右上腕骨大結節付近に,上腕骨偽嚢胞と思われる病変を認めますが,それ以外にあまり情報はなさそうです.

消化管

消化管は,特に有意所見はありません.食物残渣が胃内に少量ある程度で小腸はほぼ全域にわたって虚脱しており,結腸内の便塊も少なめで,肺炎のためしばらく食事が食べられなくなっていたものと推定されます.一方で痩せてはいないので,長くて1,2週間の経過ではないでしょうか.

肺野,心臓,大動脈

今回は,ここがメインになります.
先に軽症である左肺をみると,下葉にすりガラス影を認めます.
右肺上葉に小葉中心性の粒状影,斑状影,すりガラス影を認め,末梢に浸潤影を認めます.
中葉はほぼ全て浸潤影になっており,内部に気管支透亮像を認めます.
下葉は.気管支が追えず,喀痰で閉塞しているものと考えられます.

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