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タイ、ひとり旅、ある日の夜に。

むかし「タイは若いうちに行け」っていう有名なキャッチコピーがあったんだよ。
だから私も大学生っていう無謀で若いうちにひとりで行ってきた。

あれはねぇ、バンコクだったかなぁ。

安宿にチェックインして部屋に入ったらすぐにドアがノックされたの。おそるおそるドア開けたら、欧米の人っぽいビーサン半パン半裸小太りのおじさんが立ってて(終わった…)と思った。
ぼんやりと私をみつめるおじさん。固まる私。狭い廊下、塞がれた出口、後ろは三畳程の狭い部屋。逃げ場はない…
おじさんが英語で言った。
「あんた時計持ってる?」
「イエス」って答えた。
おじさん「わし時計ないねん、明日朝8時に起こして。向かいの部屋な。頼んだで、ほな。」って言って去って行った。

夜になって寝ようとしてベッドをよく見たらノミが何匹もぴょんぴょんしてて、どうしようかと思ったんだけど、その日はあまりに疲れてたから、思い切ってそのベッドに横になってみたの…。

寝れるわけなかった。

リュックから辞書引っ張り出して、「ノミ」のタイ語を念入りに確認してから、部屋を変えてもらうためにロビーに行ったの。そしたら従業員誰もいなかった。ベルも電話もないからね、絶望。

ロビーの前には東南アジアでよく見るあのプラスチックのテーブルと椅子が置いてあって、ふと見たらアフリカ系ぽい男性がひとり座ってたの。   
呆然としてた私にその人が「どしたん?」て声かけてくれた。私がタイ語で「ノミ、たくさん、ベッド」って言ったら、その人が「まじか〜」って。   
 (私が言うのもなんだけど、タイ語わかるんかい。)
続けて私は「寝れない」って言ったの。そしたらその人が「おれここに住んでるねん。おれの部屋で寝たらええで!」って言うのね。
ありがたいけど正直こわい。
「大丈夫、おれはここにおるから、あんたは1人でおれの部屋で寝たらええんやで」て言ってくれたから、ほんとかなぁ大丈夫かなぁって思いながら、その人の部屋までついて行った。
その人がドア開けて部屋に入ったから、私もまるで昔から知ってる友だちの家に遊びに来たみたいな自然な流れで続いて入った。
「どうぞ〜」ってベッドに案内されて、さすがにすわ!って身構えたけど、その人はすぐドアの方行って、「内側から鍵かけて寝てね!じゃ!」って出てった。
そのあとしばらくひとりで突っ立ってた。
なにこの状況。
しかもよく考えたら内側から鍵かけても、あの人鍵持ってるやん。と思ったけど、睡魔に勝てなくてそのベッドに倒れこんだ。

たぶん一時間くらいだったかなぁ、寝てたらトントントンてドアをノックする音がして、その人が戻ってきた。わぁ危ないかもと思いながら起きてドアあけたら、「ごめんごめん、ちょっとこれだけ取りたくて〜」って、何かわからなかったけど部屋にあったものをとりに来たのね。私はまだ眠かったしその人は「まだ寝ててええで〜」て言ってすぐ部屋を出て行こうとしてたんだけど、なんかやっぱちょっとこわくなってきちゃって、「ありがと!ほんとありがと!」って言ってノミだらけの自分の部屋に戻った。
でもさ、今思えばもうちょっと寝とけばよかったなぁ。

結局ほとんど眠れなくて疲れ果ててたけど、朝8時、向かいの部屋のおじさんのこと、起こしてあげたよ。

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