愚かさ故の格好良さ
NHKの「笑わない数学」が面白い。今、地上波で一番楽しみな番組かもしれない。
もともと数学には興味がある。当時は文学や歴史が好きで文系に進んだが、数学自体に苦手意識もなく、まずまずの成績を収めていた(ような気がする)。微分積分ぐらいから苦しくなったのだが、今でも数学系の読み物は借りたり買ったりしている。無限やら虚数やら、想像力を掻き立てるテーマが多いことと、実は矛盾性を抱えているという哲学的なところに、とにかく魅力を感じてしまう。
で、そのようなテーマを一つずつ丁寧に掘り下げてくれるのが「笑わない数学」である。自分の浅い知識では第1シーズンでやり切ったのでは無いかと考えていたが、まさかの第2シーズンの面白さであった。
完全なものを追い求めた末にゲーデルの不完全性定理により根底から覆された数学理論の歴史。数学的思考から始まった結び目理論が、宇宙の構造を解く鍵にもなり得るという壮大さ(この辺りは浅い理解ですのでご容赦ください)。それが30分足らずでそれなりに飲み込めるから大したものだと思う。
内容や構成も素晴らしいが、スタッフも素晴らしい。まず進行パンサー尾形という人選が完璧だ。彼のキャラが実に合っている。あれ以上に理解度が高くては鼻に付くので、よく目にする高学歴芸人(これも鼻に付くネーミングだ)ではいけない。あれ以下に理解度が低いと、番組全体の探究度も下がることになり、物足りない。尾形も「おバカキャラ」を売りにしているが、彼の愚かさは愚直な愚かさである。そして彼は自分のその愚直さをよくわかっている。そうでしか芸能界では生き残れないことも、それは恥ずかしいことでもあるが武器にもなるということもわかっている。だから、馬鹿正直にこの番組に向き合っている。時にはそこまで愚直になれないスタッフに檄を入れることもある。それがまた観ていて心地よい。この番組は進行役がいなくても成立するのだが、彼の存在は番組の魅力には欠かせないものとなっている。気になったので公式サイトを覗くと、「尾形が数学の難問を解説する番組」となっていた。しかし、彼は解説者では無い。かと言って司会者でも無い。勿論他のスタッフとも違う。何と表現すれば近いのかと考えた末、とりあえず彼はこの番組の「道化」ではないか、というところに辿り着いた。数学という圧倒的な存在に愚直に立ち向かうその姿は、風車に突撃したドン・キホーテのようでもあり、格好良さまで覚える。そう言えば、ドン・キホーテも狂人としてではなく、騎士として巨人(彼には風車がそう見えた)に立ち向かったのだったな。
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