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豪華客船の旅の本当のところ


豪華客船のざっくりした話

豪華客船の旅に行ってきた。タイタニックみたいな船に乗って外国行くあれ。船の名はダイヤモンド・プリンセス号。数年前に横浜港でパンデミック開始の狼煙をぶち上げたあの船だ。

豪華客船とは言ってもクルーズ旅行にはランクが3段階ある。富裕層が乗るのはラグジュアリークラスのすごい船で、これは僕が乗った船の4倍以上の船賃がかかる。良い部屋だと執事が付いたりするらしい。
一番お手頃なカジュアルクラスの船は家族向けで、テーマパークに近いものだ。巨大な船に何千人もの乗客を乗せて利益を上げる。
僕が乗ったのは真ん中ランクのプレミアムクラス。このクラスは富裕層はほぼ乗ってこないし、小さい子供のいる家族連れも少ない。リタイアした熟年夫婦や、成人した子供と両親、という感じの客層だった。

デッキで読書したりジョギングする人も多い

でもお高いんでしょう?と思うのも当然で、旅行の選択肢に船旅を入れない限り船賃なんか知らないと思う。と言っても最近はテレビ通販などでも「豪華な船旅がなんとこのお値段で」などとやっているらしいので、知っている人もいるかもしれない。クルーズ旅行の旅費は、実は海外旅行の旅費としてはかなり安いものだ。

ざっくりした話になるが、海外までの移動交通費と、宿泊費と、旅行中のすべての食費、全部込みで1日あたり1万5千円くらい(1ドル145円計算で)に抑えることが可能だった。1週間の旅程だとして、同じことを航空機の旅でやるとなると相当な安ホテルに泊まったり、いろいろ苦労することになるだろう。船旅にその手の苦労は全然ない。
ただ時間はものすごくかかる。移動自体を楽しむ旅なので仕方ない。

という感じでクルーズ旅行は安上がりなのにちょっぴり豪華な旅が可能だ。ただし、船の中は様々な誘惑が渦巻いており、楽しんでいるうちにどんどん散財してしまうように練り上げられた恐怖のトラップ船でもあるのだ。
乗ったことがある人には無用かもしれないが、船内生活がどんな感じだったかお話をしようと思う。

部屋と船内施設のこと

僕が泊まった部屋は窓側バルコニー。安いクラスの部屋では一番いいのがこれで、海に面したバルコニーにテーブルと椅子があり、日向ぼっこや読書ができる。万が一の時には脱出もできそう。
もう少し安いとバルコニーのない窓だけの部屋、さらに海が見えない内側、という部屋がある。正直言ってバルコニーで海を見るのもデッキで見るのも変わらないので、気にしないのであれば内側でも何の問題もない。部屋の広さに差はなさそうだった。
逆に高額なスイートルームは何段階にも用意されていて、こちらは1.5~3倍の料金なので手も足も出ない。

僕の船室。想像していたより広い

部屋は地方都市ビジネスホテルの部屋くらいの広さ。冷蔵庫やテレビ、ドライヤーやケトルなど普通にある。バスタブはスイート以上の部屋にしかないので、半畳ほどしかないシャワーブースで済ます。狭いと言えば狭いが、それでも大量のハンガーがかけられるクローゼットなどがあり、収納は多いほうだと思う。
テレビでは船内情報や寄港地の観光情報などの他、映画なども観れる。まだ日本公開前の映画なんかも観れた。字幕がある映画もあった。
Wi-Fiは有料で使える。スターリンクなので天候に左右されるがダウンロードは早い。ちなみに利用料金は結構高い。お得なパッケージがあるので僕はそれを利用した。

シャワーは洗髪してると肘が壁に当たるくらい狭い

船内設備は多種多彩で、プールが4種各所にあり、バーは10種以上、レストランも10種以上、劇場、屋外ムービーシアター、カジノ、絵画ギャラリー、スパ、ジム、スポーツコート、浴場、ネットカフェ、図書室、土産物屋、ブランド免税店。その他にも有料区域「サンクチュアリ」や、幼児から少年までがイベント体験できるティーンセンターなどがある。もはや僕が住んでいる町より充実している。
また、「メダリオン」というメダルを乗船時に渡されていて、それが部屋の電子キーになり、船内会計などにも使われる。スマホのアプリでドリンクを注文すれば、船内のどこにいてもメダリオンで場所を特定して、コーヒーでも何でも持ってきてくれる。これは超便利だった。

長くて客室エリアの廊下の突き当りが見えない

イベントについて

毎日毎時、各所で何らかのイベントが行われている。それらは好きに参加してよいし、参加せずに部屋でテレビ見ていてもいい。寄港地で降りて観光するもよし、降りずにイベントに参加していてもいい。別にプールサイドで半日寝ていてもいい。

劇場では日替わりでショーイベントをやっている

僕は午前中に行われていた「コントラクトブリッジのプレイヤー親睦会」というイベントに参加して楽しくも酷い目に遭ったが、それはまた別の話なので違う所で書こうと思う。
連日ズンバのイベントに参加して踊りまくる元気な年配の方々がいると思えば、アートオークションで絵画を300万で落札する老紳士がいたり、ビンゴ大会やカジノで賭けまくる人々がいたりする。
そんな感じで各々好きなことをして楽しむ。

参加したコントラクトブリッジ愛好家の集い。激ムズゲームでボコボコにされた。

それらのイベントのうち、販売営業を兼ねたイベントがいくつか隠されている。香水の香り当てのような簡単なクイズに答えたら割引券進呈のようなヤツだ。イベントの時間内だけ使える割引とかで、最後の方で商品を販売し始める。悪質なセミナーのようなタイプではないのでしつこくないし、断って解散することも容易なのだが、がっつり商売しに来てるなぁと現実に引き戻されるので僕はあまり参加したくない。とはいえむしろこれを目当てに乗船している人々もいるくらい常に参加者多数でもある。興味がある物ならお得な買い物としてアリなのかもしれない。
そういう買い物イベントに興味がなくても、ほとんどは単に娯楽を提供するイベントなのでそこまで心配いらない。

毎日部屋に届くイベントリスト。イベントがない時間がない。

船内ドレスコードについて

フォーマルデイという日が数回ある。その日は夕方以降に船内を歩くとき正装していなければいけない。男性ならダークスーツ、女性ならイブニングドレスなどだ。
この日は皆が勝負おしゃれ着で船内を練り歩くので、ラウンジなどにいると派手な衣装がたくさん見れて楽しい。カメラマンが大勢出現し、そこらじゅうで撮影しまくる日でもある。この写真は下船日までの間なら買う事ができる。それなりの値段はするが皆記念に買っている。

とは言え、フォーマルデイでも半袖短パンで歩き回るおじさんもいるし、ポロシャツ程度でレストランに来る人もいる。別に追い出されたりはしない。全体的にとてもドレスコードは緩く、あってないようなものだ。と言ってもさすがにショートパンツでフォーマルスーツの人々の中に入ると悪目立ちはする。

食事について

まず基本的な事として、旅行中の船内での食事は旅費に含まれている。つまり何を食べても支払いの必要はない。例外として数か所の特別なレストランは有料。また、アルコールや炭酸飲料類も有料だ。とはいえコーヒーや紅茶は無料のドリンクバーで無限に飲める。
つまり、窯焼きピザを何枚食べてもいいし、タコス食べてアイスクリーム食べてケーキとコーヒー10杯がぶ飲みしても追加の支払いはない。

ビュフェのデザート。何個喰らっても無料。

船内にはドレスコードのあるディナーレストランが複数ある。毎晩利用しても構わないが予約が必須だ。フルコースを注文してもいいし、何か1つだけ頼んでもいい。これも旅費に含まれている。毎晩フルコース食べても一切追加の支払いはない。

もっと気軽に食べたいならビュフェで世界の料理が楽しめる。30品目くらいの規模で、時間に応じて違うメニューを出してくれる。ドリンクバーなどは24時間開放されている。ビュフェはいつも人気で、乗組員もよく利用しているのでショーのダンサーが隣の席で食べていたりする。これももちろん旅費に含まれているので食べ放題。
さらにプールサイドにハンバーガーやピザ、アイスクリームのスタンドがあり、どれも旅費に含まれているのでピザを何枚食べてもいい。

タコスとチリビーンズポテト

これら無料の食事では満足できず、特別な料理が食べたいなら追加で支払う必要がある。船内には寿司、イタリアン、ステーキそれぞれ専門の店があり、どの店も30ドル前後払えばコースを選べるシステムになっている。

食事の質について

いくら食べ放題でも箸が進まないのでは意味がない。食事の質はどうだったか。ただし僕は美食家でも何でもないので、一般人の感想でしかない事には留意してほしい。

ビュフェは日本国内のホテルバイキングのディナーと同程度に美味しい。ピザ、ハンバーガースタンドはかなり美味しい。ファストフードより確実に上だと思う。ピザに関しては受賞歴すらあった。
しかし予約制ディナーレストランが問題だ。ここのフルコースは基本的にその日ビュフェに出ているものを皿に盛って出してくるだけ。特別なのはコースのメイン皿で、これはビックリするようなのが出てくる。日記を書いていたのでいくつか引用する。

「500グラム以上ありそうな巨大な肉の塊の横に、特大の皮付きジャガイモが丸ごと。脇にブロッコリーが2~3個転がっていた。味付けは薄いグレービーソース。食べきれなかった。驚きのあまり写真を撮るのも忘れていた。」

別の日。
「今回はメインに和食があるというので頼んでみた。鮭の味噌焼きと書いてあった。
すごいのが来た。日本で出るような一般的な鮭の切り身の5倍ほどの大きさの鮭が皿に乗っていた。味噌を塗って焼かれた幅広い皮が銀色に光っている。おそるおそる口に入れると、味噌は田楽味噌であった。甘ぁいの。食べきれなかった。やはり写真どころではなかったので撮り忘れた。」

これ以降ディナーレストランには行かなくなった。

さて、有料レストランも行ってみた。
まず寿司。メニューから握り、巻き、刺身、サイドをそれぞれお好みで選択するシステムだ。握りは江戸前だが、巻きはカルフォルニアロールのような海苔が内側のタイプしかない。
肝心の味は、回転寿司よりちょっと良い寿司のような気がした。変わったロール系も、そういう物として美味しかった。味噌汁が普通でほっとする。

握りよりロールが主役っぽい。どれも予想より美味しかった。

イタリアンレストランも行ってみた。メニューから前菜、スープ系、メイン2種を選ぶ。豆スープやラザニアを頼んだ。ここは日本のちょっと話題のイタリアンの店くらい美味しかった。量もたっぷり。この店は海外の乗客でいつも混んでいて、みんな有料でも美味しいものが食べたいと思っているのがよくわかる。

ラザニア。写真だとわからないが大きい

という感じで、無料と有料で明確に味の差がつけられている。笑っちゃうくらい露骨なのであまり嫌な気もしないくらいだ。ディナーレストランはあまりお勧めしないが、ビュフェがそこそこ満足するレベルなので有料レストランに行かないまま下船する乗客も多そうだと思った。
僕はペパロニピザが美味しくて毎日食べていた。1~2キロ太って帰るのが普通だと旅行代理店の人が言っていた。さもあろうと思う。

ドリンクに関して

ドリンクは有料でも飲まざるを得ないタイミングがある。まぁ無料の水くださいと言えばいいのかもしれないが、美味しいもの飲んだ方がいい体験になるので飲み物くらいは気にせず注文して飲んだ方がいい。船オリジナルカクテル類やラテ類はどれも美味しい。
ちなみに飲み物頼み放題パッケージのようなものも用意されていて、料金を気にするよりそっちの方が断然お得だし楽しい。アルコール類は高いので1日に2~3杯飲むなら元が取れるはずだ。

カジノについて

海外の船なのでカジノがある。
法律の関係で、港から遠く離れないとカジノはオープンできない。バーも併設されていて、それなりの広さのカジノホールに各種スロットが数十台とテーブルゲームが5~6種ある。テーブルゲームはディーラーへのチップが必須。
航海中にカジノで使えるお金の上限が定まっているが、それでも熱くなる人にはお勧めできない。僕は100ドルでやめておいた。偉い。一回大当たりっぽいの来たんだけどダメだった。見た目はすごそうでしょう。

すごそうな当たりは出たけども

乗客同士の交流について

他人と関わり合おうとしなければ、ずっと孤独を楽しむこともできる。友達を作ろうと思ったら、イベントに参加すればいい。特に1人で乗船している乗客のためのイベント「独身の方や1人旅の人で集まりましょう」などに参加すれば新しいロマンスすら生まれそうだ。LGBTの人の集いもあり、それらのイベントはスタッフの同席もなくバーの1店舗を借し切る形で行われる。

イベント以外でも海外の乗客は皆気さくに会話を楽しんでいる。僕もプールサイドでゲームしている人に話しかけたりして一緒に遊んでもらったりした。図書室には本以外にボードゲームが多数常備されていて、自由に借りて遊べる。僕も図書室のクリベッジボードやドミノを持ち出して初対面の方と遊んだ。

ニュージーランドから来たウェス氏とクリベッジで遊んだ

客室エリアにはコインランドリーがあり、数ドルで洗濯乾燥をセルフでやれる。そこで会ったアメリカ人老夫婦に、残り時間が1時間も余った洗濯機を譲るから君が使えと勧められてありがたく使わせてもらった。乗客はフレンドリーな人が多く、困っていればすぐ助けてくれるし、誰かが困っていたらこちらからも声を掛けたくなるような雰囲気が船内にはある。

船内の案内板などに日本語はあるし、日本語を理解するクルーも少数いるが、英語は多少わかる方が絶対楽しい。僕も英語能力は中学生程度しかないけども、そのくらいでも相手に理解しようという気があればコミュニケーションは楽しくできる。数日過ごしていれば英語で軽口くらい叩けるようになる。
ビュフェでメンマを指さしたアメリカ人らしい老女にコレなぁに?と聞かれた時は何と答えていいか困った。バンブースライスのソルティボイルドとか言っておいた。発酵食品なんて英語知らないから。バンブー食べるのねと驚いていらした。

プールサイドのバーでボーっとしてるとよく話しかけられる

台風。揺れと計画変更について

船なので海が荒れていれば多少は揺れる。それでも巨大な船だからか、ほとんど気にならない。なにか揺れを制御する機構があるのかもしれない。僕は乗り物酔いに弱いほうだが、酔い止め薬を飲むほどではなかった。海の荒れ方が多少なうちは。
実は航海中にトリプル台風が発生してしまい、海は大荒れ。7メートルの波に揉まれた時はさすがに揺れに揺れた。航海予定も大幅に変更され、船長からアナウンスで寄港地を一つキャンセルして安全な航路を取る旨が伝えられると、船中あちこちで失望の声があがった。こういう場合も返金されないらしい。

嵐で大揺れの夜中、誰もいない波打つプールに入ってみた。サーフィン用の波プールみたいになっていたが、水泳は覚えがある。どうせ子供や老人が泳ぐようなプールなので浅かろう。
入ってみたら水深2メートル20センチあった。波に揉まれて足もつかずに溺れるかと思った。大波でプールサイドに打ち上げられて脱出。こんなことしちゃダメだ。その後すぐプールは閉鎖されていた。

網で閉鎖された後の波打つプール

その後、震度3が永遠に続いてるような部屋で眠くなるまで映画でもと思い、ホラー映画を観た。揺れる部屋で見るホラー映画は筆舌に尽くしがたく気色悪い。ついに酔い止め薬を服用して気絶するように寝た。寝ている間も揺れているのがわかるくらい揺れていた。
これを書いている今、下船してから何日も経ったのに時々まだ揺れている感覚がある。脳にも相当負荷がかかったのだろう。

旅の終わりの下船日の前日の夜、船長から再びアナウンス。横浜港が台風で封鎖されているので1日オーバーステイするという。船内は軽くパニックとなった。
情報錯綜する中、日本人は廊下やエレベーター前、階段の踊り場などに出てきて情報交換しまくっていた。普段廊下ですれ違っても一切話しかけもしないし挨拶すら怪しいのに、緊急事態になると手当たり次第に声をかけてお互い喋りまくる。情報が人から人へガンガン伝わっていく。緊急時はシャイおじじゃないんだなと頼もしい反面、デマが流布するのってこういう状況だろうなとも思う。
下船日が変更になったので、帰りの航空便などを変更するため外部電話回線が無料開放された。船賃の追加料金もなし。

最終清算してみて

船内生活は他では得難いくらい楽しいものなのだが、帰宅後に初期旅行費用以外にいくら使ったか見て青ざめること請け合いだ。とにかく基本料金だけでは過ごせないようになっている。いや不可能ではないが、絶対に有料サービスを使わないという決意と鋼鉄のハートを持ち合わせていないと、基本料金だけで航海終了まで過ごすのは至難の業だ。
というか、節約してお得な旅をしようと思っていると、この船旅の楽しさの半分も味わえないだろう。せっかく乗ったなら楽しまないと逆に損だと思う。
そう考えて楽しんで、船を降りたらビックリ。旅行中に旅費と同額くらい散財していることになる。それでも航空機での旅行にはもう戻れないかもしれない。ぼく飛行機は怖いし。

天国では皆が話す 海のこと 夕陽のことを あのバカでかい火の玉を眺めてるだけで素晴らしい 海と溶け合うんだ  ロウソクの光のように1つだけが残る  心の中にな 
「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」

トータルで考えてクルーズ旅行はとても良い、楽しいものだった。本当に気に入っている。次回以降の旅行の際にも候補には必ず上がるだろう。特定の都市などで観光をじっくりしたい場合は候補から外れるが、のんびりするのが目的の旅ならまた乗ると思う。
他社には短い4日くらいのコースもあるらしい。それくらいなら長く休みを取れなくても手を出しやすそうだ。船旅は良いものよ。未経験なら是非。

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