短編 冬の蜜蜂

その日ベランダでタバコを吸っていると足元に小さな生き物が降ってきた。

蜜蜂だ。

11月も終わりに差し掛かる頃、
今年はえらく寒くなるのが早かったので
蜜を集める途中寒さに耐えきれず飛ぶことができなくなったのだろう。

可哀想に
そう思いながら私は手元のスマホで蜜蜂の飼い方を調べた。

調べども調べども個人で行う養蜂ついての記事ばかりだ
私が知りたいのはそんなことではない。

私が知りたかったのはたった一匹のミツバチを救う方法だった。

数十分に及ぶ検索も虚しく
もしこのミツバチを飼うことが出来たとしてもそう長くはもたないようだった。

せめてアスファルトの上ではなく土に返ってほしいと願って、
枯葉を使い花壇の落ち葉のベッドの中へ入れてやると
ミツバチは力なく足を少し動かした。

私は罪悪感に駆られた。
やっぱり部屋の中へと入れてやった方が良かったのではないか。
砂糖水でもやればこの小さな命を繋ぐことが出来たのではないか。

だが闇雲に自然の摂理に逆らうよりも
この蜂が真っ当に生き、成し遂げたことを忘れず生きてゆくだけで手いっぱいだった。

私の頭の上でぶーーんと何かが音を立てた
大きな銀蝿だった
とても弱っている様には見えない。

先ほどのミツバチと比べて3倍ほどの大きさである。

私はこのミツバチのように生涯立派に働くこともできないし
この銀蝿のように強く羽ばたくこともできない虫けら以下の存在だ。

そう感じた初冬の昼下がり
私はベランダを後にした。

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