体験談A⑤

夜、彼から時間をとれるか連絡がきた。
わざわざそんな確認をしてくるのが珍しいので身構えたが彼の事だから大した用事ではないだろう。

そんなことよりも昨夜の事だ。
二日連続で会社の先輩に泊まりに来てもらったので少しは心細さも紛れたが
ここ最近自分の身に起こっていることを改めて考えると気持ちが悪すぎる。
ましてもう何年も隣の部屋に住んでいる男が何らかの方法で私を監視しているなんて…

先輩と対策方法を考えてはみたが相手がどうやって私の前に現れているのか分からないうえ、私と先輩では見えているものが違っているというのだからなおさら訳が分からない。
私にはあの男の正面なんて見えていないのに先輩には見えているなんて恐ろしすぎる。
気は進まないがこの件は彼にも確認してみたいところだ。

そして何よりも私と深くかかわった人にだけ見えているというのがなんとなく腹立たしいような迷惑だという気持ちにさせられる。









「なぁ、引っ越さねえ?」
彼女の家で晩御飯を食べながら話す。
「どうしたの急に?」

「二人で暮らさないかなって。」
驚いた顔で彼女が返す。
「うん。」

想像よりもすんなりと帰ってきた返事に少しだけ気が抜ける
「その話の前に一個だけ聞きたいことがあるんだけど」
話しづらそうに彼女が語る
「最近ずっと言ってる男の人の事なんだけどさあ
正面見えてるんじゃない?」

驚いた
このことは彼女に話していないはずだ。
「おまえ、何で」
俺が話し終わる前に彼女が続ける
「先輩にも見えるようになったの
それで先輩、正面の顔が見えてるって
隣の男の人だって言ってた」
俺が知らない事実が増えてゆくことにさらに驚きを重ねていくが
よくよく思い出してみるとそんな気がしてならない。
今日寺で聞いた話とも合点がいく。
「そうか…」
昼の話を彼女にもするべきだと思った。
話し終えると彼女も妙に納得できたようでひとまず引っ越しをしようということになった。










後輩から引っ越しをすると聞いた。
彼女の最近の話を彼氏がお寺に相談した結果そう決断したらしい
元々同棲も視野に入れていたのでちょうどよかったらしい
でも隣の男の人の生霊ということだったが引っ越しくらいでどうにかなるものなんだろうか。

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