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やまがた 本山慈恩寺Ⅱ 八咫烏の謎

本山慈恩寺を訪ねて、もうひとつ発見。

修理中の本堂を出ると、すぐ脇には薬師堂と阿弥陀堂が並び建っていた。
薬師堂は人気のスポットで、そこには本尊薬師如来坐像および日光・月光菩薩立像(鎌倉時代)が安置されている。そして薬師三尊像の背後を守るようにして、有名な木造十二神将立像(鎌倉時代)が所せましと並んでいた。

国指定重要文化財 木造薬師如来と日光月光菩薩 慈恩寺HPより

お堂の中は無粋なバリアもなく、素晴らしい像を間近に観ることができた。もちろん監視員の方がいて不測の事態に備えて見張っていらっしゃるが、なんとも贅沢としか言いようのない眺めだった。

薬師三尊像ばかりではない。十二神将も国指定重要文化財で、保存状態がよく見事な彩色や塗漆を残していて、小さいながらも見ごたえ十分。それぞれの神将の頭部には十二支の動物たちが彫られていて、十二神将を目当てに慈恩寺にやってくる訪問者は多いと聞く。因みに鎌倉時代の戦乱期には全国的に十二神将像が造られたらしく、慈恩寺の像も名像として名高い。

木造十二神将のうち卯神将 慈恩寺HPより 甲冑を身に着け筋骨隆々
薬師堂内に並ぶ十二神将 東北観光推進機構HPより

ところで薬師三尊像である。

薬師三尊像はそれぞれのお顔立ちがかなり異なっている。『慈恩寺の文化財』(発行本山慈恩寺)によれば、本尊薬師如来はヒノキの寄木造、脇侍の月光月光菩薩はホウの木を前後に矧いだ造りである。本尊には銘が残されていて、延慶3年(1310年)仏師院保が京都で造像したとか。これに対し脇侍は少し下膨れのお顔立ち。こちらは慈恩寺で造られた像らしい。

この脇侍、日光・月光菩薩立像をよく見ると、長い柄の付いた日輪と月輪と思われる円形の造形物を手にしている。日光菩薩は日輪(太陽)をのせた蓮華を持つ姿で表されることがあり、その日輪の法力で輪廻の闇を照らすという。一方の月光菩薩は月輪(月光)をのせた蓮華を持つ。

あれ?小さな日輪・月輪に何か描かれている?
赤色の日輪には黒っぽい鳥が、白地には線描で動物らしいものが見えたが、なにせ視力が弱っていてはっきりと見えない。


「慈恩寺テラス」の寺カフェ 寺そばに間に合わず

???を抱えたまま寺を後にして「慈恩寺テラス」に戻ると、小さな企画展示室のパネル展示に気づいた。「慈恩寺の神獣といきものたち」(会期4・27~7・15)である。

パネルには拡大した図像が載っていて、それによれば日光菩薩が手にする赤い日輪には黒い八咫烏が、月光菩薩の月輪にはウサギの姿が描かれているという。月だからウサギの姿は想像がつくけれど、日輪に八咫烏はどういうことなのだろう?八咫烏といえば、おととし詣でた熊野本宮の記憶が頭を駆け巡る。

月輪のウサギ 慈恩寺テラス企画展示室リーフレットより抜粋
日輪の八咫烏 同じくリーフレットより抜粋

午後三時、「慈恩寺テラス」の寺そばも既に終わっていて、帰りの新幹線の時刻が迫っていた。後ろ髪をひかれる思いだったが、再びワンコインタクシーを手配してもらって帰路についたのだった。
※ワンコインタクシー制度は寒河江市の観光に欠かせない素晴らしい移動サービス。対象施設の移動に限りタクシー運賃がワンコイン(500円)になり、タクシーをお得に利用できる。

(追記)
日輪と八咫烏。このキーワードで後日調べると、思いがけなくも、おととし泊まった熊野湯の峰温泉郷「湯の峰温泉」が浮上してきた。宿のすぐ近くに東光寺という天台宗の寺院があり、その本尊薬師如来の旧厨子扉絵に日輪に八咫烏が描かれているという。伝承によれば、東光寺は温泉の湯の華が自然に積もって薬師如来のかたちになったものを本尊として創建したという。

湯の峰温泉 「東光寺」 フォートラベルHPより

これは「湯の峰温泉」に再び呼ばれているかもしれない。
日輪と八咫烏との巡り合わせ、なにやらご縁を感じる旅となった。


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