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脳卒中リハを考える:運動麻痺・麻痺の改善・動作の自動化の視点から


脳卒中の方のADLに大きな影響を及ぼす運動麻痺、SIASやブルンストロームステージなど様々な運動機能の評価ツールはありますが、同じ点数であっても患者さんごとに身体の動かし方は全然違いますよね。

運動麻痺の評価ツールはもちろん大まかな運動機能の状態をカテゴリー分けすることはできますが、個々の患者さんの抱えている状況をばっちり把握するためにはそれだけでは不十分だと感じます。

今回は脳卒中後の運動麻痺に関して、基礎知識と私の解釈を加えて、実際の臨床場面で運動麻痺を持った患者・利用者さんにどう向き合うか?を考えていきます。


運動麻痺とは?

脳の運動細胞から脊髄を通り、筋へとつながる神経経路が興奮することで筋緊張が変化し、関節が動きます。
神経経路は複雑で、筋へと指令を送る神経系は皮質脊髄路、皮質網様体脊髄路、前庭脊髄路など複数あります。
そしてそれらの経路は、大脳基底核や小脳など脳の様々な部位と神経ネットワークを持ち、目的や状況に応じて適宜調整されながら、関節運動をコントロールしています。


つまり、

脳→脊髄→筋

へと指令が伝わり、関節を動かします。
そしてそこには前述したように様々な脳の部位や神経経路が同時並行的に働き、全身の筋の緊張が目的に応じて変化することで、姿勢や動作を生み出します。


運動麻痺は、
「脳や脊髄、末梢神経が障害されることで随意的に手足などが動かしにくくなる状態」とされています。

骨折や肩関節周囲炎などの運動器疾患でも、運動障害が起こりますが、麻痺とは言わないですよね。神経系の損傷によって起こった運動障害を運動麻痺と呼びます。


ただ、実際には運動出力系の障害だけでなく、自分の身体を動かすには自身の内外の状況を認識するための感覚入力系や入力された情報を場面に応じて適切に運動プログラムを修正するような情報処理系が十分に機能する必要があります。

脳卒中の場合には、運動出力系だけが単独で損傷されることは少なく、感覚入力系や情報処理に関わる経路も併せて損傷されている可能性が高いです。

またもし運動出力系だけが損傷されているとしても、適切な筋収縮は起こせなくなるので、結果として動作パターンとしては病前とは異なったものになります。
そして動作パターンが異なるということは、その動作により入力される情報も病前とは異なるため、その情報を基にした運動プログラムも病前とは異なったものになってしまうはずです。


つまり脳卒中の運動麻痺は、

単なる運動の問題だけではなく、運動発現に関わる入力・情報処理・出力の一連のプロセスやそれに関わる神経ネットワークの問題


だと言い換えることができます。

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