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嚥下障害に対するPTOTSTでのアプローチ:BRIDGEセミナースライド③


なぜPTなのに嚥下?:2人のスーパーSTさんとの出会い

今回は、嚥下障害に対するPTOTSTでのアプローチ、をテーマに書いていきます!!!

まずはなぜPTの僕が嚥下に興味を持ったのかについて書いていきます。興味のない人は、目次から次の章まで飛んでくださいね★


PT→嚥下は守備範囲外

僕自身、若き頃は嚥下ってSTさんに丸投げだったわけですよ。いやだって学校で習った記憶ないし。

働き出してSTさんのカルテ見ても、「/k/r/★%$*〜」みたいなスパイの暗号が並んでる訳ですよ。そりゃもう絶賛スルーしますよね。
(STの皆様、大変申し訳ありません。ただの勉強不足です)


ただ僕は運が良いようで、最初の職場にいたSTさんが、今や世界で活躍している大学教授になっているスーパーSTさんでした(東海地区のSTさんなら知らない人はいないはず)。


1、2年目の時にそのスーパーSTさんと一緒に仕事をしていた訳なのですが、そのSTさんは今から15年ほど前から姿勢の重要性に気づいていたようで、

「こまつ、てめー暇だろ。私の臨床一緒に入って手伝え。」

とこんな言われ方は決してされていませんが(ものすごく人間できている方です)、一緒に何度も臨床場面に入る機会を頂けていました。

僕:姿勢に介入
スーパーST:口腔内に介入

しながら、スーパーSTさんは僕に、「今いいよ〜」「さっきのが良かったかな。戻して」「頑張ってその姿勢キープして」と毎回フィードバックをくれました。

その時はまだ、姿勢はSTさんの介入にも影響するんだなー、と浅はかながら感じていましたが、嚥下に関する知識がなさすぎて(そしてまだ嚥下のことを学ぶほどの余裕もなかったので)、

なぜ姿勢と嚥下は関係するのか?

は自分の中では曖昧なままでした。


訪問で直面した嚥下・構音障害の方の相談
1、2年目でおぼろげながらも、姿勢と嚥下は関係するだろうということは体験としてありました。が、PTなので若い頃の興味と言えば立位や歩行などの評価・介入や上肢・体幹・下肢の解剖学・運動学あたりに夢中でした。その後に脳科学や心理学、現象学に興味が移り、嚥下はといえばSTさんに丸投げ状態のままだったように思います。

5、6年目になると、自分なりに知識も増え臨床でも対応できることの幅が拡がってきました。その当時には訪問看護へ異動します。ぼくの勤務していた病院にはSTさんがいましたが、訪問看護にはSTさんがいませんでした。

訪問になると、基本的には週1、2回の介入なので、利用者さんは僕一人で担当していることがほとんど。利用者さんから見ればぼくは「リハビリの人」な訳で、PTもOTもSTも関係ありません。生活上で困ることがあれば僕に相談してきます。

そこで「最近ご飯が食べにくい感じがする」「何か喋りにくい」などいわゆるSTさんの分野についても相談されます。もちろん利用者さんに不確かな返事をする訳にはいかないので、訪問から戻ってから、「●●さん!ご飯ごちそうするので相談が…」STさんに泣きついてました。

同行して気づいたSTさんの強みと弱み
当時の職場は比較的自由度が高かったので、STさんが単位を調整し時間を作ってくれ一緒に訪問に行ってもらい、実際の評価や介入場面を見せてもらったり、姿勢への介入を僕がしながら、口腔内の変化を一緒に確かめたりする機会ができました。このあたりから徐々に姿勢の介入が、口腔内へ影響することがある。またSTさんはどのような所を臨床で注意して介入したり(強み)、逆に頸部から下の体幹や上肢、下肢については解剖や運動の知識や評価に苦手意識を持っている(弱み)人が多いんだなと感じるようになりました。

その後、7年目か8年目に最初の法人を退職して、回復期リハ病院、訪問看護ステーションと転々とするわけですが、そこではSTさんと意識的に関わるようにしました。

回復期では、昼休憩の時間の半分は病棟の食堂にいって、STさんの食事介入場面に一緒に入って、姿勢や視線、反応を評価しながら、STさんに摂食嚥下の変化のフィードバックをしてもらいながら一緒に悩むことを続けていました。

このあたりから嚥下に興味が湧き、舌骨周囲筋など嚥下に関連する筋を勉強し始めます。

嚥下関連筋の解剖を学ぶことで見えてきた姿勢との関係
この辺りは、記事内にどしどし書いていきますが、嚥下筋も、上肢、体幹、下肢と同様に筋肉の収縮や弛緩(筋緊張の変化)によってコントロールされています。安静時の位置や運動時のパターンも筋の走行がイメージできることで、取捨選択がしやすくなるんですね。

これは逆に僕がPTで筋や関節運動などを学生時代から学ぶ機会があり、触診や姿勢・動作分析が嫌いじゃなかったことから、意外にも抵抗なく入ることができました。今まで骨盤とか肩甲骨とかを見ているのと同じように舌骨や甲状軟骨の位置や動きを見る、つまり見るパーツが1、2個増えるだけの感覚でした。

二関節筋や筋連結、アナトミートレインなどの知識があれば、足部の問題がつながりを持つ筋・筋膜によって股関節にも影響が出たりします。1つの関節や筋の問題が、離れた他の部位や筋にも影響するということがあるんです。嚥下に関連した筋も肩甲骨や胸骨、頭部、下顎など様々な場所に付着しています。つまり上肢や頭頸部のアライメントの変化が舌骨・甲状軟骨に付く筋の緊張に影響を与える可能性が見えてきます。

STさん向けセミナーの開催とスーパーST(2人目)との出会い
姿勢と嚥下のつながり、そしてSTさんの強みと弱みが見えてきたことで、PTとして僕がSTさんのお役に立てることはなかろうか?と考えるようになりました。
それがまさにこの記事の大半の内容になるのですが…


・姿勢と嚥下筋のつながり
・舌骨周囲筋の触診と舌骨・甲状軟骨の動きの評価
・姿勢分析(もちろん全身の)

といったPTが得意な解剖・運動学的な見方から姿勢と嚥下をどう捉え、評価・介入に活かすか?といった部分であれば、僕の知識や経験がSTさんのお役に立てるんじゃないか?とセミナーを開催していくことになります。

多分それが10年目前後じゃないかと思いますが、そんなことやっていたら(多分他にあまりやっている人がいなかっただけでしょう)三重県での看護師会やPTOTST士会、そしてなぜか愛知県のST学会で講師をする機会まで頂けました。

自身主催のセミナーや、他団体様、また法人研修にも声をかけて頂き、STさんだけでなく多職種の方と接する機会が増えても、「嚥下はST」という意識の方が多く、嚥下は他人事のようになっているPTOT、介護、看護師さんが多かったり、STさん自身は嚥下に関わる口や舌、舌骨などの評価・介入はできても、姿勢を見ることや触診が苦手というSTさんを多く目にしました。

そんなSTさん向けのセミナーを開催していく中で、2人目のスーパーSTさんと出会います。

はじめセミナーは愛知県で開催していることが多く、その後三重県のPTOTST士会の研修に呼ばれたんですが、そのほとんどに参加しているSTさんがいたんですね。三重県士会の研修で一番前の席に座っていて、確か分かりやすい金髪(茶髪?)だから気づいて、「あれ?よく名古屋の研修出てくれてませんでした?」と声をかけたのがきっかけです。

研修中にも、他の若手PT・OTさんよりも全身のアライメント評価できてて、しかも腸腰筋の評価とか介入とかしてるーーーーーーー!STさんでそこまでやる人いるんだーと普通にびっくりしたのを覚えています。

それで研修後、興味が湧いて色々話を聞いたんですが、その方は職場で初めは一人STで、相談は主にPTOTさんだったとのこと。だから入り口からPTOTさんの考えに触れながら自分で色々な研修に出ながらSTとして学んでいたとのこと。

だからそのSTさんにとっては全身を見ることは当たり前で、解剖運動学的に嚥下を見るのは自然な流れだったようです。

同じような見方で姿勢や嚥下を捉えることができ、かつ僕よりも嚥下に関してはもっと細かな評価や介入をしているので、嚥下に関しては彼女から学ぶことの方が全然多かったです。僕は口腔内へのアプローチを直接することはなく、その分野にかけては彼女の方が毎日の実践の中での考察の方がもちろん深いので。

で彼女の実力や考えの深さを知ってからは、セミナーでアシスタントをしてもらうようになりました。知識もあり、さらにその場でのデモで、その場で被験者さんの評価・介入から変化を導くことができるSTさんだと思います。

そんな2人のスーパーSTさんのおかげで、嚥下に興味を持つことができました。

皆さんにとって、この記事が嚥下そして姿勢との関係性に興味を持つきっかけになれば嬉しいです★


ということでやっと本題!!!!


到達目標!!

note:嚥下障害に対するPTOTSTでのアプローチ.002

これは実際に研修で使った内容です。毎回研修では、最初に研修後の到達目標を設定し、参加者さんにお伝えしています。

この記事を読んでくださっている方も是非意識しながら読んでいただけると嬉しいです。

①姿勢と摂食嚥下の関係性について学ぶ!!!
そのまま!!(笑)

②PTOTSTそれぞれの考えや価値観を共有する!
実際のセミナーでは、PTOTSTさんの混合グループでディスカッションしてもらいます。意外に同じテーマでディスカッションすると、職種ごとやセラピストさんそれぞれに様々な考えがあることに気づきます。またPTOTSTさんそれぞれに強み、弱みがあります。自分にないものを持っている人には、その分野に長けた人に相談した方が僕は手っ取り早いと思っています。また相手の弱み、苦手な部分を理解することで、一緒の担当になった場合にはこちらがどこまでサポートするか?といったことが見えてきます。
職種ごと、個々のセラピストごとにお互いの強みを活かし、かつ自分の強みがあれば一緒に担当する他のスタッフの弱みをサポートすることで、患者・利用者さんのより良いリハを提供できると思っています。

また他職種や他スタッフの知識や持っている用語の理解が分かると、カルテ記載などでも「こう書いたら他の職種でも分かるかな?」「この用語や表現は、誰でも分かると思ってたけど違うかも。もう少し噛み砕いた書き方にしてみよう」といった風に活かせると思います。

誰も読まない、誰の役にも立たないカルテ記事はもったいないですよね。せっかく書くなら、他のスタッフに、そしてその先の患者・利用者さんにとって良き情報となるものにしたいですよね★


③担当患者さんをイメージしながら!
セミナーだけでなく、先輩のアドバイスや臨床見学をする時も一緒です。ただ知識だけ得たとしても意味ないです。僕たちは「患者・利用者さんの生活が少しでもより良く変化するため」に知識を得ようとしているはずです。基礎知識は大切ですが、臨床ではそれがそのまま当てはまらないこともありますし、他の要素が絡み合って問題はより複雑化しています。
この知識はAさんの評価・介入に役立つかもしれないな。
Bさんは、これに当てはまらないけど、何で違うんだろう?
Cさんは高次脳機能障害もあるから、こんな風に介入をアレンジした方が良いかな?
など、常に「明日関わる患者さん」を想定しながら読み進めて頂けると良いかなーと思います。


あなたの食事のポジショニングの基準は?

note:嚥下障害に対するPTOTSTでのアプローチ.003

ではここでシンキングタイム!!!

「あなたは食事のポジショニングで何を気にしていますか?」

です。

食事のポジショニングの時、あなたは

・何をポイントにしていますか?
・ポジショニング前後で何を見て効果判定していますか?

これを考えてみてください。

ではどうぞ!!!


できればPTOTSTで考えて、その後共有してみてください!

「食事の」ポジショニングといっても、様々な見方、考え方があることに気づけるはずです。


では考えたら↓にどうぞ!


ポジショニングの提案で考えて欲しい2つのこと

note:嚥下障害に対するPTOTSTでのアプローチ.004

まず1つ目!
食事の際のポジショニングであれば、ポジショニングをすることで

「食事や摂食嚥下にプラスになっているか?」

が重要になるわけですよね。

ポジショニングによって、
・むせ込みの回数が減るのか?
・むせ込み出現までの時間が延長するのか?
・口腔内の食物残渣が減るのか?
・食事時の疲労の出現が減るor延長するか?
・上肢の自由度が向上し、食物を口に運ぶまでがスムーズになるのか?

などどのようなメリットがあるか?またデメリットも評価した上で、どんなポジショニングがよりメリットが大きいか?を考えながらポジショニングを提案していくことが大事ですよ!

意外に勘違いしやすいのは、
「良い姿勢=左右対称」

だと盲信してしまうことです。もちろん左右対称にすることで体幹筋への負担は減るかもしれませんが、そもそも多くの方(健常者も含め)左右対称な姿勢で常に生活していたり、食事を取っているわけではないですよね。もちろん体幹の傾きにより腰痛が出ているといった場合には考慮する必要がありますが、食事のポジショニングでは上記のポイントなどを踏まえて提案することも大切です★


そしてポジショニングの提案で考えて欲しいこと2つ目!

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「提案するポジショニングは、将来の食事動作にポジティブな影響を与えますか?」

もちろん誤嚥はリスクが高いためにできる限り、誤嚥のリスクを下げることを優先してポジショニングする必要があります。ここはSTさんや医師と相談しながらですね。

ただギャッジアップの角度が低い(背臥位に近い。よく言われるのはG-up30°)ほど、重力を利用し食物が食道へと流れやすく誤嚥のリスクは少ない姿勢と言われています。

もちろん安全のためには必要なことですね。でもSTさんの介入により嚥下の能力が向上してきたら、徐々にギャッジアップの角度を上げ、
「重力下において自身の重さをコントロールしながらも、摂食嚥下ができる」食事能力の獲得を目指す必要があります。
ギャッジアップの角度が低いほど、自身の重さはベッドで支えてくれることになり、自身の筋肉をコントロールする能力を必要としません。

将来的には、食堂に椅子(背もたれあり)に座って、いずれは背もたれなしの椅子でも座って食事が楽しめるように★ともちろん疾患や状態にもよりますが、将来像をイメージしながら、一度提案したポジショニングは完成ではないので、適宜見直ししながらポジショニングをアップデートしていく必要があります!


良い姿勢って何だ?

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さて、では上図の左右のガイコツさんはどちらが良い姿勢でしょうか?

まぁ言わんでも…分かりますよね…


心の澄んでいるあなたでしたら、左のオレンジガイコツさんが良い姿勢と言うはずです。

でもでもでもでも…↓


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なんでオレンジガイコツさんの姿勢が良いのでしょうか?

その理由はなんですか?


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上図にもあるように、

「良い姿勢」の定義が曖昧だと、なぜオレンジ色の姿勢が良いのかをちゃんと説明ができません。

定義、というと大げさですが「何をもって良い要素か?」の判断基準を自分なりに持っているか?が臨床現場でその瞬間瞬間の変化が良いのか?悪いのか?を判断しながら臨床を進めていくために必要です。

もちろん、そこには関節のアライメントや筋、感覚入力などを含めた姿勢制御の知識など様々な視点から考えていく必要があると思います。

人それぞれにその考え方や見方はあると思いますが、姿勢に限らず今自分のとっての判断基準は常にアップデートしていくことが大切ですね★


姿勢の評価をしてみよう

ではまず紙と筆記用具を用意して、下の画像の姿勢を絵に描いてみてください。


絵に描くんですよ!

字で、
・右肩甲骨下制
・頭部右側屈

みたいでなく絵に描いてくださいね!

では張り切ってどうぞ!目標は5分(できれば3分で目標は1分以内)‼️

note:嚥下障害に対するPTOTSTでのアプローチ.010

はい、できるだけ短い時間で特徴を捉えて絵にしてみてくださいねー!

できるだけ短い時間で姿勢を捉えるようにトレーニングをしてください。
実際の臨床場面では、評価のために時間をもらえることは少ないですし、もし時間があったとしても、姿勢分析だけに時間を取られれば他の必要な評価もできなくなりますからね。

友人同士で練習するのであれば、まずは時間を自分なりに「10分」で!と先に設定してからどれだけ描けるのかをチャレンジして、徐々に時間を減らしていってみてください!

では、描けたら下に進んでくださいね。

ちゃんとやりました!?

自分で考える癖、まずはやってみる癖をつけないと経験値は増えないですよ!


note:嚥下障害に対するPTOTSTでのアプローチ.013

今回は前額面だけです。

赤:耳の穴を結んだ線
黄:肩甲骨と左右の肩峰を結んだ線
青:胸郭と第10肋骨下端を結んだ線
緑:骨盤と左右の上前腸骨棘を結んだ線
黒:脊柱(見にくくてすいません)

もちろん実際には触診と合わせて行ってくださいね。
見た目と実際触れるとイメージと違うなんてことは多々ありますので。そのためにも上に挙げたパーツ(ランドマーク:骨指標)は触れるようになっておくと良いと思います!



姿勢分析の目的とは?

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