20200312_結婚式が富裕層の娯楽になる日

結婚式が富裕層の娯楽になる日(2020/3/12配信)

※本記事は毎週配信しているメルマガ「ブライダル業界の"裏"知恵袋」の過去ログです。ご購読希望の方はこちらから(無料)。

こんにちは。
ブライダル業界の知恵袋を運営しているアナロジー代表の市川です。

メールマガジン「ブライダル業界の"裏"知恵袋」では、毎回1つのテーマやトピックについて、ブログでは書けなかった内容をより深く・本音でお送りしています。

第22回目はテーマは「結婚式が富裕層の娯楽になる日」です。

元になるブログ記事はなく、完全オリジナルでお送りします。ちなみに、今回ポエムっぽいタイトルですがひたすらお金の話です。



突然ですがクイズです!

今回のメルマガはクイズからスタートです!
次の5つの問題を考えながら読み進めてください。回答はこのセクションの下の方に書いてあります。

【問題】
Q1.直近の国内結婚式の平均単価はいくらでしょう?

Q2.下記の上場企業5社の直近の平均単価はいくらでしょう?
・テイクアンドギヴ・ニーズ
・エスクリ
・ブラス
・AOKIホールディングス(アニヴェルセル)
・アイ・ケイ・ケイ

Q3.日本人の平均婚姻年齢は男性/女性でそれぞれ何歳でしょう?

Q4.平均婚姻年齢の男性/女性の平均年収はいくらでしょう?

Q5.平均婚姻年齢における手取りの平均はいくらでしょう?


ちょっと考えてみてくださいね。




【答え】

A.1:354.9万円
※ゼクシィ 結婚トレンド調査2019調べ

A.2:下記の通り。
・テイクアンドギヴ・ニーズ:393.5万円
・エスクリ:374.8万円
・ブラス:385.4万円
・AOKIホールディングス(アニヴェルセル):437.8万円
・アイ・ケイ・ケイ:411.1万円
※各社IR資料より

A.3:男性:33.3歳/女性:31.1歳
※厚生労働省 平成 28 年度 人口動態統計特殊報告

A.4:男性:483万円/女性:375万円
※doda

A.5:男性:378万/女性:298万円

※は情報ソースです。

さて、どれくらい当たりましたか?

ちなみに、各問の回答を1つのグラフにまとめると次のようになります。

結婚式の平均単価と結婚平均年齢時の年収&手取り


結婚式の単価と平均年収

全国平均の組単価は男性の年間手取り額とほぼ同額で、労働時間換算すると二人が約1000時間ずつ働いて稼いだ給料を一度の結婚式(約3時間)で使い切ることになります。

もちろんご祝儀や親からの援助もあることが多いので新郎新婦の全額負担ではないですが、単純に労働している時間の約700倍濃度の体験を結婚式で提供できて初めてコスパが合う計算になります。

抽象的な概念なのでパッと聞いてピンと来ない方がほとんどでしょうが、なかなかにすごい比率だと思いませんか?

仕事700時間の対価=結婚式の1時間の価値
└日本の平均年収の人でこの比率です。

そうかなるほど700倍か!とか考えて結婚式をするかどうかを決める人はまずいないですが、感覚的にこのお金があるならこんなことできるな…みたいなのはこれくらいの尺度で考えているはずです。

これ、自分でも調べるまであんまり具体的な数字のイメージを持っていなかったのですが、思っていた以上に結婚式の単価って今の社会環境と照らし合わせても高いんだなと思いました。。



結婚式場はこれから何を目指すのか?

今回クイズを出した上場各社のIR資料にある単価に関する方針を見ると、おおむね高単価を「好調」と表現し、今後も商品力強化による単価アップを継続して目指す、のような内容となっています。

投資家向けの資料なのでそう書かざるを得ない背景もよくわかりますし、社員やその家族に還元していくために業績の向上と安定化は必須なので、この方針自体が間違っているとは1ミリも思わないですし、これはこれでいいと思います。

一方、金銭的な面でこれだけユーザーの負担になっていることは現時点ですでに事実であり、仮に各社の方針がうまくいってしまうと、この負担レンジは今後もどんどん乖離していくでしょう。

そうなるど、もはや平均的な年収世帯のカップルであっても結婚式を挙げるために二人の年収合計の60%近くを費やさなければならず、挙げたいけど経済的に無理という状況にそう遠くない将来なっていくと思います。

そうするとよりなし婚が増えて平均年収以上の所得のカップルの獲得競争が激化し、さらに単価が上がり…、というサイクルが続いていくことになります。

このサイクルが今からもう2周くらいすると、結婚式は完全に富裕層しかできない商品になるんじゃないかな。

「あの人、こないだレクサス買ったんだって」
「え、まじ、めっちゃ金持ちじゃん」

と同じく、

「あの人、今度結婚式挙げるだって」
「え、まじ、めっちゃ金持ちじゃん」

こんな会話が同じくらいの感覚でされるようになるのかな、と。



結婚式の高級商品化が招くご祝儀文化の崩壊

個人的な意見としては、こういった流れ自体は悪いものではないと思っています。

文化的な背景はあるものの、結婚式って挙げなくても致命的なダメージを受けるものではないし、多様化が加速していくこれからの時代の中では、挙げる人も挙げない人もいていいよね、くらいの方がマッチしていると言えるでしょう。

ただ、なし婚層が増え結婚式を挙げる人との割合が逆転したときに最初に崩壊すると思うのが「ご祝儀文化」です。

・そもそも自分は結婚しても経済的に挙げる気がない
・そして今の自分の生活はカツカツ
・しかも結婚式を挙げる人は富裕層(だと考えている)
こんな人が結婚式に呼ばれて、自分より富裕層に対して3万円という大金払ってまでお祝いしたいと思いますかね?ア、ワタシココロセマイデスカ?

もちろん人にもよると思うのですが「呼んでくれるな」みたいな空気感も出てくるんじゃないかなと。で、欠席する→ご祝儀集まらない→今のブライダル業界の市場規模の7割はご祝儀でできているのでビジネスモデルが崩壊する→自己負担だけで開催できる超富裕層に限定される、というシナリオ。

となると生き残るのは超富裕層を相手にできる結婚式場やプロデュースだけ、他は残されたわずかな結婚式憧れ層を壮絶に奪い合う、みたいな構図になるかと…。

ブライダル業界でお仕事させていただいているのにこんな未来予測なんて書くなよと自分でも思いますが、この先10年とか20年くらいのスパンで考えると起こっても不思議ではないかなと思っています。



今のブライダル業界に必要なはずなのに抜けている視点

仮にこの流れが少しずつ目に見えないくらいのスピードで進んだときにどう考えたらよいか?今のブライダル業界で語られていない視点について最後に書いていきます。

単価アップや組単価について議論していると必ず出てくるのが「提供している商品の価値をもっと高めてしっかりお客様に伝えましょう」という話。要するに価格を下げるのではなく価値ある商品なんだよ結婚式は、っていうのをちゃんと伝えましょうという視点です。

これはこれで大事な視点です。この視点がないとただのトークスクリプト丸暗記営業マンになってしまいますからね。

ただ私がもう1つ大事だと思っているのは「同じ金額・同じ付加価値の商品でも相手の年収が違えばその重さが違う」という点です。

例えば、70名施行で15000円のコース料理から18000円へ単価アップを図りたいときに、
・それぞれのコース内容にこのような違いがあり
・その違いによってゲストがこういった満足をしてくれるから
・結婚式の満足度、引いてはゲストからお二人への満足度も上がるので
・ぜひ18,000円のコースはいかがですか?
と、こんな感じで営業すると思います。商品の違いとそこから生まれる付加価値、結婚式での料理の大切さや会場のこだわりなどをプレゼンする。ここまではいいんです。

ただ、年収1,000万円の人にこの話をするときと、年収300万円の人にこの話をするときで相手が感じる重さが違うよね?っていうところまで考えている方とほとんど出会ったことがありません。

金額的には20万円の単価アップですが、年収1,000万円の人にとっては1週間分の給与相当なのに対し、年収300万円の人にとっての1ヶ月分の給与相当なので、重さが全然違いますよね?(もちろん、年収と金銭感覚は必ずしも比例するわけではないので人によって違いことは全然ありますが)

15,000円から18,000円のコースに変更してフォアグラと牛フィレの入ったコースにすると目の前のお客様の一ヶ月分の給与がそれにすべて使われるのです。本当にそれだけの価値があると思って売ってますか?

相手の立場になって考えるというか、結婚式で提供する価値が相手にとってどの程度の重さに相当するのか、この視点を持って考えることがこれからは経営も管理職もスタッフも大切になるんじゃないかなと思います。



今回のまとめ

と、いつもとは少し違う感じでバリバリにお金の話で押し通しましたがいかがでしたでしょうか??

フォトウェディングやスマ婚に代表される格安系ウェディングプロデュース、小さな結婚式など業界全体で見れば商品バリエーションは増えてきているものの、まだまだこれまでのThe・結婚式が主流だと言えます。

大手は既存事業と食い合うリスクのある低価格系サービスには手を出しにくく、ベンチャーや中小企業がそこを攻めるもののスケールには時間がかかる、こういった構造なので本当に多様化するにはまだ時間がかかりそうです。

業界の変化とユーザーの変化、どちらが先か…。

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