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「平井は、どこにでもある郊外の街ですよ。」

古本屋の店番をしている時、このセリフをお客さんに対して何弁言ってきたか分からない。北西にそびえ立つスカイツリーを視界から外すと、街の色が透明になっていく感覚をよく覚える。再開発の真っ只中というが、果たしてこの街には何があるのか。街の魅力ってどう伝えればいいのか。

初めからぼやきで始まってしまい恐縮ながら、この手の自虐は平井住民の特権と思ってご容赦頂きたい。とにかくボヤボヤ街を歩いていると、日常のあらゆるものが右から左にただただ流れていく。
それではいけないと思い、改めて平井を歩いてみた。テーマは「金魚」。

お蕎麦屋さんの店先にある金魚池に目がとまった。「見るだけ」と注意書きがあるので遠巻きにじっと見ていると、金魚たちがゾロゾロ水面に首をもたげ、口をパクパクとしながら近づいてくる。こちらの存在を認識してくれているようで、少し承認欲求が満たされる。

また、お蕎麦屋さんの近くの中華屋にもよく通っているが、最近ようやく気が付いた。
ここのメニュー表、金魚の絵が大きく描かれている。
普段から食い意地が張っていて、メニュー表をもらったら真っ先に安いセットメニューの頁に目を落とすのが習慣になってるので、何の絵が描いてあるかなんてあまり意識したことがなかった。確かに、店側からすればメニューの表紙絵は店の顔ともいえる重要な要素、見落としポイントであった。

私は蔵前橋通りから京葉道路を結ぶ道をよく車で通るが、そこでも金魚の絵を見つけた。それも巨大な金魚の壁画だ。
JRの敷地なのだろうか。ほとんどフェンスで覆われて立ち入ることはできないが、奥の方までたくさんの金魚が仲良く泳いでいた。毎週通っているのに、なんで今まで気が付かなかったのだろう。

テーマを絞って物事を観察してみると、平凡な街の、透明だったレイヤーに色が付く瞬間がある。これは平井に限ったことでは無いと思う。
そしてどんな街であっても、我々という観察者が存在することで無限のレイヤーが生まれる。街の魅力は、「有名な〇〇がある」という観光やインフラ的なものだけではなく、どこにでもある日常風景を複眼的に観察することで、個々の内面に発生するものなのかもしれない。

さて、今度はどんなテーマで平井の街を歩こうか。

平井の本棚・T

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