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『嘘つきは魚の始まり』

小さく、あまり豊かではないけれども、とても活気のある町にフールという男の子がいました。フールは幼いときに両親を亡くしたため、村の色んな人にお世話になりながら、生活していました。大好きなのは、嘘をつくこと。毎日、村の人たちに嘘をついて、驚かせたり笑わせたりするのが、フールの日課です。いつしか、フールは天才嘘つきのフール、と呼ばれるようになりました。

雲1つない、よく晴れた日。フールは誰かに嘘をつこうと、外でうろうろしていました。すると、いきなり後ろからしゃがれた声が聞こえました。
「お前さん、駅はどこだか知ってるかね」
びっくりして、フールが後ろを振り返ると、そこには黒いレインコートを着た、おばあさんが立っていました。なぜ、晴れているのにおばあさんが、レインコートを着ているのか、フールは不思議でしたが、
「ええ、知っていますよ。僕が案内しましょうか」
と言って、おばあさんの手を引き、歩き始めました。もちろん、フールはおばあさんをきちんと駅まで連れて行くつもりはありません。せっかく人に会えたので、からかうために、嘘をつこうと考えていました。
しばらくして、おばあさんとフールはごみ捨て場に着きました。あたりは生ゴミの腐ったにおいで包まれています。はえなどの虫もごみにびっしりとこびりついていました。そんな汚いごみ捨て場に案内された、おばあさんは眉毛をよせて、フールに言いました。
「お前さん、ここはごみ捨て場じゃあないか。私は駅に行きたい、と言っただろう」
「ええ。なのできちんと駅に連れてきましたよ。ここが駅です。心が綺麗な人にしか見えない駅ですよ」
フールはにっこり微笑みながら、嘘をつきました。すると、おばあさんはしゃがれた声で怒りました。
「お前さん、よくも私をからかったね。どこからどうみても、ここはごみ捨て場だろう。」
フールは心の中で、ふふっと笑いました。怒っているおばあさんの顔があまりにもおかしかったからです。おばあさんは、少し怒った口調でフールに言いました。
「今なら許してやっても良いから、ちゃんと駅の道を教えておくれ」
フールは教えてやろうか、とちょっぴり思いました。けれど、結局、フールはおばあさんに駅の場所を教えませんでした。かわりに、
「ここが駅ですよ、おばあさん」
とまた嘘をつきました。
「嘘をつくんじゃないよ、本当のことをお言い」
「本当だよ、僕嘘つきなんかじゃあないもの」
とうとうおばあさんは顔を真っ赤にして、怒りはじめました。
「嘘つき小僧め。嘘をつくとどうなるか、教えてやる」
おばあさんは黒いレインコートの中から古びた細長い木の枝を取り出しました。そう、このおばあさんは魔女だったのです。フールが気づいて、逃げようとしたときにはもう遅く、フールはおばあさん、いえ、魔女に魔法をかけられてしまいました。しかも、かけられたのは魚になる魔法。フールは青くて黒い目をした魚の姿にされました。魔女は、魚になったフールをひょいとつまんで言いました。
「煮ようか、焼こうか、刺身にしようか。どれにしても美味しそうだなぁ」
フールは恐ろしくて、ガタガタと震えました。けれども、手も足もない魚のフールでは逃げ出すことができません。ああ、このまま僕は食べられてしまうのか。とうとうフールは、生きることを諦めてしまいました。すると、どこからか、フールを呼ぶ声が聞こえました。
「フール、フール」
フールはどこから声がしているのか、一生懸命耳をすませました。
「誰、誰なの?」
「フール、フール」
どうやら、声はずっと上にある、空から聞こえているようです。
フールも大きな声を腹の底から出しました。
「僕は、ここだよ!助けて!」
フールが大きな声を出すと、魔女の顔がぐにゃり、と歪みました。魔女は何やら慌ています。
「や、やめろ!そんなに大きな声を出すんじゃあない」
「助けて!!」
もっともっと大きな声でフールは助けを呼びました。ぐにゃり、ぐにゃり。どんどん魔女の顔は歪んでいきます。もう魔女がどんな顔をしていたのか、全然分からなくなってしまいました。


ふと気がつくと、フールは駅のベンチで横になっていました。
「あっ、やっと起きた」
よく遊ぶ近所の子が心配そうにフールの顔を覗き込んでいます。フールはばっ、と飛び起きました。ちゃんと手も足もあります。フールはちゃんと人間に戻っていました。
「魔女は?あの魔女は、どこに行ったの?」
と聞くと、近所の子は不思議そうな顔をして答えました。
「魔女なんていないよ。フール、まだ寝ぼけてるの?ねぇ、そんなことより、早く遊ぼうよ」
「うん」
あれは、夢だったのか。フールはそう思って、胸をなでおろしました。そして、近所の子に手を引かれて、走り始めました。きらきらとあたりを照らす太陽が、フールの足元に小さな影を作りました。その影は魚の形をしています。それにフールは気づいたのか、気づかなかったのか。知る人は誰もいません。



(あとがき)

読んでくださり、ありがとうございますm(_ _)m

このお話は、新美南吉童話賞に応募したのですが、賞はとれず……一次通過も落ちていました。

とても残念でしたが、これからも頑張っていこうと思います。

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