共鳴

仙台ハイランドというテーマパークをご存じだろうか。

残念ながら2015年の夏に閉園してしまった施設なのだが、その閉園一週間前にせっかくだからということで友人と5人で遊びに行った思い出がある。
目的はウォータースライダー付きプールだった。というのも、当時住んでいた仙台市から手軽に行けるプール施設は非常に限られていたからだ。


みんなで車に乗り、わいわい言ってるうちに到着した。仙台ハイランドは予想通りというべきか、ものすごく寂れていた。閉園一週間前の華々しいフィナーレという感じは一切なく、入園ゲートをくぐってすぐのところに錆まみれの町内会とかで使われていそうな小さめの掲示板が置かれており、右下に小さく

閉園まで あと 7日

と書かれているだけだった。

こんなもんだろと気を取り直して早速プールに入ろうと歩を進めたところ、急に我々の上空から女の子たちの嬌声が聞こえてきた。つられて目をやると、人間が紐に繋がれて空中を跳ね回っている。その時初めて知ったのだが、仙台ハイランドの売りの一つはバンジージャンプだったのだ。ただ落下するだけのバンジーだけでなく、振り子のような動きを楽しめる横バンジー、ゴムパチンコのように下から射出される逆バンジーもある。
以下HPより転載。

縦バンジー 2,000円(フリーパス割引 1,500円)
24mの高さから真っ逆さまに落下する!自分との戦い、最後の1歩をあなたは踏み出せるか!バンジー好きには堪らないスリルをあなたも体験してみませんか。
横バンジー 1,800円(フリーパス割引 1,000円)
バードマンは1度やったら病み付きにらる面白さ。鳥のように60mをひっと飛び、スポーツ感覚のスリルと快感を楽しんでみませんか?
逆バンジー 2,000円(フリーパス割引 1,800円)
地上31m目がけてスーパージャンプ!予想出来ない回転や捻りも加わり、究極の無重力体験。是非貴方も絶叫してください。

多少の誤字はご愛嬌というものだ。そして何故か逆バンジーは調整中になっていた。何かがあったのだろう。


あまりにバンジーしている様子が楽しそうなので、友人Tが我々もやろうと言い出した。彼はディズニーランドの幼児向けコースターですらビビってしまう重度の絶叫系駄目男なのだが、久々の遊園地であることや彼女の隣に居るということでテンションが上がってしまったのだろう。皆、流れで誓約書にサインした。

普通のバンジーか横バンジーで悩んだが、一緒に楽しめる横バンジーに乗ることになった。先程の楽しそうな声も横バンジーから発せられてものだったこともある。三人が同時に滑空するスタイルで、Tを真ん中に立たせ、両サイドがTと腕を組み、三人の足先を共通のバーで固定する。スタンバイが完了すると三人は一つの平べったい肉塊となり、酩酊した波平が磯野家に帰宅する際に手につまんでいるお土産のように、少し浮いた状態で横向きにぶら下げられる。我々は地面とにらめっこした状態のまま、スタート地点まで引き上げられていく。時間をかけてゆっくりと高さ20メートルほど。


引き上げられている最中に思い出したのだが、自分もTと同じくらい絶叫系が苦手であった。なので5メートル引き上げられただけでもう相当に怖くなってしまった。何をどう考えてもここから楽しい気持ちになる展開はないといった心境になり、とても落ち込んだ。こういう時は自分より怯えている人を見るに限る。隣のTに目をやると、先程までの威勢は全く失われ、ただブルブル震えて虚空を見つめるヒゲ野郎が存在していた。素直にこの人誰だろうと思った。脚の震えが固定バーを通じて僕にも伝わってくる。哀れな彼のためにこの震えを止めてやろうと思い、自分の脚に力を入れた。が、何故か伝わってくる震えは止まらない。むしろ増大している。これはどうしたことか。

なんと僕の震えとTの震えが共鳴し、ものすごいモーメントと共にバーは振動を強めていたのだった。

極限状態で研ぎ澄まされた感性の中、ぼくの脳内は中学の物理で共鳴について教えてくださった藤原先生の印象的な髪形で満たされていった。



無情にもスタート地点は近づいてきていた。



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