論43.呼吸と体の使い方

○ゆがめる

 知識や認識のミスは、思考だけでなく、観測から結果までゆがめてしまいます。ゆがめるというのは、必ずしも間違いやダメになるということではありません。もっとよい結果が出るものを制限してしまうこと、そして、それに気づかないこともです。気づかないと、そこで学んで、次のアプローチができないのです。

○能力の限界と次

 能力というのも似ています。誰でも必要に応じて、がんばれば能力はつくのですが、必ず限界と思われるところがくるのです。それを限界と思うのか、限界ではないと思うのかは、個人差が大きいです。
必要性、向上心、欲があれば、気づく機会を得て、次を導くチャンスに出会えます。
それが何なのかは、人によって違います。情報によることも多いので、いつ誰に出会えるのかということになります。必死にそれを探し続ける人とそうでない人では、出会う確率は違ってくるでしょう。
全ては、気づきにあります。ですから、知識もバージョンアップしていかなくてはならないのです。

○呼吸、姿勢、歩行

 たとえば、ですが、毎日の呼吸、姿勢、歩くこと、この3つだけでも寿命を2倍に、あるいは、2分の1にしてしまうほどの差を生じさせていると思います。
 心身を損ねてしまうのは、その3つだけとはいえませんが、そこにかなりの原因、誘因があるのは否めません。仕事や運動も、知らずにそれらをよくしたり悪くしたりしているからです。
発声や歌唱は、その3つから、よくすることが多いです。

〇リミッターのはずし方

相乗効果によって、発声や歌唱はどんどんよくなります。そして、あるところで限界になったりしているわけです。そのリミッターを正しいものというよりは深いものとしていくことです。知識や認識よりは、気づきでリミッターを外していくことです。それを助けるのが、こうしたアドバイスの目的だと思うのです。

○変わるということ

 私は、声から多くを学んできました。最初は、「発声を学んだら声も歌もよくなるだろう」という、それだけのことだったと思います。しかし、逆の立場になって、多くの人の声をみているうちに、様々なことに気づかされました。
一つの方法で、すごく変わる人もいれば変わらない人もいることを知りました。いろんな方法で変わるとしても、その結果にかなりの差があることに気づきました。
次に、いろんな人に指導を任せたところ、その差は、さらに大きくなりました。変わらせることのできるトレーナー、変わることのできるクライアント、その組み合わせの妙、それらをみているうちに、変わるとは、何かをよくよく考えるようになりました。
あまり変わっていないように思えても、本人が「とても変わった」と思うこともあれば、その逆もあります。すごく変わっていっているのに本人が全く気付かないこともあります。ことばを使うことで、その差は、さらに、よい方にも悪い方にも大きくなります。

○長期でみる

変わるとは、必ずしも、よい方にばかりいくことではありません。短期的には、一部がよくなり、一部がよくなくなることが多いです。このときには、よい方しかわからないことのが普通です。
長期的にみて、ようやく、総じてよくなっていくものです。この「長期」というのが、人生でみると、20歳でも声は20年使ってきているので複雑です。

○「誰でも伸びる」

本気でやったことのない人ほど伸びるのは、伸びしろの問題ですから、ここで問うてはいません。ここでは、4、5年やって壁にあたってからの問題を述べています。「やったことがない」くらいの自覚の人は、どんな分野でもやれば、やった分だけ伸びるからです。
「初心者は、迷わずやればよい」と言っています。どこでも誰とでも、1人でも、初心者は、やった分伸びます。私たちも自信をもって引き受けて、必ず結果を出しています。
どんなスクールでもトレーナーでも、そこの体験談を読めば、皆、「よくなった」となっているものです。まるでサービスのよし悪しのように、効果は、保証できるのでしょう。

○その先の問題

私がここで扱いたいのは、そうした低次のことではありません。
 問題は、「やっていなかった人がやれば伸びる」、つまり「やっていなかった人の中でやった人が伸びる」という、論じる必要もないレベルの話ではなく、「やっている人の中でどれだけやれるのか」ということです。
他人と比べなくてもよいのですが、やれるだけやって、どこまで伸びるのかが最低ラインとして、問うことと思います。
なかでは、「やっているのに変わらない」「変わらなくなってきた」「やっているのに他と比べて伸びない」という問題もたくさんあるのです。
「変わる」と並べて、「やる」「やれる」「やっている」とは、何かということにもなるのです。

○人生のダイジェストと理念

 発声や歌唱についてだけでなく、健康や人生として考えていくことが、本当の解決、気づきになることと思うのです。
呼吸、姿勢は、発声とともに、ヴォイトレで必ず扱います。歩きも動作、所作、振りとしてステージのための、いや、生きている中での基礎技術です。
 もとい、歌唱も演技、せりふも人生のダイジェストなのです。ですから、舞台のための練習は、そのまま、人生を生きるテキストとなるわけです。
私が発声だけでなく、「音声、舞台、表現」を学ぶのを研究所の理念にしているのは、そういうことです。

○呼吸を深める

 「呼吸の深浅が、人生の深さを決める」とまで言いませんが、少なくとも、呼吸は、健康のよし悪しには大いに関係しています、つまり、深い呼吸は、生命力と直結し、エネルギーとなるのです。
ヴォイトレでいうと、声のエネルギー、声量、声力、呼吸が弱まったときの声は病んで聞こえるし、呼吸が深まった時の声は力強いものでしょう。

○浅い呼吸と酸欠

 人は、食べなくても水があれば一カ月は生きられるそうですが、呼吸して酸素が供給されなければ、すぐに心肺停止となります。私たちの体の細胞に常に酸素がいきわたらなくては生きていけません。
呼吸が止まったら死ぬのですから、呼吸が浅いというのは、危険なのです。持続的な酸欠状態です。しかし、死ぬわけではありません。健康によくないのに健康診断でもひっかかりません。本人にも自覚がありません。程度がひどくなければ認知できない、気づかないのです。
酸欠は、ひどいと苦しいものですが、呼吸が浅いくらいなら酸欠とは自覚しません。厳しくいうなら、呼吸を深くできないときは酸欠、呼吸の深くない人は、常時、酸欠状態なのです。

○酸欠と発声

 必要な酸素量が不足していくどうなるでしょう。酸素は、生きるのに重要なところ、脳や内臓などに優先して回されます。全身で平均して配分が減るのではないのです。となると、どこかの細胞は酸欠になり、機能が落ちます。
たとえば筋肉です。息苦しくなれば自覚しますが(血中酸素濃度の測定などで表れるかもしれませんが)、呼吸が浅いくらいなら気づきません。何よりも、それが常態化していると問題にもあがりません。
 それは、声で判断できることが少なくありません。血流が悪くなって筋肉の柔軟性が損なわれたら、身体も冷えます。「未病」状態ですから、そこで何が起きてもおかしくありません。

○2つの呼吸

 ヴォイトレで呼吸法を教わっているとしたら、大部分は、「腹式呼吸」という名のもとに、でしょう。正しい呼吸法として、胸式呼吸を禁じて、腹式呼吸に切り替える、そんなイメージで扱われていることも多いでしょう。なかには、科学的(医学的、生理学的)に、といって、「横隔膜の呼吸」のように説明されていることもあります。
問題は、多くの人に「浅い呼吸になっているのを胸式呼吸」とみなして、「深い呼吸のために腹式呼吸に切り替えないといけない」というイメージを抱かせていることです。ダメとは言いませんが、それでは地声=胸声、裏声=頭声というように大雑把すぎます。何のために分けるのか、わからないことになりかねません。
 呼吸を一つに捉え直し、「今より深くするには、どうすればよいか」というように、イメージする方がよいでしょう。胸式―腹式の呼吸の問題は、他でも詳しく扱っていますので、参考にしてください。

○お腹からの声

 呼吸を2つの方式に分けるよりは、まだ、肺という自力で動かない臓器の大きさをイメージする方がとっつきやすいでしょう。
前部は胸椎という高い位置にあるのが、横隔膜です。それを丹田、へそ周りを触らせて「横隔膜で呼吸…」などと言うくらいなら、深い呼吸、「お腹で呼吸…」の方がよいと思います。生理学的に間違っていることの問題ではなく、イメージでつかめ、実際に体に作用することが大切だからです。ここでは、位置よりも下へ動くことがイメージとなるのです。
 「横隔膜で声を出せ」より「腹から声を出せ」の方が、日本人なら、イメージが動くはずです。
新しもの好きなトレーナーは、相手に入っているイメージ、言語に働きかけることを忘れがちです。言っていることとやっていることが違ってはなりません。

○頭からの解放

 私は、臓器の正しい位置を生理学的に確認して認識することを教えることが必要とは思いません。しかし、トレーナーや長く学んでいこうとする人は、一度おさえておくとよいことでしょう。少なくとも、正しい知識でしっかりと把握したら、極端な偏りや過ちが避けられます。いわゆる、常識みたいなものです。
 ただし、それに囚われるならよくありません。また、正しくしっかりと把握できないなら中途半端を知識として振り回される方を恐れるべきです。どれだけの人が、知識でトレーニングが逆効果となり、能力の発揮を妨げられているでしょう。
それは、ここのトレーナーが、「頭からの解放を第一に考えなくてはならない」と思うほどなのです。

○肺と胸式呼吸

 呼吸に関する筋肉とその動きをおさらいしておきましょう。声帯とその動きを知っても、それだけでは、実際の発声上、大したプラスにならないどころか、逆に悪影響があるようなものです。
多くの人のイメージより、肺は大きいし舌も大きいです。肺を大きくするにも、肺自体は動かせません。周りの筋肉と内の圧力を利用するのですが、その動かし方よりも、結果として、肺が最大に膨らむことをイメージしてみましょう。
そのときに、トレーニングとしてではなく、一度、肺を最小にしてみるとよいでしょう。つまり、吐き切るのです。
これらは、胸が動くということでは胸式呼吸ですが、上下、前後、左右と動くうち、上(肩式)を除けば、動いてもかまいません。

○肋骨の動き☆

肋骨は、上部は、前後、下部は左右に拡がるものです。呼吸では、その“胸式”を目一杯、使ってから“腹式”に移るのが、しぜんというものです。いきなり“腹式”ではうまくいきようがありません。
動かし方は、動きとしては、生まれて生きてきたなかで合理的に行われてきたのです。それを合理的なままに動きを大きくするのが難しいのですが、理想です。それをヴォイトレなどで早く強化するとバランスを欠きやすいのです。
 鼻で吸うのや横隔膜を無理に使うのが、周りにわかるほどであるのは、プロセスとして許されることもありますが、やや極端すぎて、よいとは思えません。

○肺の大きさ

 肺は、呼吸で最も大きく動く臓器で、吸気で膨らみます。肺の膨らんだ図を見たら、深い呼吸がメージしやすくなります。
大きく呼吸するのにレントゲンを思い出してください、胸が、肋骨が膨らみますね。 
 胸は、前に大きく膨らみます。しかし、よくよくその動きをみてください。肺は、外からわからないので肋骨の動きです。前にも下にも左右にも、特に下の方が広がっていませんか。
レントゲンで検査のときに、無理に吸って入れた呼吸は胸式です。苦しいのは、吐かないで吸うからです。大して吸えませんね。それ以前に発声に目一杯、吸って使うのは、入れ過ぎです。

○深い呼吸

 肺が上の方で胸を膨らませるというイメージを肋骨の大きさ全体に、そして、その広がる動きに合わせて、さらに、広がったイメージに代えてみてください。声楽などの指導では、「胸部を“鳥かご”のように保つ」と言っています。胸郭ということばは、それに通じます。
 吐いて吸って体内を感じてみると、深い呼吸になってきます。ヴォイトレでなくても、そのイメージがあれば、日常もしぜんとこれまでよりも大きな動きで深い呼吸となるはずです。酸欠によって生じていた体の不具合があれば治ってしまうわけです。
 呼吸は、筋肉だけではなく脳、内臓、神経、ホルモン分泌と全てに関わっているからです。
 筋肉に酸素がいきわたると筋力もつき、運動能力もあがり、呼吸も深まります。呼吸を深くするだけで背筋力もあがるようです。

○フレイルとフォームの崩れ☆

 筋力が衰えると、他の筋肉がそれを補うようになっています。そのおかげで支障が出ないのはありがたいですが、偏っていくので、気づかないのでは困るわけです。そのままでは元の筋力がさらに弱くなり、フォローがきかなくなるのです。歩けないとなると、かなり重症です。
筋肉が弱ると、全ての行動もオーバーワークとなります。効率的な働きが失われます。これがフォームが崩れるということです。機能美といった美しさもなくなるのでわかります。
トレーニングは、筋力をつけつつ、筋肉の働くバランスを整えていきます。そしてフォームをよくしていくのですが、筋力が衰えると、他の筋力でカバーしつつ、バランスを取ろうとします。しかし、ギリギリを超えるとケガをしてしまうわけです。力づくでの勝負などは、このギリギリで、未熟でフォームのできていないときか、一度できたフォームが崩れたときによく見られます。発声での声の力強さが柔軟性を失い、荒くなったときなどです。
 日常のフォームが崩れることを知ると、トレーニングでフォームをつけることの難しさもわかりやすくなりませんか。

○呼吸の浅深

 深い呼吸は、安定、安心感をもたらします。深呼吸するとリラックスします。深呼吸してリラックスさせることもあります。
浅い呼吸は、身体の危機ですから、不安をもたらします。落ち着きのなさや苛立ちなどに出ますが、気づきにくいものです。

○丹田呼吸☆

 「お腹に空気を入れ込むというイメージで吸う」のが苦しいなら、腹式呼吸の原理を用いましょう。肺と内臓のしきり、横隔膜が内臓を押し下げるイメージにするとよいと思います。方向として、肺の下方へ。
胸式呼吸での上下、左右、前後のうち、上は、よくないので下を腹式呼吸につなげるのです。となると、胸式、腹式とならずに下へと捉えるとよいということになります。
よく「腹式呼吸は丹田呼吸と違う」と言われるのは、丹田は、腹筋で固めるイメージになりやすいからです。腹式呼吸というイメージが腹筋呼吸になってしまいがちだからです。
お腹に空気が入るのではありません。肺が膨らむのです。その肺がお腹の方向に膨らむのです。
 「背中に空気を入れなさい」というのも、よく聞くアドバイスです。これは、前後の動きで、前はわかりやすいのに後ろはわかりにくく気づきにくいから、意識してより大きな呼吸にしたいことからの指導法なのでしょう。

○ラジオ体操と深呼吸☆

 腹式呼吸も、呼吸の浅い人はあまりできていない、使っていないので、意識的にやらせるのですが、それは、「腹式呼吸を意識して行うもの」ということではありません。しぜんにできないからではなく、しぜんにできるのに、しぜんに使えていないからなのです。
 まして、「胸式呼吸はダメ」とか「胸式呼吸は健康に悪い」というのは、もう間違いといってよいのです。「腹式呼吸」を強化するためにそう言ってしまう人がいるのです。胸が全く動かないのは深い呼吸ではありません。
ラジオ体操の深呼吸は、どちらかというと胸式呼吸ですが、健康に害がないどころか、全身が動いていれば腹式にも関与しており、よい運動です。ただ、ヴォイトレとしては、呼吸を整えるくらいで向上とまではいかないということです。

○「意識的」の功罪

 呼吸は、「意識的にも動かせる」からトレーニングするのですが、意識していないところでの呼吸は、絶対に間違ってはいません。心臓も脾臓も意識しないで動いていて、意識的に動かせないから間違えません。
「私の呼吸は間違っていますか」など聞かれることがあります。もしそうなら、死んでしまっているわけです。
生きるための本能からの自律的な働きは無意識であり、潜在意識です。私たちがどう考えても、どんなに間違った解釈をしても、生きるために正しく働いています。少し間違うと痛みや病気に現れます。トレーニングでは、短期間で限っているから、よいのです。☆
呼吸、発声、歌唱は、意識的に行う分、より活かせもし、偏っておかしくもしてしまうのです。
命に関わるところとは別の目的であり、そのための働きをしますから、そこで問われることをどう設定するのか、そして、それにどう対応するのかと、2重の壁が生じるのです。

○「気をつけ」の姿勢☆

 「気をつけの姿勢がよい」との教育を受けてくると、その姿勢が精神的にも前向きで気持ちも充ちて、程よい緊張の上にも正しいという感じを抱くものです。しかし、フォームとして、正しいというのは、再現が働くこと、この場合には、持続することです。つまり、「姿勢を保っていても疲れない」ということで考えてみてください。
「気をつけ」は、けっこう無理していますから早く疲れますね。数分で「休め」となるからよいとするなら、「休め」の方が、フォームとしてすぐれているということですね。一言でいうと、胸を張って背を伸ばす、背筋をピンとしているのは、上体が反っている、のけぞっているのです。すると、疲れて、その反動として猫背になるのです。

○身長計、ベルトなど

身長を測るときは、身長計にピンと背をあわせて、もっとも高い数値を出すときの姿勢をとるのですから、通常よりも伸びているわけです。姿勢を竹の定規などで正す先生はいませんでしたか。
姿勢矯正器具、ベルトもあります。こうした補正ツールは、チェックのために、位置を知るにはよいのですが、強力なものほど、それに頼って保つことになります。楽に保てるとしたら、その分の筋力強化は怠ってしまうのです。
重い荷物を持ち上げるためのロボットアームなどの補助なども同じですが、持ち上げる仕事なら少しでも便利な器具を使えばよいのです。
ツールの助けを借りるときは、何のためなのかをしっかりと考えなければなりません。安易に頼っていては、トレーニングでは、いつまでも基礎の力がつかないことになりかねません。

○背伸びと膝立ち

 正しく立つことに、普通は筋トレは不要です。もちろん、極端な筋力不足、運動不足は別です。病気の後などは、時間をかけて筋肉も回復させる必要があるときもあるでしょう。
 しかし、普段の生活、5000歩ほど歩くのであれば、姿勢に関しては、矯正するだけで充分でしょう。
 姿勢を正すのに簡単な方法があります。一つは、背伸びする。そして戻す。もう一つは、膝立ちです。このとき、背は丸まりません。そのまま正座してもよいでしょう。膝立ちは、膝で立ちますので足裏で立つよりも安定します。大腿骨で支えます。膝の一点、足裏は3点アーチ支えます。

○バランス

 ちなみに、足先に力、重心を移すと前のめり、猫背になるのです。逆に、かかとに重心をかけると後ろによろめくので膝を前に出して支えるのです。上体は「く」の形になります。
 バランスも、体軸で整えるために効果がよくも悪くも散らばりやすいといえます。
 首、背を曲げていると、首、肩がこります。背中が固まり、伸びにくくなります。太ももの前の方も硬くなります。
胸を高めに前に出す「インディアンの歩行」というのがあります。あるいは、頭の上に大きな水がめを乗せ、運ぶ女性の姿を見たことがあるでしょう。姿勢をよくするのは、マナーですが、メンタル的にも行動にも効果があったからです。

○肩を回す☆

 肩を回すのに、肩関節からではなく、肩甲骨から回してみましょう。肩甲骨は、肩(の骨)につながり鎖骨にぶら下がっています。腕の付け根は、肩甲骨です。ですから、手を動かすときに根っこの肩甲骨が動いて手が動くのがしぜんなのです。
ところが、大体は、手先から動かしてしまうのです。それでは五十肩になりやすくなるのです。肩甲骨の方へ意識をもってくるだけで、肩はぐるぐる回りやすくなります。
重い荷物も、膝が入りやすく持ち上げるのに無理がなくなります。腰痛も防げます。
 日常生活も変わります。まして、スポーツや武道なら、もっとわかりやすく効果が出るでしょう。気づく、意識する、イメージすることの効用の一例です。

○呼吸のイメージ

口先ではなく、腹からとイメージしましょう。発声などで、胴をポンプ(シリンダー)や風船、チューブと例えて教える人もいます。こうした具体的なイメージから入ると、わかりやすいでしょう。
手を動かして仕事するのではなく、肩を動かして手で仕事するのです。すると、ピアニストなどの腱鞘炎なども防げるでしょう。そして、動きが、全体的で柔らかくしなやかに美しくみえるようになってくるわけです。

○肩甲骨☆

 肩甲骨の大きさを確かめておきましょう。4本足歩行では、前足の支点にしていたから大きいのは当然です。四つん這いで歩いてみるとよくわかるでしょう。
人は、2本足歩行になって、体の横から後ろへずれ、平らになって動かしやすくなったのです。しかも、動物の機能は失っていないから、四つ足でも動けます。
このとき、体の横にずれるのは、肩甲骨が背にくっついているのではなく、浮いているからです。鎖骨に吊るされているようになっているのです。腕立てをしてみるとわかるでしょう。
 肩甲骨を柔軟にしておくことは、とても大切です。手先で動くのと肩甲骨から動くのは、小手先の動きと全身の動きとの違いのように、明らかにみえます。全身の動きは、体の中心軸がみえます。

○足の支点

 足は、脚、肢とも書きます。足の根っこ、付け根となるのは、どこでしょう。太ももではありませんね。股関節でしょうか。実は、太ももの骨と骨盤をつなぐところ(関節)です。
骨盤ともいえますが、そこを大腰筋の上の起点としたいものです。つまり、背骨です。下の方は太ももの骨の内側のでっぱりについているのです。大腰筋は、歩行や転倒防止に関わりますから、上の起点のみぞおちの少し下あたりをイメージするとよいと思います。

〇歩き方

肩甲骨からの手と大腰筋からの足のイメージで歩くと、大股で力強くハイスピードで歩けるでしょう。これが持続しないとしたら、筋力の不足といえます。
インディアン歩きのように、背骨を押されるようになると、最大限、使えていることになり、疲れにくくなります。腰痛は、骨盤の不安定さ、つまり、大腰筋の衰えから生じることが多いようです。歩くのがもっともよい鍛え方です。

○回復ということ☆

 足を組まない。片側だけでカバンを持たないなどは、腰痛を避けるアドバイスです。しかし、それは、すでに弱くケアをしなくてはいけない状態の体へのアドバイスで、本来なら、そんなことくらいで腰痛にはなりません。それが歪む姿勢でよくなくとも、少し経てば回復するものだからです。
 ヴォイトレも、大半は、そうしたケアのアドバイス、調整のレッスンになっていることを知ることです。そんなことくらいを、しぜんと回復できない選手が活躍することはありえません。バーベルで筋トレしている選手が、カバンの持ち方くらいで体を傷めないでしょう。

○大腰筋

 呼吸と大腰筋の関係は、大腰筋が横隔膜に接しているので、言うまでもありません。頭蓋骨でさえ、緊張すると脳とその神経を圧迫し、横隔膜、そして大腰筋にまで悪い影響を及ぼします。耳引っ張りなどで述べてきた通りです。
 大腰筋は、上半身と下半身をつなげているのです。つまり、体を一つにして連動させます。運転などで振り返るのも、中心の体軸、体幹から肩、首の順がベストです。そういう動きのなかで体の軸や芯を捉えていくとよいでしょう。そこがエネルギー源です。

○心と動き

すべての動きは、伝えようとする気持ちがあれば、大体は、うまく動いていくものなのです。心が大きく関係するのは不思議なほどです。嫌いなものを掴むときは手先、好きなものは両腕、胸に抱え込みますね。
 ここでは、体をうまく使うのが目的でなければ、腰痛、肩こりをなくすのが目的でもありません。伝えることを目的とするわけです。そのアプローチをトレーニング、フィジカルからみると、こうなるのです。心と体の動きとして捉えてみてください。ただ、心だけではわかりにくいから、トレーニングでは体から入っていくと思うとよいのです。


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