論63.声を身につける

○声の獲得ということ

1.声の習得、声を身につけること、プロの声、鍛えられた声
2.発声訓練、楽器作り、調律
3.歌唱、その声を自由にコントロールして使い、作品として演奏すること
まず、歌う声、話す声の声そのものの不足に注目することです。
共鳴しない貧弱な声、そこから歌唱の発声指導へいくのでは、よくありません。まずは、ただの発声でのトレーニングをすることが基礎です。


○声のある人、ない人
 
舌根の緊張、舌の硬さは、よい発声と共鳴を妨げます。姿勢と発声、猫背と喉声からの解放が必要です。
「しぜんな声のひびき」のしぜんとは、ひびきとは、どういうことでしょう。
低音域の充実から、始めましょう。美声ではなく強い声を求めます。トレーニングだからです。
それは共鳴の大きさとして現れます。呼吸と共鳴の効率です。
もとより、美声のひびく声の主はいます。しかし、声そのものが弱い人には、呼吸も含め、声に関わる筋肉群の強化が必要なのです。太さ、強さの獲得にも、個人差があります。


○ヴォイトレの盲点

高音域のファルセットなどの得意な人は、歌唱などに有利なため、そこから先のテクニックに走り、低音域や話し方を充実させるトレーニングをしません。
そのために、一通りのテクニカルな歌い回しができてしまうと、上達が止まるのです。つまり、カラオケ用の歌唱で、パワフルな声の魅力に欠けます。低音のひびきのよさが決定的に欠けます。
これは、YouTubeなどでも人気のあるものまねに長けた人に多いです。海外の歌手、俳優と比べると、わかりやすいでしょう。


○身長と声の高さ

背が高いと声が低くなると言われます。それは男性らしい要素の一つです。一般的に、その傾向があるといえるだけで、声の高さは、必ずしも身長だけと関係するわけではありません。


○日常発声のレベル

 発声ができているかどうかは、外国人や日本の一部の声楽家では、一声でわかるものです。声の厚みの伴わないテノールやプロ歌手の多い日本では、わからない人が多いのかもしれません。演出家やプロデューサーは、特に、若い世代になるほど、そこを理解できずにいます。日本らしさと言えば、そうなのかもしれません。


○喉声について~田中角栄と中尾彬

 喉声は、田中角栄の話す声を思い出すとよいでしょう。いわゆる、ダミ声です。
中尾彬あたりになると、日本では評価が分かれるようです。ものまねをするには、喉声にして、こもらせると簡単なのですが、それは、似ているようで、本人の発声とは違うのです。「深さが違うのです」というとあいまいなのですが、結果として、声の通りが違うのです。彼の声は通るのです。


○姿勢のくせ

 日本での生活では、特に背が高いと姿勢が悪くなりがちです。年配者に対して、低く猫背にして頭を動かし、うなずいて前かがみにならざるを得ないことが多いからです。そこで、イタリア人になり切るというつもりで生活するオペラ歌手のようにした方がよいという考え方もあります。
 姿勢、呼吸のくせは、頭痛、肩こり、腰痛から内臓系の障害にもつながるから気をつけましょう。


○日本人の声

読経や声明、祝詞を読む声、お祭りや民謡で使われる声は、日本人の一般的な発声ではありません。なかには、日本語の発音をしなくてすむために有利なものもありますが、日本語としても魅力的な共鳴をする例がたくさんあります。
方言は、感情を伝えるのに適しています。また、そのひびきは、美しく豊かなので、そのためもあるでしょう。


○喉頭蓋と舌

 喉頭蓋は、飲食のとき以外は上がっています。それがあまり上がらないと、音色やひびきに影響することもあります。軟口蓋の上がるのは、わかりやすく、発声の基本として教えられることが多いのに比べ、見逃されやすいところです。
舌の動きも連動します。舌は、柔らかく前部で盛り上がる(イの状態)のがよいです。普段、舌は、上歯に触れるかどうかの状態で休んでいます。そこをチェックしてください。


○ハイトーン

 ロシア、ドイツに比べて、アメリカは、中性的なひびきをもつハイトーンのヴォーカルが少なくありません。教会音楽のゴスペルからは、プレスリー、アンディ・ウイリアムスなどが出ています。このあたりまでは、柔らかく豊かな低中音域を活かした発声です。
マイケル・ジャクソンのハイトーンは、それは、日本人にも大きな影響を与えました。ただ、結果として、日本人は、彼からは、ダンスの方がうまく吸収できたといえるかもしれません。


○リップロールとハミング

 ヴォイトレでのリップロールのブームは、舌をうまく使えない人が増加したためといえましょう。
発声の練習ならハミングで充分です。どちらも苦手な人は無理してやる必要はありません。


○第一目標

声が楽に大きく出るのは、高く出るのと同じようにわかりやすいのです。第一には、それを目指すことです。なのに、多くの人は、高音ばかりに気を取られてしまうのです。結果として、わかりやすい音高に囚われると、その音に届くだけのくせをテクニックとして身につけたつもりになってしまいます。
それは、ヴォイトレのもっとも陥りやすい罠なのです。そこで限界をつくり、さらなる可能性を閉ざすことが多いからです。
「ヴォイトレを一人でやらない方がよい、必ず判断を間違う」ということの多くの問題は、ここから生じています。しかし、ヴォイストレーナーが、それを教えるようになってきたわけです。


○ヴォイトレでの声質の変化

 こうした徹底した基礎トレーニングでバリトンからテナーやアルトからソプラノになる例も少なくありません。しかし、より高度なレベルを求めると、その逆も多いようです。


○緊張をとる舌の運動

 高音を出させたり、共鳴をよくするために、舌を出させて発声させたり、スプーンや割箸を使うトレーニング法があります。
前歯に舌をつけて歌うとか、母音だけ、ハミングだけで発声というのも、悪い状態のままに行っていなければ、発声しやすくなるはずです。発音もよくなります。
それは日本人らしい声ではなく、外国人の話す日本語のようになりますが、目的は発声と共鳴の改良なので、それをよしとしてよいでしょう。要は、悪い状態で行わないために、悪い状態とは何かを知るということです。


○短期の上達レッスン

 長期的にハイレベルを目的とするなら、あまり小手先のマニュアルを使うべきではありません。しかし、受け手がすぐに効果を求めるのなら、それに対応せざるをえないのも確かでしょう。
たとえば、一回の体験レッスンのなかで、シンプルにレッスンのビフォーアフターの効果を示せる技を使うのです。しかし、それを基礎と教えてはなりません。


○木と森

短期の上達を目的に教えるトレーナーとなると、なかなか基礎に踏み込みません。トレーナー本人が、そこをわかっていないことも多いのです。「木を見て森を見ず」の方法が正しいと信じて疑うこともないのです。彼らからしてみると、一時的によくなくなるとか、混乱をもたらすような方法は間違いとなるのです。
しかし、スポーツ、武道を持ち出すまでもなく、どんなトレーニングも、一時的にバランスを犠牲にして弱点の強化や補強をするのであり、本番の実践とは区別されるのです。


○リピートで上達しない

一日だけのレッスンが効果をあげるのなら、それは、アドバイスにすぎません。要するに、バランス調整なのですから、バランスが整ったところで終わりです。
つまり、バランスを整えなくてはいけなかったところで、本人が理解できていない、基礎の力がないのです。
仮に理解できたつもりでも、基礎の力をつけなければ、また同じことのくり返しです。現に同じことばかりずっとくり返している、つまり、乱れては正し、また乱れては正しで重ねられているレッスンが、実に多いのです。


○二段構え

最初から長期的視野と目標をもち、何歩か戻って正すこと、いや、力をつけることなのです。
応用は、基礎に戻さなくては力になりません。その二段構え、いや、複層がみえないうちは、今の自分のベスト止まりなのです。


○「ミィ」と「ネェ」

 本当にうまくいっていれば、ということですが、「イ」を発声に使うとよいのは、口内で、前舌に形をとって後ろが広がるからです。そこで顎を開く、口を少し大きくすると「エ」になります。
「ミ」とか「ネ」とかを使うのは、そこをハミングの原理からもってきて、ひびきやすくします。小さな「イ」や「エ」をつけるときも多いです。こうすると、高音でも使いやすくなります。


○「ア」と母音

「ア」は広がりすぎ、あいまいで逆に発声に難しくなる人が多いです。浅く拡散しやすいからです。母音だけの発声もそのようになりやすいため、あえて、その前に子音をおく方がよいケースが多いです。ただ、喉や舌の解放なら母音が使いやすくとも、しっかりしたコントロールには、共鳴に深さがいるのです(私は、芯と言っています)。


○子音の踏み込み☆

それを意図的にとるのに子音でやや強めに踏み込みます。低音や地声(胸声と言う人もいます)で声帯を一時的に無理して鳴らすような考えを取る人と目指すところは似ているのです。
こうした口形もコントロールも個人差があるので、トレーナーが聞いて判断して、もっともやりやすく、しかも、理想的な発声から入るのがよいと思います。


○首筋

 うなじ、首筋を伸ばしましょう。その前部が咽頭部で、気管支、甲状軟骨、喉頭、声帯と発声器官が集中しているからです。


○顎を上げる歌い手

フォークシンガーなどには、座ってギターを弾き、顎を出し猫背気味に歌う人もいます。個人差もあれば、声量、声域がなくともマイクによってもたせるし、くせ声が個性になる人も、そうした歌い方もあります。


○応用の応用

こうした発声の応用のステージでの応用については、その人のスタイル、最終的にメリット、デメリットも考慮しつつ選べばよいと存じます。
声や歌唱からは、不必要で負担だけがかかる振りやアクションも、ステージ効果ということからの、まったく別の観点が必要だからです。

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