論13.トレーナーによる方法やメニュの違いについて

Q.トレーナーによって、方法やメニュが違うのですが、どのように捉えていらっしゃいますか.

○トレーニングの方法論

 どんな質問も、相手やその状況や目的によって同じ答えにはならないと思います。ですから、私はいつも、多角的な見方、考え方のあることと2~3通りの見解とを示すようにしています。本来は、個別にしか対処できない質問、しかもレッスンを伴っているなかで対していくものだからです。

 こうして課題として取り上げるのは、一つの答えや一つの方法といった価値観しかない人が少なくないからです。ヴォイトレに関わる人に対して、その他の可能性をせばめないようにしてほしいからです。

トレーナーには、自分の都合によって、持論を万能なものとして、他の人に強制しないようにということです。

極端な例かもしれませんが、今の私の立場では、私自身の合わなかった方法や行う必要のなかった方法でさえ、相手によって効果的、あるいは必要と思えば採用します。もちろん、私と異なる方法やプロセスで教えられる複数名のトレーナーと一緒に仕事をしているから可能なのです。

○トレーニング法の誕生

 最初、トレーニングというのは、先輩や自分よりできる人がいて、早くそのレベルに追い付くために、そういう人のやっていることをまねることから始まります。ここで「早く」と「そのレベルに追い付く」は、必ずしも同じことではないし、「そのレベルより高くなる」ことは含まれてはいないことに注意してください。

 次の段階では、その分野の人のなかで、一流の人や憧れの人の「作品」や「舞台」から、「経歴」や「育ち」から、あるいは「毎日の過ごし方」や「トレーニングメニュ」などに学ぼうとします。その分野がメジャーになると、この順番が逆になり、憧れから入り身近な先輩をまねるとなります。

さらにそういう人が多く出てくると、そこで教えることを専門にする人が出てきます。そういったエッセンスをまとめてその人流のトレーニングとして伝えるようになります。トレーニング法の誕生です。その後、取捨選択を経て精選されて確立したり、ガラパゴス的に独自に進化して存在したりするのです。

○方法の分類

 ヴォイストレーナーの場合、声ですから、そこの対象となる分野というのはとても広いのです。私のところは研究所なので声を使う人ならあらゆる人が、なかには、さして声を使わない人、使えない人も来るのですから、対象=人類全部のようなものです。野球でいうと、監督やピッチングコーチ、フィジカルトレーナー、マッサージ師にドクター、カウンセラーなどが含まれます。

 以前、トレーナーの条件として次の3つをあげました。これをご覧になった人とのつながりで、能、歌舞伎の分野のヴォイトレにも関わるようになったのですが。

 トレーナーの条件とは、

1.声の育つプロセスを理解し、実践できること

2.個人差に対応できること

3.自分の力量の及ぶ範囲かどうかの判断ができ、そうでないときは、そのスペシャリストに紹介できるネットワークをもつこと

 今回は、方法についてみます。

A1.自分の方法

A2.自分が自分に試してみて、よいと思った方法

A3.他人の方法で自分に合うもの

A4.他人の方法で自分に合わないもの

 これをさらに、自分でなく生徒に対して

B1.自分の方法を生徒に使う

B2.A2を生徒に使う

B3.A3を生徒に使う

B4.A4を生徒に使う

 自分の方法といっても自分のキャリアのなかで変化していくものです。つまり、A1でさえ、

A1‐1.自分の最初に使った方法

 を、

A1‐2.自分がもっとも学べた方法、

A1‐3.自分がもっとも長く使った方法、

A1‐4.自分が今使っている方法

 となります。今、使っている方法も、いろんな儒応対や目的で分けることができます。人によっては、一つか二つでまとまることもあるでしょう。

 トレーナーなら自分のプロセスとその結果を把握しておくことが大切です。本当は。それは本人にはできません。長く自分をみた人、先生などに聞くことです。トレーナーを選ぶのに、そのトレーナーのトレーナーに、つまり、先生の先生に聞くのは、とても参考になることです。

 若くしてトレーナーを始めるとAからBへの移行が早くなります。

 また、人に教わった人は、その方法をCとして、自分の先生の方法というのが、その上に考えられます。そこではA3→C3、A4→C4となります。自分自身だけの経験より教えられた経験の分、豊かになります。

 問題となるのは、B4ですが、多くの場合、A4のレベルで無視されて問題にもあがってきません。

 自分の先生の方法や他人の方法で自分に合わなかったが、生徒に合うものはあります。これをどう取り扱うかが最大のポイントです。

 私のように 他のトレーナーを複数使っていると、さらに他のトレーナーの方法としてDがあります。これは、生徒をそのトレーナーに一任すれば、半ば解決しますが、「合っている」ということがどういうことかを検証しなくてはいけないのです。そこで問題になるときは、私とともに別のトレーナーも複数使い、見解を比べます。となると、E、F、Gとさらに増えます。

 ここまで必要になるのは、これまでにほとんどないタイプの人の場合です。あくまでトレーナー側でなく、本人を尊重してみると、理想はそうなるということです。

 いろんなところを次々に回って、多くのトレーナーに習っている人は少なくありません。しかし、時期やレベルが違うとその差もわかりにくいものです。ここのように、複数のトレーナーが同時に担当する例は少ないからです。同じ時期で比べずに、トレーナーや方法の客観的な評価はできるはずがないのです。

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