論40.ヴォイスの基礎と応用

○元気になれる目標

目標を発声でなく、発声によって何をなすのかにおきましょう。
目標は、直接、声に関わらなくてもよいのです。「並みの声」とか「不自由のない声を」などと考えるよりも、希望することを具体的にあげましょう。それを思うと元気になれるようなものがよいですね。
「声が自由に扱えるようになったら、何がしたいのでしょう」
そこから入りましょう。

○時間がかかる

 1日や1回のレッスンで、本当のところで変わることはありません。少しくせがとれても、しばらくするとすぐに戻ってしまいます。大切なことは、ある程度、時間がかかると思っておく方がよいでしょう。

○補充する

よく注意するのは、やり過ぎによる疲労での逆効果、結果としてマイナスの場合です。
たとえば、1日の分を取り戻そうとして、翌日に何倍もの発声を行うのはリスクが大です。
特に、体調の悪いときは、無理せずマイナス→ゼロの方向で声をキープしましょう。
ときには羽目を外したり楽しむことも大切です。本当は、毎日のトレーニングを続けた後、2、3年後にそうなれるとよいのですが。

○余力の必要

余力をもつことを考えましょう。貯金の考えで対処するのです。
1.毎日、調子がよいばかりでなく、うまくできないときがある。
2.体調が悪くてできないときがある。
3.モティベーション、メンタル面で支障があり、できないときがある。
3は、気持ちの問題ですから、何とかリセットして行います。
1、2のときのために、余力として、日頃蓄えておき、非常時に切り崩すと考えればよいのです。つまり、貯金の切り崩しと同じです。ときに、マイナスとなり借金することがあっても、それを自覚して、どこかで取り戻せばよいのです。

○くせの消滅☆

くせは、習慣のように、その人の身についたものなので、それなりの理もあります。その人に合っていて慣れているので、それに代わるものが身につく、つまり、別のものが代替されることで、排除されるまで、そう簡単にはなくなりません。すぐにそのくせが消えたら、それに代わる異なるくせがついたと思ってもよいほどです。
トレーニングの初期状態は、まさにそれを地でいくときがあります。偏りをとるのに、真ん中ではなく、逆の偏りをつけるようなことが効くからです。そうなると、本人の中では、全体像やバランスがつかめなくなるのが普通です。

〇ブレの管理

微調整のようなレッスンだからこそ、迷わずにわかりやすく早く直るのだと思ってください。それでは、少しよくなるけれど大してよくならない、というものです。
本格的なトレーニングは、根本的に行うほど、かなり状態がブレることもあるのです。本来は、そのブレを管理することが、トレーナーの仕事です。

○習得の目安

 本を一回読んで理解するなら1日かかりません。説明したら1時間もいらないでしょう。それで、頭でわかろうとしたら、すぐにわかった気になるでしょう。
しかし、その人の身体がレッスンで対応できるようになるには3、4回(1週間から1カ月)は、かかります。自分自身で対応するのに1、2カ月できるのなら、かなり、ローレベルなことでしょう。
それでも、定着するには3~6ヵ月。本格的というなら、この3、4倍、2~3年をみておくことでしょう。
このあたりが、カルチャー教室や大人の○○教室、ヴォイトレのスクールなどでの目安となるのです。

○改善、調整のヴォイトレの限界

 1回のレッスンで「全て」とか、「できるところまで」と言われることがあります。しかし、レッスンとトレーニングは、対処療法ではありません。最低でも、数回はセットとして必要です。
その間に試行してフィードバックし、調整し、セッティングするのです。
本人を満足させるだけではなく、根本的に基本を身につけるレベルを求めたら、それなりの回数を必要とするということです。
症状の改善だけを目的としての調整では、即効的ですが、その後、何ら問題が解決しないのです。真の実力がつかないのです。

○種蒔き

その人の日常や仕事のレベルにヴォイトレの結果が落ちてこないと、私は、トレーニングとは言いたくないのです。
 「毎日収穫するのではなく、種を蒔くのです」
 発芽するだけでも、ゆうに2、3年はかかるのです。

○姿勢と達成

姿勢は、トレーニングに臨むスタンス、態度を表します。声への努力だけがよい結果をもたらします。まさに、声があなたの人生に共鳴していくのです。そのひびき、輝きは、すぐには出てきません。やるべきことをやり続け、もはや、これ以上はないと、あきらめかけたときに気づくようなものと思っています。
知って、意識して、実行することが、トレーニングです。

○姿勢☆☆#

 背筋、胸椎、腰をまっすぐに立てます。
頸椎(首)―胸椎(背)―腰椎(腰)
ここで、胸の前の方の胸椎に(背)をつけたのは、背骨でみると、S字にカーブしているからです。
横からみると、耳の穴―肩の出っ張り(肩峰)―股関節(お尻の横の出っ張り、大転子)―膝の前外側の出っ張り(腓骨頭)―くるぶしまでが一直線になります。

○顎#

顎を引くことで、ストレートネックにしないようにします。やや顔は上向き、15度くらいにして背筋はまっすぐにします。人は、目線を水平にして、ものをみるようにしているのです。
これで頸椎は正しくカーブします。
顎は引いても二重顎になったり、喉頭を圧迫しないことです。「気をつけ」で、顎を引くようなのはよくないといえます。
日本では、頭を低くするようなマナーがあり、お辞儀の多用のせいで、しっかりと体を伸ばして保てない人が多いです。背の高い人は、そうなりがちです。猫背は、脊髄で神経干渉をまねき、神経も体液も流れが悪くなります。外国人や背が高い人といると背筋を伸ばせます。

○サブラクセーション

カイロプラクティックでいう、サブラクセーションは、技術、治療の意味です。「少ないエネルギー状態」というのが、直接の意味です。これは、よくない状態のことです。心身の充実を図ることです。
小指、薬指、中指で荷物を持つのが、お勧めです。

○発声の常識と現場での不具合☆☆

ヴォイトレや発声では、必ず姿勢のチェックをします。しかし、その通りでは、しぜんに行かないから絶えずフォームづくりとなるのです。
背筋を伸ばすのも、胸を張るのも、顎を引くのも条件ですが、個人差があります。それぞれに難しいということではありませんが、その人なりのスタイルがあります。
やり過ぎて力が入ったり緊張したりすると、悪い姿勢になりやすいです。顎と後頭部を軽く引くとくらいにイメージしてみるとよいでしょう。

〇肩甲骨と腰☆

首や肩では、肩甲骨がポイントです。「肩甲骨はがし」ということばが、よく使われています。左右の肩甲骨をできるだけ寄せてから、解放してみましょう。
腰では、骨盤の前傾、後傾を避けます。腰は反らないようにします。
背筋を真っすぐにします。しかし、「気をつけ」となると適切ではありません。固めすぎてしまうからです。お腹をまっすぐにします。そして、少し引き締めるようにイメージした方が簡単でしょう。
「でっちり鳩胸」というのが、推奨されていました。しかし、それではよくないです。

○準備運動 ~回すこと

次の順で、回してみましょう。準備運動です。
首を回す
肩を回す
腰を回す
股関節を回す
足首を回す

○頭声共鳴を消し込む☆☆

頭部の共鳴を消し込みます。胸声の声の芯だけで通してみます。難しければ、低音にしていきます。
重いバケツを持つと重心が下がります。そこで指を使っていることは、よいことです。息から声になった共鳴を呼吸で動かせるようにしていきます。
マックスでマックスを出せるレベルから、ミニマムでマックスを出せるようにしていきます。
深く暗い音色でイメージしてください。鋭い声を太く幅を均一に保ちます。強くしていったり長くすると、自ずとチェックできます。

○20秒からのヴォイトレ

母音の5つの音のどれかを2秒ずつ10秒伸ばします。これを最低の標準ベースとして行います。同じ音、もっともやりやすい母音でかまいません。
中級で各3秒、上級で各4秒、5つの音が1つの線の中で統一されるようにします。

〇3割増しを目指す

いつも、3割くらいの余力をつけようと試みることです。
すぐに厚くできること、太さや強さ、長さを、呼吸でコントロールできることを目安にしてください。そこで体と息を支えとして獲得するトレーニングにしていきましょう。

○共鳴と芯

 今、出している声が、しぜんに体から出ていて、何時間でもそのままで出せるようになることが第一条件です。大きくも小さくも、長くも短くも自由に3割ほど増せる余力のあることです。つまり、本番は7割で行うのが目標です。
「共鳴―芯」を捉えていきましょう。
それを頭声だけで行うと、多くの人は、浅く薄くなってしまいます。呼吸を充分に使えず、回せず、口内のひびきだけになりがちです。
もっとも悪い例は、キンキンした声です。メタリックな声なら、使いようによっては効果的です。

○ヴォカリーズ

5つの母音を統一してきましょう。口形を変えず、腹話術のようにイメージしてみましょう。一度、クリアな発音を忘れ、母音の1つに捉えてみます。それを一つの共鳴のなかで揃えてみてください。一つの共鳴から母音へと変化させていくのです。
「ラ」や「マ」では、浅く口先でつくり、そこからこもらせたり広げたりする人が少なくありません。

○共鳴の純化

 喉でのノイズ、くせのついたひびきをとっていきます。そこに共鳴を利用していきます。
そのときに、日本人の多くは、体―息の支えと発声―共鳴を一体化できないのです。そこは、低音、話声域の胸振のところ深いポジションを充分に使えていない点での問題です。

○統一音声

話す、語る、しゃべるという基本に根差していない声を、そのまま歌声に結びつけても可能性はしれています。この場合、歌唱声域のことです。
それは、あたかも地声―裏声のように話声―歌声を分けてしまっているといえます。そのままでは、統一の問題がスルーされて、いつまでも解決しないまま残ってしまうのです。☆

○高声からのアプローチ

 ここまでを、反対からのアプローチとして、頭部共鳴、ファルセットから持ってくる方向があります。それは特別なことではありません。ことばではなく、歌声、あるいは動物の鳴き声、楽器の音楽的なひびきから降ろしてきたともいえます。
日本では、いつの間にか、こちらばかりが発声法として標準化されてきたように思われます。それは、合唱の唱歌などで高音を出すことが入り口となったためでしょう。カラオケの発展もあり、歌唱のヴォイトレの効果として、高音が第一目的として取り入れられてきたせいともいえます。
それがよくないのではなく、そこは、一面でしかないということです。それ以前のもっともメインであることがスルーされてきたのです。

○倍音共鳴

 オクターブは、円の螺旋構造のようなものです。1周え1オクターブとすると、同じ音名が縦1列に並びます。ピアノの鍵盤なら、このオクターブが7つ(7オクターブ)あるわけです。人が歌うのは、2オクターブ弱、つまり、2周りまでです。
そこで高低の2つの点(同じ音名)を意識します。低いドを胸振したら、高いドが共鳴します。倍音として高いドが聞こえるようにです。頭部に感じる振動、頭声共鳴で瞬時に切り替えられるようにします。低いソなら、真ん中のソと高いソと3つみてオクターブになるでしょう。
とても声の高い男性やソプラノの女性では、胸のひびきを感じにくいことがあります。そういうときは、無理しなくてもよいです。ちなみに鼻のツボは、上から清明、鼻通、迎香です。

○選択の前に

 こうした基本の発声トレーニング(体―呼吸―発声―共鳴)には、さまざまな考え方とメニュがあります。どれでもよいと思います。
可能性として、早く絞り込む前に、いろいろとできるようにした方がよいと思います。
その選択は、声域より音色、音色より発声(体、息との結びつき)を優先します。

○多様性と統一

発声は、多様であることをよしとします。しかし、そこでも声を中心に理想的なもの、合理的なものはあります。それに反するもの、喉によくないものを除くようにして、統一された発声トレーニングをすることがベースです。

○ヴォイトレの目的と戻すこと

 ベースのヴォイストレーニングとは、発声そのもののよし悪しを問うものではなく、発声できる体、呼吸、声と、それを結びつけるトレーニングと考えます。
ヴォイトレは、声のトレーニングというだけではなく、声をトレーニングできる状態に条件を整えていくことが最初で最大の問題です。☆
それを踏まえないで先に行くから、2、3年であるところに到達すると同時に限界がくるのです。
今の状態から一度、大きく戻さないといけない場合が大半なのに、皆、今の状態のベターの声から先に行き、戻さないのです。それでは最大の可能性を追求するベストの声へは達しません。

○使い道から調整することと器づくり

 歌唱においては、歌や歌う人によって、あるいは、そのときの必要度によって、発声=声の重要度や優先順位が著しく違ってきます。
日本人は、高音や低音が出にくく声域が狭いため、どうしても、そこにばかりに目がいくのです。本当は、それを支える声量、音色の深さ、声や息の深さが、それ以上に劣っているのですが、そうした声の細さ、息の浅さなどを全く顧みないのです。

〇バランス、やりすぎにとらわれない

「正しく発声」とか「正しい声」でバランスだけを整えるのは、目的としては、とても低いのです。
リズムや音程を正しくとれるだけで、プロのプレーヤーというような人はいません。真の上達には普通の基礎ではなく、徹底した基礎と応用がいるからです。
 歌唱では、声量、声域、ことば(発音)、声質(音色)、声では、強さ、長さ、高さ、発音、表現なども、やりやすさやレベルの高さなどで、それぞれの優劣が違います、そのことを知っていきましょう。
ヴォイトレでは、どう応用するにしても、それに対応できる器を大きくするのが基本です。

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