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日本代表に最も必要なセットプレー

  ラグビーにはセットプレーと呼ばれるものがある。
  キックオフ、スクラム、ラインアウトだ。
  これはプレーが止まったところからスタートする。フォワードが起点となっている。
  セットプレーが安定していると次の攻撃がスムーズに展開できるので、セットプレーの安定は最も求められることだ。

  しかし僕は、この3つよりさらに大事なセットプレーがあると考えている。
  それは「プレスキック」だ。
  ラグビーではペナルティでのプレスキック3、トライ後のゴールでのプレスキック2を得ることができる。
  (ドロップキックでも構わないのだか確実性を求めると当然プレスキックで蹴ることになる。)
  これは、ペナルティキックもトライ後のキックも、決めればラッキーのボーナスステージなどでは決してない。
  
確実に決めなければならないのだ。

  ティア1のチームはテストマッチやワールドカップと大舞台になればなるほど、決してゴールを外さない。
   当然外すこともあるのだが、

    外す確率が限りなく低い

   
キックミスなどイージーな外し方をしない
  
    
ペナルティからゴールを選択した時は、距離が50m近くあっても必ず決めてくる
 
   どのような位置、角度、距離から蹴ってもボールの回転、軌道が常に同じなのだ。

   ラグビーは攻撃側が有利になるように常にルール改正がおこなわれてきた。 
   そのため、最近ではゴールを狙わずにトライを取りに行くシーンが目立つ。
   しかし、僅差になればなるほど、ティア1のチームでもペナルティをもらうと必ずゴールを狙ってくる。

またトライの後にも必ずゴールがある。トライの5点が確実に7点になるのはとてつもなく大きいことなのだ。

 ゴール前、ラインアウトからモールでトライを取りにいくのもラグビーの見どころの一つだ。
  このモールにしても、トライ後のキックを考慮し少しでも内側へ運んでいこうとする。
   そうすると相手チームも守り方がわかりやすくなる。
   
   しかしキッカーが優れているとフォワードはそんなことを考える必要がない。
   モールの攻め方のバリエーションが増え、結果的にフォワードを助けることになるのだ。

   2022/7/6のフランス代表戦を観ただろうか。
  あの試合、前半14分の時点で負けが決まっていたといっても過言ではない。
   前半12分山中選手のトライ後、李選手がゴールを外したのだ。あの角度からのキックで外すということは絶対にあってはいけないのだ
  あのキックが決まっていれば、後半72分15-20の場面17-20となっていたとする。
  75分のペナルティと2つのペナルティを狙うことができたのだ。そうなれば結果23-20となっていた可能性があったのだ。
 
   これは決して結果論での話ではない。
   当然ペナルティゴールを決めたあとの試合展開は変わってくる。
   だか断言できるのはティア1を相手にあのキックを外していては100%勝てないのだ。
  
   ニュージーランド元代表のダン・カーター選手はご存じだろう。
   彼は歴代ニュージーランド代表の中でもNo1の名スタンドオフだと私は思っている。
   21歳でニュージーランド代表となり、とにかくキックの正確性がずば抜けていた。ボールの回転、左キックからのフック回転気味の軌道、どの位置、角度、距離からでも寸分違わなかった。
  
  そして、ダン・カーター選手に匹敵するキッカーだった日本代表選手がいた。
  現京都産業大学監督の廣瀬佳司選手だ。
 彼も同じく大学3年のときに代表選出され、ニックネームはゴールデンブーツと呼ばれた選手だ。

  彼のキックは今でもすごく印象に残っている。
  その当時はまだルーティンという動作が無かったのもあるだろう。ゴール中央や斜め45°くらいの比較的優しいキックだと、ボールをセットするのも早く、意図も簡単にキックし、ゴールして、淡々と帰っていく姿が印象的だった。
 
  彼はそれまでに努力を重ね何百万回、何千万回とボールを蹴ってきたのだろうと想像できた。 
  「目を瞑ってても入るわ!」と言わんばかりに蹴っているようだった。
   

  ゴールキックはライン際の端からの難しいところからをどれだけ決めれるかなのではない。
  端からのキックは外れても仕方がないという状況が結果入ることが多いのだ。

 その逆で中央、斜め45°、中央付近50mの距離をいかに外さずに、確実に決めれるかなのである。
 そして、ダン・カーターなどの超一流のキッカーは中央付近で50mあっても必ずポールのど真ん中を通してくるのだ。
  ボールがどんな軌道でどんな回転をして、どこを通っていくのか。
  当然この精度が高い選手ほど端からのキックも外す確率は下がるのだ。

  ゴールが決まったか決まってないかを観るだけでなく、今後ラグビーを観る上でそういったところも注目してもらえたらと思う。
  その選手のキックの上手さがわかってくるだろう。
  そういう、観客の肥えた見る目が日本代表をさらに強くしていくのだと私は思う。
    
  

   現在のスタンドオフ争いは、松田力也選手が1歩出ている感じだろう。
   彼もプレスキックの精度は非常に高いが、やはり斜め45°付近からのキックでイージーに外すことがある。
   個人的な意見になるが、山沢拓也選手、李承信選手のキックは、他のキッカーと質が違うのを感じる。
  特に山沢拓也選手だ。
  彼のプレスキックはボールが柔らかく飛んでいき、さらに非常に高くあがり飛距離が出ている。
   うまく説明ができないが、フワッと上がり飛んでいく...ボールの本当の真っ芯を蹴っている?みたいなイメージか...。 
   李承信選手も山沢拓也選手と質がよく似ているように感じる。 
   この2人は特にキックの能力が高いと感じる。
   だが彼らも2週連続で行われたフランス代表戦でイージーなプレスキックを外していた。

   プレスキックを蹴る上で重要なのは、気持ちの強さと経験値になるだろう。
   松田力也選手も個人的には、2019年のワールドカップの時には不動のスタンドオフになっていてほしかった。
   若いうちからスタンドオフとして、プレスキックを蹴ることが、超一流のキッカーが生まれる重要なポイントだと思う。
   だか、松田力也選手、山沢拓也選手も27歳とまだまだ若い。
   李承信選手なんかはダン・カーター選手や廣瀬佳司選手が代表になったのと同じ歳である。
   そして彼ら以外にも素晴らしいスタンドオフはたくさんいる。
   

   スタンドオフだけで話をしてきたが、プレスキックは誰が蹴ってもよい。
   フォワードの選手でも構わないのだ。
   世界No1、器用なフッカーの堀江翔太選手などは、飛距離もでてめちゃくちゃ上手いような気がする。まぁ蹴ることはないだろうが...。

    昔オーストラリア代表でジョン・イールズというロックの選手がプレスキックを蹴っていたのを思い出す...。
   ニュージーランド代表とのテストマッチで40mほどのキックを決めて劇的な勝利を収めた時、おデコと耳にテーピングをグルグル巻にした2mの大男が両拳を突き上げてるのが、とてもカッコよかったのを思い出す。

  
  少し話が逸れてしまったが、僕はフルバックの野口竜二選手を個人的に推している。 
   また、山中亮平選手も7月のフランス代表戦では素晴らしいパフォーマンスを見せていた。そして山中亮平選手は何よりもキックが飛ぶ。 
   だがフルバックには絶対的な松島幸太朗選手がいる。しかし彼はウイングで出ることもできる。
  
   野口竜二選手は東海大学時代キッカーを務めていた。  
   山中亮平選手もあれだけボールが飛べばキッカーとして申し分ないだろう。
  
   今、日本代表に出てきてほしいのは「こいつのプレスキック力だけは(メンバーから)外せない」
 
 と言わせるプレーヤーだ。

  野口竜二選手や山中亮平選手にもそんな選手になってポジションを掴んでほしい。
   当然プレスキック以外のプレーも要求されるだろうが、それぞれの個性を持った素晴らしい選手たちばかりだ。

   僕的には李承信選手を今から起用し続けて、自信と経験を積んで絶対的なキッカーになってほしいとも思う。

  フォワードというポジションはセットプレーになると命を削るほど力を使う。その時バックス選手はポジショニングし、ただ立っている。
  それが逆になるセットプレーが「プレスキック」だ。
   フォワードのように命を削る必要はない。簡単に得点を得ることができるのだ。
   だかその簡単な得点を確実に得ることができる武器を血のにじむ練習で数千万回蹴って手に入れてほしい。

   ワールドカップ2大会連続ベスト8に残るには、どんなところからでもプレスキックは外さない、そんな選手が最低2人はフランスワールドカップまでに必要だ。

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