ピスタチオとカントッチョ
先日、友人と久しぶりに会い、プレゼントを貰った。私の大好物、その名はカントッチョ。
ビスコッティとも言うそうで、結構硬めで厚め、2センチほどの幅で切り分けたようなビスケットだ。嬉しいことにピスタチオ入り。ピスタチオもまた私の好物で、“ピスタチオ入りカントッチョ”なんて、もう、この上ない贈り物なのです。
40年近く前の話。大学4年になる直前の春休み、友人2人と私は、初の海外旅行に踏み切った。それは確か、“ヨーロッパ周遊・学生卒業旅行”と銘打った、有名旅行会社のパッケージツアーだった。添乗員同行、9カ国、21日間の旅。
香港とインドのデリーを経由し、ローマまで27時間。一度脱いだ靴が二度と履けなくなるほど、足がパンパンになった。搭乗機はアリタリア航空。背の高い素敵なスチュワードさんはイタリア訛りの英語で、何かお飲みになる?と優しく聞いてくれる。友人の一人は、アルコールを一切受け付けない体質で、牛乳大好き女子。「ミルク、プリーズ」と答えた。すると程なく、ビールが運ばれてきたのだ。
私たち、今でこそおばちゃん体質なので、「あら、違いますよ、私が頼んだのはミルク。ビールではありません」と突き返すくらい朝飯前。しかし、当時はピュアな女子大生、素敵な彼に断りきれず「センキュー」とか言って受け取ってしまう。だいたい、彼だって、機内で大人(一応)から牛乳を注文されるとは夢にも思うまい。ミルクはビールに聞こえるらしく、結局、それが3回ほど続き、私は上空で酔っぱらいと化した。友人が牛乳にありつけたかどうかは覚えていない。
さて、アリタリア機は無事、レオナルド・ダ・ビンチ空港に到着、別機に乗り換え、ギリシャへ向かった。私たちにとっての初海外地はギリシャのアテネだった。
翌日はクルーズ船で島巡り。美しきブルーの海、白壁に青いドアを持つ家々、これぞエーゲ海!と若き日の我々はその景色にうっとり。
この旅でお世話になった添乗員さんは、5カ国語を操る才女。特に南ヨーロッパが得意な、とても旅慣れた人だった。ちゃきちゃきの江戸弁で私たちを引っ張る姉御肌。
ギリシャのどこか、名前は忘れたが、土産屋に立ち寄った時だ。
「ここのピスタチオは最高よッ!」と太鼓判を押すので、私たちはせっせと買った。これが私にとって、人生初のピスタチオ。まことに美味で、未だにピスタチオを見つけると、飛びついてしまう。
その後、紆余曲折、様々な事件(怪我だの発熱だの)を乗り越えて、3週間は過ぎていった。忘れられない、大切な思い出だ。
大学を卒業し、私たちはそれぞれ就職。だが3年目、私は早々に退職し渡英した。この件に関しても、いつか別の機会に書いてみたいと思う。
イギリスからの帰り、スペインに寄った。マドリードでは、スペイン人の知人が他の友人とシェアする部屋に泊めてもらった。マドリーっ子は、週末はゆっくり寝ているのが常で、私が出立する前日、「明日の朝は私たち起きないから、これ食べていってね」と、エスプレッソマシーンと、ずしりと重いビスケットの大袋を差し出された。それが、ここの朝食の定番、カントッチョだった。私は“グラシアス”と受け取った。
朝、エスプレッソにミルクをたっぷり入れ、そこにカントッチョを浸して食べる。食べ方は前日の朝に学習済み。しかし、何本ほど頂いて良いのか分からないまま、美味しくて止まらず、気づけばずいぶん減っている。うわっ、食べ過ぎた。けどまぁ、皆寝てるし、日本式に手を合わせて、グラシアスと部屋を後にした。そんな気がする。
これが私とピスタチオ、そしてカントッチョとの出会い。
さて、本日はコーヒーを濃いめに淹れて、頂いたカントッチョを至福の気分で賞味致します。🙏
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?