「五剣帝」企画書

【キャッチコピー】
最強故に戦い、最強故に散りゆく剣士たちの物語。

【あらすじ】
 大陸を5分する5つの大国。5国間条約により、その平和は保たれていた。曰く、大国間の紛争を侵略によって解決してはならない。剣帝同士の決闘により解決すべし。これに反すれば、その他全ての大国による制裁が与えられる。
 各国が誇る最強の剣士、剣帝。負けること、逃げることは決して許されず、戦い、勝つことだけがその存在意義である。
 しかし、実際には決闘にまで及ぶ紛争問題はそう起こらず、剣帝は武力の象徴という印象が強かった。ある事件が起こるまでは。
 時代の趨勢に否応なく飲み込まれていく5人の剣帝。使命を果たすため、野望を遂げるため、生き残るため。それぞれの想いを胸に、剣帝は宝剣を振るう。

【第1話ストーリー】
 5大国のうちの1つ、シュギ国の夜。規則正しく縦横に配置された通りを市中警ら隊が見回っていた。濃紺の制服の腰には剣が提げられている。
 警ら隊の隊員カブルは、嗅ぎ慣れない臭気を感じた。その瞬間、進む先から女性の悲鳴。駆け付けたカブルたちが見たのは、人に食らいつく二本足で立つ狼。人が獣に変化した姿、獣人。
 抜刀して獣人に向かうカブルたち。獣人は激しく抗い、警ら隊員をも手にかける。捕縛は無理だと、意を決して獣人の懐に飛び込むカブル。獣人に押し倒されながらも、深く突き刺したカブルの剣がとどめを刺した。
 動かなくなった獣人が人間の姿に戻る。その背を彩る刺青、そして首に下がった宝飾品を見て、警ら隊長は青ざめた。

 5大国の1つ、ジーシャン王国の第1王子がシュギ国で殺害された。この報せは不自然なほど早く大陸に広まった。王国の現国王は、第1王子の遺体とカブルの身柄をシュギ国に要求。シュギ国はこれを拒否。むしろ、申し入れなく国内に足を踏み入れ国民を襲った第1王子の行動を侵略行為であるとして非難。
 不可解な点を残しながらも、事件への両国の見解は一致を見ず、ついには王国が剣帝同士の決闘を申し入れ、シュギ国がこれを受ける形となった。

 ジーシャン王国の剣帝、リーハは、褐色の肌に金の髪を持つ、少年と言っていいほどの若さの剣士である。王国では5年に1度、剣帝候補生による剣技試合が行われ、その優勝者が剣帝となる。彼は昨年初めて剣帝となった天才剣士だった。

 修練場で決闘の報を受けるリーハ。少年の緑の瞳は動揺を隠せない。孤児だった彼は、寝食を得るために候補生となっただけであり、国のために命を賭す覚悟などなかった。ただ、自分を候補生として拾ってくれた恩人には報いたい。その思いで磨いた剣の腕だった。

 リーハが私室に戻ると、中で1人の女性が待っていた。その姿を認めた瞬間、リーハは咄嗟に跪いた。待っていたのは第1王女、ガレーネ。彼女こそリーハの恩人だった。第1王子に継ぐ王位継承者であったガレーネ。剣帝になってからも直接会える機会などなかった。今となっては王位継承者第1位。リーハはとても顔を上げられなかった。
 そんなリーハの手を取るガレーネ。彼女は、王や第1王子のせいで命を賭けさせることになってしまったと詫び、生きて帰って来て欲しいと伝える。彼女の言葉を受け、リーハの決闘に臨む覚悟が、ここに決まった。

【第2話以降ストーリー】
 決闘当日。5大国に囲まれた大陸の中央に位置する決闘場。ドーム状に囲われた円形の舞台の上で2人の剣帝が向かい合う。
 ドーム上部にある見届人席からは、シュギ国の幼い帝と補佐役のヤクト、ジーシャン国王と第1王女ガレーネ、そして立会人であるヒャクヤ国の剣帝オウカが舞台を見下ろしていた。

 それぞれの護衛に囲まれ、立会人席は既に緊迫感に包まれている。シュギ国の帝は、怯えを隠しきれず不安そうにヤクトに寄り添っている。ジーシャン国王は酒にツマミに飲み食いし、ガレーネがそれを冷やかに見つめる。淡い彩色のゆったりとした着物に身を包んだ剣帝オウカは、幾何学的な模様が施された白い面を着けており、表情が分からない。その手には太刀が握られている。

 「使命を果たし、剣帝たるを全うせよ。」オウカの口上により、決闘の幕が上がった。決闘は、いずれかの剣帝が命を落とすか、国家元首が負けを認めて降伏するかにより決着する。

 リーハの持つ金色に輝く諸刃の双剣、その剣格に嵌め込まれた緑色の珠玉が光を放つ。2つの剣から放たれた緑色の光は、やがて旋風のように螺旋を描きながらリーハの身体を包んだ。
 瞬間、目にも留まらぬ速さで距離を詰め、シュギ国剣帝に斬りかかるリーハ。シュギ国剣帝は身の丈程の太刀でそれを受け止める。しかし、リーハの振るった剣が起こした刃風が彼の着るローブの肩口を傷付けた。人間業とは思えぬ速さで敵の周りを飛び回りながら斬りつけるリーハ。珠玉が強く光るほど、リーハのスピードが上がっていく。

 大陸中で採取される様々な珠玉。大まかにはその色により分類され、異なる色ごとに違う性質のエネルギーを発する。剣帝は、この珠玉のエネルギー、気を己の身体に作用させて戦う。リーハの珠玉は彼の体内から反応速度を強化していた。また、外部に溢れ出た気が彼の身体を覆い、空を切り裂いて高速移動を可能にしている。人々はリーハをこう呼んだ。「飄風の剣帝」と。

 なるほど、飄風とはよく言ったものだ。シュギ国剣帝、ギファは縦横矛盾に鋭く飛び出してくるリーハの斬撃を受け止めながら感嘆した。珠玉の気は徐々に出力が増すもの。この早い段階で既にこの速度。ここから更に加速するとなると無傷では受け切れない。
 しかも、飄風のは双剣それぞれに珠玉を施している。もし2つの珠玉の気を十分に使い熟せるのであれば、その力は計り知れない。彼は紛れもない天才。だが…

 ギファの持つ長刀の柄の頭に埋め込まれた珠玉が白い輝きを放った。その瞬間、振りかぶっていたリーハの左腕に突如斬撃が飛ぶ。危険を感じ、咄嗟に身を捩らせ飛び退いたことが幸いし、リーハの傷は浅くて済んだ。しかし、この一撃によりギファとの距離が開いた。この間合いではリーハの斬撃は届かない。

 再度距離を詰めるために跳ぼうとするリーハ。ギファの斬撃がそれを阻む。リーハとギファの距離は広く、本来はギファの長刀を持ってしても届かない間合いのはず。しかし珠玉の力により強化されたギファの斬撃は空を切り裂き、遠間のリーハを襲った。
 すんでのところで身をかわすリーハ。だか息つく暇もなく強力な斬撃が次々と飛んでくる。この斬撃を受け止めたら終わりだ。リーハはそう直感した。一度受ければ、その剣圧に動きが封じられ、逃げ出せなくなる。ギファの連撃を何とかかわすリーハ。しかし距離を詰める余裕がない。
 リーハは相対する敵の恐ろしさを真に実感した。これが歴戦の強者の力。これが、「白月の剣帝」。

 シュギ国剣帝ギファは、彼の長い白髪が示すとおり、今の5国の剣帝の中で最年長であり、剣帝歴も最も長い。現剣帝の中で唯一、複数回の決闘を経験しており、それでもなお剣帝であることは不敗を意味する。 
 磨き抜いた剣技はもちろんのこと、彼は珠玉の放つ気の操作にも長けていた。瞬間的に大きな力を発する白い珠玉を用い、右腕の剣の振りを強化。更に溢れ出た気を剣に乗せ、斬撃として放出していた。爆発的に発せられる気を必要な箇所に正確に流し込み、適切なタイミングで放つ至難の業。彼はその強弱、速度を自在に操り、悠然と佇んだまま敵を斬り伏せる。

 ギファに比べれば、リーハの操気は未熟で素直過ぎる。斬撃を避けながら、リーハは圧倒的な技術の差をひしひしと感じていた。しかし、彼の心は折れていない。何としても生き残る。そのために出来ることを必死で探していた。自分がギファに勝ち得るもの… リーハは大きく息を吸い、2つの珠玉の力を最大限に高める。

 2人の剣帝が死力を尽くす中、見届人席で異変が発生していた。ジーシャン国王が突如息を荒くし、苦しみ出したのだった。国王に駆け寄る護衛とガレーネ。すぐに医術の心得を持った者を寄越すように指示した彼女の口元に笑みが浮かんだのを、シュギ国の補佐役、ヤクトは見逃さなかった。

 ヤクトは、ギファが話していたことを思い起こしていた。突然の王子の他国侵入。そして獣人化。早過ぎるジーシャン王国の反応と、決闘への即断。今回の決闘は明らかに何者かの意図によって仕組まれたもの。
 ジーシャン王国ならそれが可能だが、王国にとってリスクも損失も大き過ぎる。それに見合う目的は何なのか。リスクに見合う見返りが期待できたとしても、ここまでの危険を冒すというのは、確かな勝算があるということなのか。それとも、失敗に終わっても問題のない備えがあるのか。首謀者には、強力な後ろ盾があるのかもしれない。
 我が剣帝はどこまで推察しておられるのだろうか… ヤクトは、帝を護衛にしっかりと守らせながら、ガレーネの動きを観察していた。

 ヒャクヤ国の剣帝オウカは、冷静に状況を俯瞰していた。決闘のみならず、見届人となる両国元首間でも不審な動き等がないかを立会人として見張らねばならない。
 決闘が始まってから、シュギ国側に不審な動きはなかった。とすると、ジーシャン国王が苦しみ出したのは持病か、それとも王国内部の者の仕業か。いずれにせよ、自分が介入する事態ではない。
 眼下では、2人の剣帝の珠玉が強い輝きを放っており、戦いが終盤に差し掛かっていることを示していた。ジーシャン国王を襲う異変。熱を帯びる決闘。きな臭いことに巻き込まれたなと考えながら、オウカはそっと太刀の珠玉に触れた。

 それぞれの思惑が絡み合いながら、事件は収束へと向かっている。しかしそれは解決ではない。この決闘の決着が意味するものは、終息ではなく、序章である。いくつもの小さな流れがやがて1つになり、剣帝を、大陸を飲み込んでいく。辿り着く先にあるものは、光か、闇か。

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