「ダンジョンかんさ!」企画書

【キャッチコピー】
人間と魔族の異種族バディが奮闘するファンタジックお役所仕事物語。

【あらすじ】
 人間と魔族の戦争が終わり、人間の王と魔王によるターン制政権となって早100年。
 政権を自分たちのターンにするには、現政権が設置したダンジョンを突破し、ラスボスに辿り着かねばならない。
 中ボスたちは各地に様々な難ダンジョンを築く。ただし、相手を死に至らしめるもの、攻略不可能なもの等は許されない。
 かつて、悪徳ダンジョンにより勇者だった父を失った女騎士リリは、世に蔓延る不正ダンジョンを取締まり、そして父の仇を探す為にダンジョン監査員となる。
 派遣された担当地区でリリを待っていたのは、魔族側から派遣された冷徹な監査員ノクターン。
 熱血女騎士と冷徹魔族の異種族バディによるお役所仕事が開幕する。

【第1話ストーリー】
 新米監査員として低級エリアに派遣された女騎士リリ。単身、彼女は村外れの洞窟へと向かった。

 これがダンジョン… リリの脳裏に父の姿が浮かぶ。歩を進めようとした瞬間、後ろから声がした。

「困りますね。監査員が規則違反とは。」

振り返ると黒いローブに身を包んだ濃紺の髪をした青年がいた。彼が続ける。

 「監査は、人魔共同で行うべし。」
 「魔族の監査員か…」

リリは青年を睨む。一見人間だが、ツンとカドのある耳は魔族の証。

 「ならついてくればいい。」

そう言って中へ入るリリ。溜息をつきながら青年が続く。

 洞窟の最奥で、猪のような魔物が2人を出迎えた。リリが猪に問う。

 「お前がボス戦闘を?」
 「いえ、私は管理のみで。戦闘はこいつに。」

猪は部屋の奥で寝ていた狼のような四足の魔物を呼んだ。リリは眼鏡型の魔法具で狼を見る。表示された能力値は高いが、基準内。

 「数値に違反はない。」
 「勇者から勝ち取る報酬で暮らしているものですから、強い設定にしていますが、違反など…」
 「だが魔物の数はどうだ? 道中かなりの魔物を見た。基準を超えるエンカウント率なのでは?」

リリの言葉に、猪が書類を差し出す。

 「魔物名簿をご覧ください。決して…」
 「名簿など… 食物の受払管理簿を見せろ。」

ギクリとする猪。リリに睨まれ管理簿を差し出す。書類を見たリリが言う。

 「支給食数が多過ぎる。基準内の配置数でこの消費は不可能。基準値超えは、改善命令だけでなく罰金だぞ。」

勝ち誇るリリ。そこに青年が割って入る。

 「その書類を見ても?」

リリは不満げに管理簿を渡す。書類を見た青年が言う。

 「確かに、かなりの数が配置されているのでしょう。しかし、エンカウント率は戦闘に遭遇する割合。一度の戦闘に多数の魔物を参加させれば、基準内に抑えることも…」

すぐさま猪が続ける。

 「もちろん遭遇率は調整してございます!」
 「詭弁を…!」

怒り露わなリリに魔族の青年が言う。

 「証拠がなければ、あなたの言葉とて詭弁。戦闘データを見ても?」

 猪が差し出した書類を見て青年が続ける。

 「やはり、計算上数値は基準内。」
 「言い掛かりも甚だしい! どう落とし前を、お嬢さん? 」

猪のにやけ顔と、青年の冷たい視線がリリに向けられる。

 やられた! とリリは感じた。魔族同士、グル。監査員が不審死を遂げた例もあると聞く。リリは剣の柄に手をかけた。

【第2話以降ストーリー】
 ゴクリと唾を飲み込み、剣の柄を握るリリ。その姿を見て、猪が言う。

 「おっと、立場が悪くなったら武力行使ですか? そちらがその気なら、こちらも正当防衛をさせていただきませんと。」

猪が指を鳴らすと、狼がグルルと喉を鳴らしながら敵に飛びかかろうと構えを取った。戦闘を覚悟するリリ。
 監査員を目指す中で、戦闘訓練も十分に積んできたつもりだ。目的を果たさず、こんなところで死ぬわけにはいかない。

 「双方、そこまで。」

睨み合うリリと狼の間に、青年が静かに割って入った。

 「まだ私の話が済んでいません。」

青年は落ち着き払って言葉を続ける。

 「確かに、戦闘データを参照しても、エンカウント率の基準違反を示すものはありませんでした。しかし、ここに気になる数値が。」

青年が周りに見えるように書類を持ち上げ、ある項目を指し示す。青年が示した項目は使用魔力量。

 「ボス戦において記録された、魔物側の使用魔力量が異常に多い。測定器の故障でなければ、D級地のボスではこのような数値が出るはずがない。測定器は?」

 青年の冷ややかな視線に気圧されながら、猪は測定器を差し出した。青年は、小さな声で呪文を唱え、魔力で小さな黒い炎を手に生み出す。それに反応した測定器の数値を見て、青年が続ける。

 「測定器に異常はない。であれば、異常があるのはそちらの方ですね。」

言いながら青年は狼を指差した。
 呆気に取られて事態を見守るリリ。こいつは何を言っているんだ? ダンジョン側とグルではなかったのか?
 うろたえた猪が言う。

 「い、異常なんて…! 先ほどそこのお嬢さんに計測してもらったじゃないですか!」

 確かに、リリが計測した時には、数値上何も異常は見られなかった。魔力値も飛び抜けて高いということはなかったはず。
 青年が続ける。

 「彼女が使用した魔法具は魔物の現状の能力値をリアルタイムで表示するもの。もし、その魔物が本来の姿ではないとしたら…」

その言葉を聞いて、リリがハッとして呟く。

「まさか、形態変化を持つ魔物…?」

窮地に陥った時、その形態を変化させ、能力値を大幅に上昇させる魔物がいると聞いたことがある。
 リリの言葉を聞いた猪が笑いながら言う。

 「形態変化なんて! 魔王クラスの魔物でもない限り、そんな能力を持っているわけがないだろう! 仮にこいつがそうだとして、私のような低級な魔物に従うとでも?」

 狼を見ながら青年が答える。

 「確かに、形態変化を持つ魔物とは考えにくい。この部屋の戦闘痕を見るに、せいぜいB級程度のものでしょうね。」
 「こいつがB級に変化する能力を持っていると? 話が矛盾しているんじゃないか?」
 「私は、そこの狼が形態変化能力を持つとは一言も言ってませんよ。」

猪に視線を据え付け、青年が続ける。

 「そもそも、私がこちらに派遣されたのは、違法呪具の使用疑いがあると報告があったため。あなた、あの狼の魔物に下級変化の呪法を施していますね?」

 青年の言葉に、リリにも朧げながら事態が飲み込めてきた。

 「本来なら自身の魔力が通じない上級の魔物を呪法で弱くしてから、意識操作の魔術を…?」

青年がリリの言葉を継ぐ。

 「そう。そして、勇者が来た時には呪法を緩めて本来の能力値で戦闘させる。支給食数が多いのも、本来上級の魔物であり、多くのエネルギーを必要とするそいつを飼い慣らすため。」
 「だったら、どうするんだ…?」

 猪の問いかけに青年が答える。

 「違法呪具の使用及び他の魔物の権利侵害並びに基準違反ボスの設置。当ダンジョンを即時閉鎖するとともに、あなたの身柄拘束を拘束する。」

 この言葉を聞いて、猪が不敵に笑い出した。血走った目を大きく見開いてリリと青年を睨みつける。

 「じゃあ、こうしたらどうするんだぁ!?」

 叫びながら、猪は懐から取り出したミイラの腕の様なものを高く掲げた。すると、狼の魔物の目や口などから紫色の煙が放出され、魔物の身体を覆った。
 剣を抜いて構えるリリ。青年は相変わらず澄まし顔で静かに佇んでいる。煙から姿を現したのは、見上げるほどの巨躯を持つ、二足歩行の狼男。その咆哮が、洞窟を、リリの身体を震わせた。あまりの威圧感にリリは身動きを取ることができない。
 狼男の背後で猪が叫ぶ。

 「お前らさえ消してしまえば、あとはどうとでもなる! こいつの餌になっちまえよ! 」

 猪の声に呼応するように、狼男がリリと青年の方へと飛びかかり、大きな爪を振り下ろした。
 お父さん! 迫る脅威を前に、リリは父を想うことしかできなかった。全ての終わりを覚悟し、目をつぶるリリ。しかし、衝撃はやってこない。目を開けると、魔族の青年がかざした手の先で黒く光る魔法円が狼男の爪を受け止めていた。

 「そちらがその気なら、正当防衛をさせていただかないと。」

 そう言うと、青年は魔族の言葉で呪文を唱えた。すると瞳が青く輝き、狼男の足元に巨大な魔法円が現れた。次の瞬間、狼男を囲むように黒い炎が地面から吹き出した。

 「可哀想ですが、少しそこで大人しくしていてください。」

 黒炎の中でうめく狼男の横を悠々と通り過ぎ、青年は猪の前へと立った。青年から迸る魔力に怯えて尻もちをつく猪。

 「な、なんなんだお前…! その魔力… 一体…!」
 「これは申し遅れました。私は魔王国の派遣監査員、そして…」

 溢れ出る魔力に逆立った青年の髪。その下の額から、悪魔のようなツノが生え現れた。

 「魔王が子息の1人、第6王子、ノクターン。お見知りおきを。」

 そう言ってノクターンが指を鳴らすと、猪が黒い炎に包まれ、その手に持ったミイラの腕は消し炭となった。ノクターンがフッと息を吹きかけると黒炎は消え去り、猪と狼男は地に倒れ臥した。
 展開の速さに思考が追いつかないリリ。何とか立ち上がり、恐る恐るノクターンの方へと近付いた。

 「殺したの…?」
 「いえ、狼男は被害者ですし、直接燃やしてはいません。呪法が解けて意識を失っているだけでしょう。猪の方は、まぁ、少し焼きましたが、死んではいないでしょう。」

 サラリと述べたノクターンからは既に魔力は感じられず、額のツノもなくなっていた。

 「ていうか、あなた、魔王の息子なの?」
 「はい。」
 「ほんとに?」
 「ほんとです。聞かれる前に言いますが、監査員をしている理由は話せません。」

 あの姿を見ていなければ、目の前の青年が魔王の息子だとは信じられない。

 「なんか、もう、よく分かんない。」
 「まぁ、私の出自はあまり気にせず、これからも普通に接してください。」

リリは目を丸くした。

 「これから?」
 「ええ。聞いていませんか? 私とあなたでこのエリアのダンジョンを全て監査して回るんです。」

唖然とするリリ。澄まし顔のノクターン。

 「…聞いてない。」
 「そうですか。」
 「そういえば、さっき呪具がどうのって言ってたけど、そんな報告も聞いてなかった。」
 「そうですか。」
 「そうですかって、あなた…」
 「まぁ、魔族と人間。そこは縦割りですから。」

 リリは何か言おうと口を開いたが、自分が何を言いたいのか分からなかった。今はとにかく…

 「帰ってお風呂に入りたい。」
 「ダンジョンの閉鎖。それから報告書の作成が終わってからですね。」

 リリとノクターンの、記念すべき初仕事であった。

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