【稽古場取材】劇団さいおうばに密着！
東学祭実行委員 ８月３０日
新進気鋭の劇団さいおうばが、東京学生演劇祭２０２３のAブロックに出演。劇団員どうしの「信頼」関係について語った。
８月上旬、実行委員は飲食店が立ち並ぶ学生街・明大前駅を訪れた。劇団さいおうばの稽古場はキャンパスの地下室にあり、明治大学公認サークル「活劇工房」のアトリエを使っているという。
そんな個性豊かなメンバーに話を聞くことで見えてきた、さいおうばの目指すビジョンとは。
◆『人生万事塞翁が馬』の故事成語のように、二面性、三面性を表現できる物語を
インタビュアー「ではまずは団体名の由来からお聞かせいただけますか？」
寺腰さん「劇団名のさいおうばは故事成語の『人間万事塞翁が馬』から取ったんです。
これは、いいことがあったあとに悪いことが、で悪いことがあったあとにまたいいことがあるかもしれない、人生はこの先どう転ぶかわからないという言葉なんです。この故事成語のように一面性のある物語は作りたくないっていうのがさいおうばの目指してるものなんですね。人生がどう転ぶか分からないように喜劇でもちょっとしたら悲劇になったり悲劇が喜劇に転んだりとか、そういう二面性三面性のある物語を作りたいっていう意味でこの劇団の名前を名づけました。」
主宰の寺腰さんからすらすらと出てくる言葉からは、控えめながらも自分が作りたい作品への確かなビジョンが見えてきた。大事にしているものと深く繋がっている劇団名に、取材陣も思わず深く頷く。
◆テンポは『東京０３』、世界観は『ヨーロッパ企画』、そして軸の部分は『MONO』。
インタビュアー「この劇をやるうえで参考にしている劇団や作品はありますか？」
寺腰さん「まず会話のテンポとかは、東京03が本当に好きで、演劇をするうえでテンポっていうのは大事にしてます。
それからヨーロッパ企画っていう京都の劇団は、タイムマシンものの話や妖怪、ファンタジーものなどをとてもミニマルな世界で書いてるんですよ。例えば『サマータイムマシン・ブルース』っていう作品だとタイムマシンを手に入れるんですけど使う目的が、クーラーのリモコン、壊れたやつを一日前から持ってくるっていうそれだけのために使うっていう、なんか物語の設定は壮大だけどそれをちっちゃい世界で消費するっていうのがすごく面白くて、そういうのはリスペクトしてますね。
あともう一個だけあって『MONO』、これも京都の劇団なんですけど、会話劇がメインなんです。でもこの劇っていうのは基本的に人間に対する目線っていうのがすごい優しいのと、物語を一面で見ないっていうところはやっぱりいいなと思ってて。
まとめると、テンポは東京03、それから世界観はヨーロッパ企画、でその大事な軸の部分はMONOをリスペクトして作っているという感じですね」
先程までの真剣な表情とは打って変わって、本当に演劇が好きなんだなと思わずにはいられない生き生きとした話し方で尊敬する劇団について話す寺腰さん。今回の劇には、こうした劇団で作られた作品から受けたインスピレーションが詰まっているに違いない。
◆固定観念に縛られない、囚われないこと
インタビュアー「今回の作品のテーマは何ですか？」
寺腰さん「今回のテーマは固定観念に縛られたらダメだっていうことが軸になっています。これは広げていくとジェンダーとかそういうことにも繋がっていくと思ってるんですね。
まず、今回劇の中に出てくるワードで『カサブランカ』っていうのがあるんですけど、この『カサブランカ』は昔のアメリカ映画の名作で、第二次世界大戦におけるプロパガンダ映画として作られているんですね。カサブランカのように映画としては面白いけどそういうプロパガンダの要素もある、一面で見るなっていうところにもつながっているかなと。
それからこの『カサブランカ』っていうのに出てくるヒロインがいわゆるステレオタイプな、カッコいい男性に守られる女の子という構図で、今回の主人公もわざとそういうのを意識したキャラクターにしてるんですよ。ただ、その構図を固定化するのは良くないじゃないですか。それと同じで、空き巣だからといって完全な極悪人じゃない、クズな彼氏っていうのは自然発生するわけじゃなくて何かしらの経緯を持って、そうなるんだっていう。その一面に縛られない、固定観念に囚われるなということについて真摯に向き合いたいなと思います。」
劇団名の由来のところから一貫しているこの一面性に囚われない、縛られないというスタンスが、今回の劇でも非常に重要なポイントとなっていそうだ。
◆役者と脚本・演出の信頼関係
ここで気になったのは、強いポリシーを持って劇を作っている寺腰さんと役者さんの関係性だ。事前に聞いていたところによると、今回の稽古で寺腰さんとほぼはじめて会うという役者もいるらしい。さいおうばでは座組が固定化しておらず、オファー制で役者を選んでいるとのことだったので、この作品に出演した理由を尋ねてみた。
インタビュアー「この作品に出演することを決めた理由はありますか？」
盛野さん「とっても信頼してる、とっても好きな脚本家で、とっても好きな演出家でもあるので」
西本さん「こんなに面白い作品を書ける同級生がいるんだ！と思って」
澤井さん「学生が作ってるとは思えないくらい読みやすくて、台本がポンポンポンポン頭に入ってくる」
即答で帰ってくる寺腰さんの脚本に対する絶賛の声。明治大学の演劇サークルの中で、その脚本の面白さは有名で、今回初めて会うという役者の西本さん、澤井さんは一度この人の舞台に立ちたいと思っていたのだそうだ。
そんな寺腰さんに、今度は各役者にオファーした理由を尋ねてみると、そこにも役者側からと負けず劣らずの『ラブコール』があった。
◆幸薄いキャラがハマり役。
盛野さんは「気が強くて幸が薄い」女性の役を熱演する。ほとんどの役者は初めて座組に入ったのに対して、盛野さんだけはほとんどすべての寺腰さんの脚本に出演しているという。
「この人の演技っていうのは僕の世界観を分かっているし、１番大事な思想の部分まで理解出来てる。僕も凄い信頼してますし、これからも呼んでいきたいなと思います。」
◆「嫌悪感っていうものが心の底から滲み出るような演技でしたね」
澤井さんは主人公の女性の元彼役を演じる。
「僕が以前見た劇で出てきた彼の役は本当に最低のサイコパスだったんですけど(笑)、その時の彼の演技がゾッとするくらいうまくて。僕は演劇については頑張って勉強しようと色々観劇させて頂く機会も多いのですが、本当に嫌悪感が心の底から出るような演技だったんですよ！そうやって観客に完全に感情移入させるということを見事にやっていたのを見て、是非オファーして一緒に仕事したいなと思いました。」
◆初対面で決めたオファー
空き巣役を演じる西本さんに関しては、実は一度も直接演技を見たことがないままオファーしたという。
「この人の演技は凄く気になってまして、周りからの呼び声がね、凄かったんですよ。お前が今書いてるこの脚本に絶対合うよって何度も何度も言われました。だから、どうしても出演した劇も見たかったのですが、ちょうどコロナ関連で自宅待機していた期間に公演があったので見られなかったんです。ただ、実際会ってみても、すごく面白そうだし役にも合っていそうだなということでオファーさせてもらいました。」
◆『何にでもなれる』ことに対する信頼
主人公の親友を演じる岡﨑さんはほとんどを2年生が占める稽古場で唯一の3年生だ。
「俳優ってハマり役になるか或いはなんでも出来るかどっちかなパターンだと思うんですけど、岡﨑さんは本当に何でも出来るって方で、スッと役に入り込めるんですね。そこを信頼してるからこそオファーしたって感じですね。」
どの役者について話すときも淀みなく楽しそうに話す様子からは、日は浅くとも確かに築かれている信頼関係が伺えた。役者から、脚本演出から、互いに寄せられる演劇に関する信頼がさいおうばのキーワードのひとつとなりそうだ。
◆「ただ、楽しんでください！」
インタビュアー「最後に、劇についての意気込みを教えてください！」
寺腰さん「言いたいことは全部劇に書いていますし、見たら分かるように出来てます。ただ楽しんで下さい。ただ見て楽しんでいたら、最後はストンとテーマは入ってくると思いますので。」
取材は終始和やかな雰囲気で行われ、稽古中も気を引き締めつつも笑いも飛び交う雰囲気の良さがあった。強いポリシーを持ちつつも仲の良い座組によって生み出される演劇を見られる日が楽しみだ。
劇団さいおうばの皆さん、ありがとうございました！言葉で表す以上の魅力を持った劇団さいおうばさんです。皆さんも是非劇場で体感下さい。編集の都合上、一部の表現を敬称略とさせて頂きました。
(東京学生演劇祭実行委員会)
■ 「劇団さいおうば」の公演情報
［東京学生演劇祭2023］Aブロック
■ 団体公式X（旧Twitter）
東京学生演劇祭2023 @王子小劇場
今年は 8/31(木)〜9/3(日)に開催！ A・B両ブロックで計６団体が上演します！
◎ Aブロック
合法事務所UNION（東洋学園大）・劇団さいおうば（明大）・藝術集團だだだだだ（慶應大）
◎ Bブロック
バス停ドレスコード（文教大）・ネムノキ（成蹊大）・STAy（明大）
【チケットのお取り扱い】
■ ご予約（カルテット）
https://www.quartet-online.net/ticket/tstf2023
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