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Lobotomy Corporationは何がそんなに面白いのか

みなさんは「Lobotomy Corporation」(ロボトミ)というゲームを聞いたことがあるだろうか。2023年夏のRTA in Japanでも走られていたため、それで知ったという方も多いかもしれない。そして、調べてみるとなにやらやたらとこのゲームが面白いと言いつつ、しかしネタバレを防ぐため内容には最小限にしか触れていない記事にたどりつく……かもしれない。
そのネタバレへの警戒度はアニオタwikiの特定のページに仰々しく『あなたの「発見する楽しみ」を台無しにする可能性があります。』とか書いてあるくらいである。実際このゲームは、ネタバレを踏んでいるかどうかでゲーム体験が全く変わってくる。しかしそれではなんも話せんままなので、今回はすでにプレイした人向け、もしくはネタバレへの配慮なんかはっきり言って余計なお世話だという思い切った方向けに、最後までプレイ済みでこのゲームが好きすぎてどうにかしてそれを出力したい筆者が、なぜそんなにネタバレ注意で何がそんなに面白いのかを考える。

(全部書いた後しばらく経って読み返すと支離滅裂だし無駄に長いし駄文以外の何でもないんですが こうでもしないとTwitterとかで意味不明な長文をまき散らして見苦しくなりそうだったので雑でもなんでも吐き出す必要がありました それを踏まえて読んでいただけると助かります ネタバレの山なので閲覧は自己責任でお願いします。)


初めに

予備知識として、このゲームについて軽い説明をしておく。

このゲームはSteamによると、Monster Management Simulationというよくわからない名前が付けられている。この全然分からないジャンル分けは製作元のProject Moonあるあるなのだが、おおざっぱな内容としては、施設に収容される厄介な怪物の特性を把握して、そいつらが暴動を起こさないように気を付けつつ一日分のノルマを目指し怪物を管理するというものである。

多種多様なアブノーマリティを管理しよう

SCPを知っている人ならイメージしやすいかもしれない……が、このゲームはSCP系によくある自分が怪物に銃や設備で直接対処するゲームではなく、施設全体の「管理人」として職員に指示を出し、移動指示やシールド展開、果ては外部傭兵部隊の要請などで間接的に対処するという違いがある。
収容される怪物はどんどん増えていき気を付けるべき事柄も多くなっていく中で、何とかして50日目を目指すのが目標だ。

ストーリー

ゲームの面白さにおいて、ストーリーは大きな割合を占めている。「ノベルゲーム」なんてジャンルもあるくらいで、これはもうストーリーの面白さ=ゲームの面白さといえるだろう。ここでは主にロボトミのゲーム面以外の要素について考える。

魅力的なアブノーマリティたち

本作に登場するキャラクターは大きく分けて、「アブノーマリティ(アブノマ)」と「セフィラ」がいる。アブノマはおおざっぱに言うと敵キャラの怪物たちで、ほぼ毎日新顔が施設に収容されてくる。奴らはそれぞれの条件に基づいた管理を要求し、地雷を踏むと職員を殺したりほかのアブノマを脱走させたり、施設を壊滅させたりする。いとも簡単に。

この怪物たち、ただのお邪魔キャラではなくそれぞれにバックボーンや設定があり、またデザインも秀逸でそれぞれが人気を集めている。

T-01-68「死んだ蝶の葬儀」
いつみてもデザインが秀逸である

例えば彼は「死んだ蝶の葬儀」。デザインとしては異形頭+蝶+複腕+喪服であり、常に一定数存在するヒト型異形好き管理人を虜にしている。管理を進めることで、常に会社の備品として消費され続ける施設の職員たちを哀れに思った彼は、「安らかな死」を与えるために自ら収容されに来たと説明する試料が明らかになる。この印象的なデザインと崇高かつどこか物悲しい設定が多くの管理人から支持を集めている。

O-01-73「絶望の騎士」
いつも加護をありがとうございます

例えば彼女は「絶望の騎士」。半分闇堕ちした魔法少女な外観であり、条件を満たすと特定の職員に「加護」を付けてくれる。しかし、彼女は過去に守った相手に裏切られたことから心を壊しており、これは残った「自分は誰かを護る騎士である」という矜持に執着しているが故の行動なのである。そのため守護対象が死亡すると矜持を守れなかったことに絶望し、すすり泣きながら施設を徘徊、職員に危害を加えてしまう……。この魔法少女の加護は、設定だけではなく実際にゲーム的な面でも強力なバフ効果を備えており、美しい見た目とダークな背景、そして攻略においていつも助けられた思い出とともに多くの管理人に「人類の味方枠」として親しまれている。

こんな感じで、「設定上、ゲーム上の脅威」「一癖あるバックボーン」「独特のデザイン」「収容した思い出」などが合わさりアブノマの魅力を作り出している。このうち「収容した思い出」は事前情報、攻略情報の有無によって内容が大きく変わってくるため、ネタバレ回避が推奨される理由の一つになっている。

魅力的なセフィラたち

アブノマではないキャラクターとして挙げた「セフィラ」は、設定上は「安全」「教育」「情報」などの各部門を統括しているAIたちだ。彼らとはゲームパート開始前のイベントで話すことができ、彼らから課されるミッションをこなすことで個別のイベントが進行していく。彼らはストーリーに深くかかわる立ち位置のキャラクターであり、それぞれ魅力的な要素を持ち合わせている。

ここだけ見ると恋愛シミュかソシャゲの導入に見える

前提として、ここはディストピアを具現化したみたいな会社なので、そこで勤め続けている彼らは大半が精神を病んでいるか壊している。コントロールチームを指揮する「マルクト」は自身の部門に軟弱者はいらないと言って職員に無茶な訓練を課すし、安全チームの「ネツァク」はどうせ安全になどならない会社で頑張ることに意味などない、ビールでも飲んどこうぜという。そんなすさみ具合がたまらないという人もいる。

彼らのデザインもさることながら、イベント内で見られる彼らの「闇」は根深くつらいものであり、その激重感情にあてられてしまった人も多く存在する。ちなみに私は情報チームの「イェソド」が好きです。必死にルールを守って理性的かつ冷酷であろうとするくせに、その実どこまでも優しい男です。いくらルールを徹底させても死んでいく職員に対し、せめて管理番号ではなく名前で呼び続けて記憶しようとし、結果罪の重さに苦しみ続けている男です。良いやつですね。

罪悪感のあまり肉体が腐敗する幻覚を見ているイェソド

当然ながら、一度動画やWikiで予習したイベントよりは初見で楽しむイベントのほうが面白い。これもネタバレがダメな理由の一つである。

意外性のあるストーリー

ロボトミのストーリーはやや難解かもしれない。最初あなたは施設に新任でやってきた管理人として扱われ、秘書AIの「アンジェラ」にこの世界や会社について教わりながら業務を進めることになる。中盤、これまで頼りにしていたセフィラたちのうち一部が「暴走」し、あなたに反旗を翻すようになる。ここであなたは、会社の創設者こと「A」がこの施設を立ち上げた後に記憶を消し、自身が誰かも忘れたまま会社の管理人として何度も一から務め直している、そしてその記憶喪失のAこそが自分なのだということを知る。

ここからストーリーは加速し、この会社が提携企業の技術によって外界とは切り離された時間軸に存在していること、妙に人間臭いセフィラたちはこの会社の前身である組織「研究所」のメンバーだったこと、そのメンバーの死後に脳みそを取り出しAIとして作り替えたのは「A」こと自分だったということ、自分は現実時間においては10年、隔絶された会社内の時間においてはもう1万年も一日目からのループを記憶を消しながら繰り返していることなどが明かされる。
荒唐無稽に聞こえるかもしれないが、時間を操作する技術の存在は事前に語られ、一部セフィラたちは明らかに言動がおかしい(主人公を他の誰かと重ね合わせるような言動が見られる)などある程度伏線が用意されている。ストーリーは毎日少しずつ明らかにされるので理解は難しくないだろう。

不穏な言動をちらつかせるセフィラたち

終盤、管理対象たるアブノーマリティは人間の深層意識から「抽出」した存在であること、自分はループを繰り返すうちに人格分裂を起こしていること、46日目以降はそんな分裂した自分たちが試練として立ちはだかること、この会社の目的は世界に広まった心の病(雑に言うと精神的な現代病)の治療であること、セフィラたちの過去に主人公が向き合って彼らのトラウマを解消することで人類救済の種が手に入ることなどが明かされる。ここら辺になるとやや哲学的な話や抽象的な話が混ざるようになり、さらにセフィラの一人がやたら難解な話し方をするせいもあって理解が難しいかもしれない。ビナーさんあなたですよ

重要そうなことばっか喋るのに何言ってるかわからない女、ビナー

…ここまで書くとなにやらやたら壮大な話をされている、自分にはついていけない類のストーリーだと思うかもしれない。しかしこの話には、一つ裏話がある。それは、実はこの人類救済計画は会社の前身組織「研究所」の中心メンバーであった「カルメン」が掲げていた思想であり、「A」はその彼女の死後に意思を継いでLobotomy社を立ち上げたという点である。個人的にストーリーにおいてここが一番おいしい。噛めば噛むほど味が出る。
天才ではあるが非社交的だったこのAという男にとって、カルメンは数少ない理解者でありその死は小さくないショックだったことが示される。だが彼はここから、亡くなった彼女への未練をズルッズルに引きずりながら、彼女の脳髄を媒体に高効率なエネルギー源を作成、表向きは優良なエネルギー会社に偽装しつつ裏ではかつての同僚たちも脳をいじってAIに作り替え、カルメンの姿を模した秘書AIを用意して施設管理を任せたのちに自分の記憶を消して一万年の反復作業を始める……という目を覆いたくなるような狂気の行動に出るのである。この狂気と、彼女や同僚の死を悼みながらも後戻りできずにその死体を再利用するという矛盾、もともと内に抱えていたがせっかくの秘書AIが彼女ではなく自分に似てしまったことからも来る強い自己嫌悪、そしてこの行動の起点の多くが亡くなった彼女の呪縛にも似た強い未練からきているという事実が、雲をつかむようなロボトミの人類救済計画に生々しい人間臭さと凄みを与えているのである。
この計画の結果彼の被造物たる秘書AIのアンジェラは計り知れない苦痛を味わうことになったが、それについてよくファンコミュニティで「Aいつがすべての元凶」「コミュ障」呼ばわりされているのを見かける。大体あってると思う。思うが、そんなAのことが大好きなのでどうしようもない。

このストーリーを踏まえたうえでキャッチコピーの恐怖に直面し、未来を創れ(FACE THE FEAR, BUILD THE FUTURE)を振り返ると、そこに複数の意味が込められていると感じる。一番わかりやすいのは恐怖(アブノーマリティ)に対処して次の日に進めということだろう。しかしストーリーを知ったうえで振り返ると、恐怖(セフィラたちの過去)に直面し人類救済を成し遂げろとも読めるし、最終的に直面する「途中で折れた自分たち」のうちの最後の一人「狂気に飲まれて目を背けた自分」を断固として拒否し乗り越えるためのエールだとも感じられる。このゲームをあまりにも的確につかみ取った素晴らしい文だと思う。

このキャッチコピーはロード画面にも出てくる

このストーリーも、一気に明かされるのではなく伏線を張りつつ順々に明らかになるからよいのであって、こんなところで全部知ってしまったら面白さ半減どころの騒ぎではない。ネタバレ、良くない。

第三のキャラクター、職員

このゲームではランダムに生成された職員たちを部下として使役し、日々の作業を通じてステータスを伸ばす育成を行うことになる。ここは人によるかもしれないが、少なくとも敵対存在との戦闘や初見のアブノマの作業において、「作業において頼りになる職員」「とりあえずこいつ出しときゃ勝てる」「こいつは戦闘には出せない」くらいの個性が生まれてくる。つまりプレイを通じて無個性だった職員に自分の中でキャラクター付けがなされ、愛着が湧いてくるのである。

ここからどれだけ職員に個性を認識するかは個人差がある。「この職員は何かと頼りになる」くらいの認識で終わる人もいるし、ちょっとした行動や作業の得意不得意から性格に想像を広げ、私生活や血縁関係まで設定を作り込むプレイヤーもいる。思い入れのあまり周回ごとに同じ見た目と名前の職員を雇うプレイヤーもいるし、続編や全く別のゲームで職員の名前や見た目を使い続けるプレイヤーもいる。つまり、初めは無個性だった職員たちは、ゲームを進めるにつれてあなただけの第三のキャラクターとなるのである。

これはあまりネタバレとは関係ないが、ロボトミを実際にやるべき理由の一つといえるだろう。ちなみに筆者はクリア時雇用していた40人全員の名前をすべて覚えていたため、続編でも同じ職員たちを丸ごと再現した。完全に愛着が湧いている。

一週目のエース職員だったユージーン。強力な敵を単騎鎮圧するなどとにかく頼もしかった

ゲームプレイ

複雑に練り上げられたストーリーとそれらを端的に包括するスローガン。これに対応するゲームプレイはさぞかし良質なものなのだろう……と思うかもしれないが、ここはそうでもない。むしろ粗削りで理不尽な試練の山である。

初見殺しに定評のあるゲームシステム

前述の通り、このゲームの一日の目標はアブノーマリティが問題を起こさないように管理し、規定量のエネルギーを集めきることである。この「アブノーマリティが問題を起こさない」ための条件はそれぞれ違うため、最初は手探りで何が地雷でどんな管理が安定するのかを調べる必要がある。

例えば先ほど挙げた「死んだ蝶の葬儀」は①特定のステータスが一定以上もしくは一定以下②作業結果が悪い(指示した作業が好みではなかった)場合に脱走する。この情報もある程度作業を成功させないと開示されないため、人によっては何度も脱走されて大量に職員が死ぬし、条件に適合する職員がいない場合は作業できずにほとんど「詰み」となる。こうなった場合取れる選択肢は何とかこいつに作業しなくて済むように祈りながら一日を終える運ゲーに挑むか、脱走したこいつから逃げ回りながら業務を進めるか、もしくは5日ごとに自動で記録されるチェックポイントまで戻るか…どれも過酷な選択肢である。この理不尽がごくごく当たり前に発生するのが初週のロボトミーコーポレーションだ。

20日目くらいから簡単に壊滅するようになってくる

アブノーマリティは体感半分近くが初見殺しな要素を持ち合わせており、「特定作業をしたら即死」「特定ステータス以下の職員は出会ったら即死」など素直(?)なものから「作業中に画面内に入れると脱走」「同じ職員が連続で作業すると即死」など気づきにくいものまである。この初見殺しに付き合い続け、時には多大な犠牲を払って条件を把握し、その後一日をはじめからやり直して地雷を踏まないように管理を進める…どこまで犠牲を許容するかは人それぞれだが、基本的には何度も何度もやり直すことになるだろう。この適応作業が楽しいゲームなのである。

この初見殺されの楽しみは当然ネタバレによって潰されてしまうため、ネタバレが厳禁な理由の一つであるといえる。

上がり続ける難易度

アブノーマリティの半分近くは初見殺しの要素を持ち合わせているが、彼らの厄介さはもちろんそれだけではない。長期的に施設運営の難易度を上げるような要素も持ち合わせている。

代表的な例として「死体反応系」というグループがある(非公式)。その名の通り、施設内で発生した人死にが一定数を超えると脱走・暴走するタイプのアブノマ達である。何も対策を取らない場合ゲーム中盤では施設内の人死には避けられないものとなり、こいつらは毎日確定で脱走するようになる。対処法として、管理人が能動的に職員を消せる「処刑弾」という世紀末なアイテムがあり、これによる死は死体反応系アブノマには感知されない。よってこの弾丸で指揮系統外の職員をどんどん消していくのが主な対策になる。これだけでも一日の業務に結構な手間が追加される。

また、「脱走常習犯」と呼ばれる(非公式)アブノマ達はその名の通り、管理難易度が高いかもしくは逃げても脅威にならないため放置されがちなどの理由で頻繁に脱走する。しかしこの「脅威にならない」アブノマも指揮系統外の非戦闘職員にとっては太刀打ちできない相手である。当然こいつらが逃げれば職員が死ぬし、死体反応系がいればそこでさらなる脱走に繋がる。アブノマどうしで面倒なシナジーが生まれるわけである。

そして極めつけは「脱走反応」の能力を持つ特定アブノーマリティと「定期的な職員の死亡」を要求する特定アブノーマリティの存在だ。前者は厄介な脱走常習犯を完ぺきに抑えないと暴れだすし(しかも結構強い)、後者は非戦闘職員を一日の初めにすべて消してしまうという戦法を封じてくる。非戦闘職員の何人かは後で処刑するために残しておかないといけないので、必然的に死体反応系の脱走リスクを抱えながら管理することになる。そして死体反応系が脱走し、脱走反応持ちが脱走し、さらに死体が増えて別の死体反応系が脱走し…という連鎖を起こすようになる。こういったシナジーは日数が進むほど難易度が上がる主な原因である。

もちろんうまいことアブノーマリティを選べば平和に施設運営するのも(慣れれば)難しくないし、反対に難易度を無茶苦茶に上げることもできる。ここら辺は周回プレイのお楽しみである。
しかし、初週の収容状況はコントロールできず人によっていくらでも変わるため、あなたの最初の壁となるアブノマがどんな奴なのか、どこでやり直すのか、どんな苦痛を味わってどんな職員が殺されて、それがどんな思い出になるのかは完全に不確定だ。ゲームのプレイ体験は人によって大きく異なるし、どのアブノマに苦手意識を抱くかも千差万別であるため、人の思い出話を聞いたり実況を見たりして自分の時と比べるのが楽しい。この全く一本道ではない体験とあなただけの反復・進行はゲームの大きな魅力の一つであり、ロボトミーコーポレーションをネタバレなしで楽しむことが推奨される最大の理由である。

増し続ける反復の手間

これは終盤になるほど難易度が上がっていくという話に関連するが、一日に達成するべきノルマは少しずつ増加していき、達成に必要な作業回数も増加していく。どんどん問題児が増えていく施設の中で、前日より長い管理を強いられるのである。最終的には一日を終えるまでのプレイが一時間を、人によっては二時間を優に超えるようになってしまう。

終盤は1プレイにつき1時間が当たり前になる

高難易度かつトライ&エラーが前提となっているゲームにおいて、再挑戦までの手間がかかるかどうかは遊びやすさ、ひいてはゲームの評価につながる。ホロウナイトのエンドコンテンツである神の家には苦手なボスだけを練習できる部屋がついているし、アーマード・コアVIもボスにやられたらその直前から装備を組み替えて何度でも挑める。Ghost RunnerやSuper Hexagonはボタン一つでリトライできる。そもそも「セーブポイントがあったらボス部屋が近い」という共通認識がジャンル問わずゲーマーの間でネタになるくらいには、強敵=リトライしやすく作られているものである。

しかし、このゲームはそこらへんがめちゃくちゃ不親切である。先ほど挙げた「1プレイ1時間」の最後にエース職員を死なせてしまったとする。もしくは集中してプレイしていたのにちょっとした凡ミスで脱走により施設が半壊してしまったとかでもいい。ここでリトライするか、それとも犠牲を許容して次の日に進むかはあなた次第だが、リトライする場合はもう一度針の穴に糸を通し続けるような一時間をやり遂げる必要があるのだ。何時間も粘って職員の育成を続けた最後にお気に入り職員が死んだ日なんかは目も当てられない。ゲームを終了して不貞寝するしかない。

このゲームにはボス戦が存在する。詳しくは後述するが、ボスによっては一日の終盤になってやっと戦えるようになるものもいる。しかもやたら強い。そいつと戦おうとした場合、一時間分の作業はいわば前座であり、それをなんとかこなしてからがやっとスタート地点なのである。いざ戦おうとしてもそこからサクッと全滅、また一時間やり直しなんてこともザラにあるわけだ。リトライのたびに時間と集中力を削られ、凡ミスが増え、いら立ちが募り、誰かのせいにしたいが自分の顔しか思い浮かばない。しいて言うなら全部リトライの手間がバカほどデカいせいである。

一日が終わる直前に壊滅した職場(左上のノルマが達成寸前)。
最初っからやり直しである。賽の河原かなにか?

リトライのコストが不必要なまでに大きい、これと似たゲームとして壺おじことGetting Over Itが思いつくが、あちらはすべて計算ずくの難易度設定であると感じられる。作者によってコントロールされ、なんどもテストプレイを経たある種「クリアできる」という保証がある難易度である。しかしこちらにそんな保証はない。収容状況はあなた次第、職員の育成状況も装備の充実度もあなた次第である。壺おじが「店主が用意した30分大食いチャレンジ」だとすると、ロボトミは「あなたがバイキングで無計画に盛った皿を30分で食べるチャレンジ」なのだ。難易度が気に入らなければ一日目からやり直すしかない、管理しやすいアブノマを厳選して収容しながら。

ゲームシステムに練り込まれた設定

ここまで挙げた要素、全然面白いところじゃなくない?と皆さんは思うかもしれない。アイワナみたいにリトライも簡単で、ピクミン4みたいに失敗したら5分前に巻き戻せて、チェックポイントも5日ごとに自動上書きじゃなくて昔のフリーゲームみたいに一日ごとにファイルを分けながら手動セーブできたほうが面白いんじゃない?と。まぁ一理ある

ではなぜこれらの要素を「面白い点」として紹介したのかというと、ひとえにこれら周回の苦痛にはストーリー上の裏付けが存在し、それを知ったところで「自分の重ねた周回は決して無駄ではなかったのだ」と思える瞬間があるからである。このゲームのシステムと設定の融合具合はすさまじく、例えばゲームとして当たり前のような顔で存在している「一日をやり直す」という選択肢だが、これにはストーリーでも触れていた時間をあやつる提携先の会社の技術が使われているという設定がある。また、ポップな絵柄でゴア要素をごまかしているゲーム画面についてだが、ここには認知フィルターという技術が使われている。フィルターを通してみることで恐ろしいアブノマも殺される職員も全部まるでフィクションのように感じられ、発狂せずに業務を進められるのである。この認知フィルターも終盤の伏線になっている。

認知フィルターの無い視界。こんな職場嫌すぎる

そしてこの周回の苦痛は、まさにAが記憶をなくして重ねた一万年の周回とリンクしているのだ。認知フィルターや時間巻き戻しの技術、職員雇用時のカスタマイズ要素や各ボス戦の攻略法にまで説得力のある説明が付けられ、ゲームへの没入感が高まってきたところに突き付けられるA=今の主人公であるという事実。そしてほとんどすべてに意味を持たせられたゲーム画面を見て苦戦しているうちに改めて気づくのである、今ゲームをしている自分こそが間違いなくこのゲームの主人公なのだと。

例えばカービィやマリオの場合、プレイヤーと操作キャラは別物である。プレイヤーはカービィを動かしてゴールを目指すが、間違っても自分がピンクの球体で目の前のSwitchを吸い込めるとは認識しないだろう。しかしロボトミはその一段階奥にまでプレイヤーと主人公を同期させてくれる。プレイヤーが見ているPC画面の表示はそのまま主人公が秘書AIの横で格闘し続けている会社の監視モニターと同一であるし、プレイヤーが行う一日をやり直したり職員のステータスを調整して雇用したりといった選択は決して単なるゲーム内のリトライや初期値ブーストなどではなくまさにあの会社の時間操作と職員改造なのである。心の底からそう信じることができるし、最終的にはこの暗い部屋で前のめりになってPCと向き合い続けている自分=主人公なのだと認識できるようになるのだ。ここまで来ると周回は無意味な苦痛なんかじゃない。これは自分に課せられた試練であり、これを何とかして乗り越えてこそ意味があるのだと思えるのだ。こんな経験ができるゲームを私はほかにほとんど知らない。これはまさに、ゲームシステムに練り込まれた設定のなせる業である。

スタッフロールの最後にand Youを入れるゲームは珍しくはないが、大半は
「プレイヤーの君、遊んでくれてありがとう!」くらいの意味あいである
しかしこのゲームではプレイヤー=主人公であるため、and Youには
「君は間違いなくこのゲームの主人公だった」という意味を見出せる

ここら辺も事前に内容を知っているかどうかで印象が大きく変わってくる。ネタバレ防止が唱えられる理由の一つである。そして、当然だがゲームをプレイしないとこの主人公との深い同期度を味わうことはできないし、主人公の軌跡を自分のものとしてとらえられない。これが、実際にプレイするべき最大の理由である。

ボス戦(セフィラコア抑制)

このゲームにはボス戦がある。ストーリーの項目で触れたセフィラたちがついに暴走し、あなたに牙をむくのである。とはいえ施設内に敵対存在が出現してガチンコ殴り合い……なんてのはごくごく少数で、基本的には各々が担当している部門に応じて施設の一部機能を混乱させてくる。コントロールチームを指揮するマルクトであれば作業指示を入れ替えて妨害してくるし、安全チームを指揮するネツァクは施設の回復機能をすべて停止させる。ここら辺も設定とゲーム内容がリンクしているわけである。

そしてこのボス戦、一部のボスがイカれた難易度になっている。具体的には9人いるセフィラのうち最後の二人である。一人目ホクマーは一時停止すると職員をランダムに殺害するし、二人目ビナーは施設全域のアブノマを脱走させながら歩き回り、最終フェーズではやはり一時停止を封じてくる。ここまで一時停止の恩恵をずっと受けながら管理を進めてきて、何か問題が起きてもまずはスぺースキーをたたいて時を止め冷静になる時間を取ってきた管理人の、一番の武器が奪われるのだ。一時停止をやめられなくてホクマー抑制が突破できない、ふだんは大人しいけど逃げると強力なアブノーマリティを開放されてビナーを倒せないと嘆く管理人が多数続出した。

絶望難易度の上に重ねて煽ってくるビナー様
この監獄から出たとしても、お前ひとりで何ができるというんだ?

……そして、46日目以降は特殊なボスラッシュ形式となり、ノルマ達成ではなく既定の作業回数達成や敵対存在の鎮圧など、特殊な条件で一日を終えられるようになる。ボスラッシュと書いた通り、47-48-49日目はそれぞれ1~4、5~7、8~9人目のセフィラの妨害を同時に受けた状況で戦うことになる。もうお分かりだろう。ただでさえ強敵のセフィラ二人を同時に相手取る49日目の難易度だけ、本当に、段違いに理不尽な難しさになっているのである。一時停止完全禁止でビナー鎮圧。この絶望はやってみればわかる。

ビナーがばらまく暴走の対処に失敗すると、当然収容室からアブノマが逃げてしまう。しかし一時停止を使わずに10か所近い暴走に対処するのは至難の業であり、何体かは脱走を許してしまうかもしれない。この強制脱走が曲者で、「普段はまず逃げない良い子だけど一度逃げたら手が付けられない」アブノマの脅威度が爆上がりするのである。黒鳥の夢、地中の天国、夢見る流れ、蒼星……こういったアブノマは管理が簡単で、慣れてきた管理人ほど好んで収容しがちである。そんないわば伏兵たちが一斉に牙をむいてくるのだ。
また、「放置しときゃいい」アブノマにも強制的に作業しなければならない。これに該当するのは主にツール型というジャンルの非生物系アブノマたちである。「30秒以内に返却で死亡」「90秒以上使用すると壊滅」「30秒以内に返却しないと脱走誘発」…こういった条件はこちらから手を出さなければ気にならないが、49日目はそうはいかない。あなたはバラバラにスタートする30秒と20秒と90秒のカウントを脳内で処理しつつ、他の問題の対処に当たらなければならない。できるわけがない

もちろん普段から厄介な奴らは引き続き厄介なままである。一時停止さえあれば、そういった問題児たちとも一体ずつ向き合ってここまでのように確実に処理することも難しくなかっただろう。しかしこの日だけは、圧倒的な量のマルチタスクをリアルタイムでこなさねばならない。アブノマごとに図鑑を読み込んで特性を確認している時間なんてない。作業指示を出すときに職員のステータスを確認している時間もない。作業ログを遡って誰にどんな指示を出したか確認する時間もない。もちろん収容状況によっては無理難題かもしれない。手間暇かけて育成した職員と別れ多大な時間をかけて一日目から収容状況を整え直すか、もしくは狂気じみた意思を貫き通し現在の状況に適応して乗り越えるかである。

この日を乗り越えるのには、これまであなたが管理人として培ってきたすべてを動員する必要がある。資料を見ずにアブノマの作業指示を出すにはアブノマの知識が必要になるし、ステータスを見ずに職員に仕事を割り振るのには個々の職員の特徴を理解している必要がある。こいつが逃げるとこいつも逃げるから最優先で対処する、こいつはこの職員をぶつければ時間稼ぎができる、逆にこいつは逃げてもこの部門の職員の脅威にはならないなどといった状況に即した具体的な作戦はここまでこの施設で管理業務を進めてきたあなたにしか立てられない。あなただけがこの日に立ち向かえるのである。
そしてここまで追ってきたストーリーは、最後に克服しなければならない試練としてゲームシステムと深くかみ合い立ちはだかり、それでも絶対にこの日の絶望を克服しなければならない、こんなところでは終われないとあなたの勇気を奮い立たせてくれるだろう。

こんな典型的な少年漫画の悪役みたいなやつにここまで来て負けたくないってのもある

ここで今一度「FACE THE FEAR, BUILD THE FUTURE」のスローガンを掲げ、絶望に直面し、はねのけ、未来を創り、明日へとつなげることができた時、このゲーム最大のカタルシスが待っている。人類救済計画は成就し、あなたの狂気ともいえる執念はようやく実を結ぶ。そこに待っていたかつての自分自身にこれまでの苦痛をねぎらわれ、最後の一日の業務を進めるのだ。

……筆者の文章力が無さすぎるためにこの感動を的確に言い表せないことを残念に思うが、要は本当に理解したきゃプレイして確かめればいいってことである。どう考えてもネタバレが致命的になる展開で、各記事がこぞってネタバレ注意の忠告を入れるのも当然だ。

つまりなんでネタバレがダメなのか

長々と書きすぎてしまったが、これで本来の趣旨がわからなくなってしまうのも良くないので、なぜネタバレがダメなのかだけはもう一度ここにまとめておこうと思う。

  • 初見のアブノーマリティを攻略する楽しみがなくなる

  • アブノマ以外の初見殺し要素も形骸化する

  • ストーリーの面白さが薄れる

  • 何が収容されるかわからないという楽しみがなくなる

  • 何より実際にプレイしてこそ意味があるゲームであり、ネタバレはそれを無意味にしてしまう

まとめてみれば普通のことだ。たぶん連載漫画やアニメのネタバレを見視聴勢にしてはいけないのとそうかわらない理由である。しかし、ここまででロボトミというゲームを楽しむにあたり特にネタバレを踏むべきでない理由は十分述べられたと思う。この作品はゲームであることを最大限生かした作りになっており、だからこそ自分の手で遊んで、困難に直面して、それを克服する過程があってこそ意味があるといえる。
ロボトミーコーポレーションはストーリーがいいとかゲームプレイが面白いとかではなく、それらすべてをひっくるめたゲーム体験が素晴らしいのだ。

だからあなたもプレイしよう。彼女を称えるためのロボトミーを。

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