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『私は勇敢な豚喰いだ』(1/4)

『豚喰い』とは何か。
文字通り、『豚肉を食べる人』のことである。

では、『勇敢な』豚喰いとは何か。

時は数年前に遡る。

***

足に謎の出血斑(内出血のようなもの)がたくさんできて、病院に行った。
原因不明だった為、とりあえず血液検査をしてみることになった。アレルギーが原因であることも否定できないため、人生最大のアレルギー検査をした。

私は元来、アレルギー体質である。
花粉は年中何かしらの花粉症があるし、ハウスダスト、動物にアレルギーがあることは、子どもの頃から知っていた。また、塗ると湿疹の出る市販の塗布薬もあるし、メロンは口に入れると、口内が痒くなる。もっとも、ありがたいことに、命に関わるような深刻なアレルギーではないので、メロンは痒ウマい食べ物としてお付き合いを楽しんでいる。

なので、沢山のアレルギーがありますね、と言われても、はい、そうですね、という言葉しかなかった。
血液検査の結果が紙で手渡される。項目はあまりにも多い。
出血斑そのものは、アレルギーとは関係ないであろうことがわかった。

私は、渡された紙を繁々と眺めた。
いや、ちょっと待てよ。
ひとつだけ、身に覚えのない、アレルギー項目がある。

そう、豚肉であった。
私は、豚肉アレルギーだというのだ。

よくよくお話を伺ってみると、大人になってからアレルギーを突如発症することもあるようだ。
発疹が出たり、目立った呼吸困難などのアレルギー反応はないものの、ちょっとした体調不良が実はアレルギーが原因だった、ということもあるとのことだった。
加熱された豚肉を食べる分にはさほど問題はなさそうだということで、ひとまずはホッとして帰路に着いた。

***

豚肉アレルギーが発覚した数年後。
特に豚肉アレルギーのことを気にすることなく生活していた私は、鹿児島に出張することになる。

地方出張で、思わぬことに、美味しいトンカツ屋さんでご馳走していただけることになった。

美味しいトンカツ屋さんに、テンションはマックスである。
地元の人気店とのことで、食べログでそのお店のことを調べてみる。

ムムム。

分厚いカツが神々しい。かなりの高評価。
しかし、である。
切断面が赤く滴っているではないか。

トンカツは普段、特に気にすることなく口にする。それで特に体調に支障を来したことはない。
他の豚肉料理についても、普段は特に気を付けていることはない。私は以前からアレルギーに関係なく、豚肉はよく加熱をして食している。

しかし、半生の豚肉となると、話は変わってくる。
身の赤いトンカツを提供できるということは、
それだけ新鮮な肉を取り扱っており、当然、素材に自信があるからこそ成せることであると本来は思う。それは当然、美点として普段ならば捉える。

しかし、私は豚肉アレルギーである。
しかも、生の豚肉はまだ食べたことがない。
メロンは口内が痒くても食べるが、さすがにちょっと怖い。

一抹の不安を抱えながらも、謎の出血斑にならなければそもそも豚肉アレルギーについて知ることもなく、普通に生活しているだろうし、他の人だって、気付いてないだけで、豚肉アレルギーかもしれない、だから大丈夫、と言い訳をして、そのままお店に向かった。
お店の人によく加熱するように伝えればよいと思った。でも、「豚肉アレルギーなので」と言えば、そんな奴がトンカツ屋に来るな、と言われ、美味しいトンカツにありつけないと確信したので、あくまで、生は苦手だから、よく加熱して欲しいことにしようと思った。

「すみません、よく加熱していただくことは可能でしょうか」
「はい、もちろんです」

よかった。そりゃそういう人も沢山いるはず。
こうして無事に、よく加熱したトンカツを注文した。

ところが。
「これ、本当に、よく加熱したのか?」
同伴者のものと見比べて、やや汁感は少なめではあるが、色は、思い描いた『よく加熱されたトンカツ』のそれではない。

美味しそうなトンカツを前にフリーズする私。

体感で20秒くらいフリーズして、私は箸を手に取った。
『勇敢な豚喰い』誕生の瞬間である。

美味い。とんでもなく美味い。
鹿児島の黒豚である。
ご馳走様の主は満足そうに微笑んだ。


結局何事もなく、半生豚から帰還して、こうして普通に生きている。

皆様の思っている通り、これは勇敢とかではなく、ただの怠慢であり、不注意である。
ただただ、美味しそうなトンカツに陥落した。

絶対に真似はしないでくださいね!!

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