その時、渋沢栄一がこう言った
「この資料、どう思う?」
上司だか先輩だか、目上の方から、プレゼン資料に対して意見を求められたら、普通の人はどう答えるのだろう。
わからないけど、「素晴らしいと思います」とか、「さすがです」とか答えるものなのだろうか。当たり障りのない答えをするのが大人なのか。社会人なのか。
だったら、どうして、そんなことを目下の人間に聞くのだろう。
忠誠心を誓うため?
承認欲求を満たすため?
「〇〇さんの視点からの意見を聞きたくて」
何となく、素人の意見を聞きたい、みたいなニュアンスだな、と思った。
その人とのこれまでの経緯もあるし、色々難しいが。
なんて言おう。
というか、上司でもないけど。
その時、私の中の渋沢栄一がこう囁いた。
いや、違う。多分、使う場所と用途が違う。
渋沢栄一よ、なぜ今なのだ。
もう一度、口の中でしっかり噛み締めてみる。
私は今、この資料をどうしたい?
どうすることが、何の為になる?
その資料がどこに出されるもので、どういう趣旨のもので、何を主張したいのかは知っていた。
どうすべきか。
自分が何か言ったらどう思われて自分がどういう対応をされるか。色々想像もしてみたけれど。
『強い意志を持ち、情愛で調節しろ』
私は返信メールを開いた。
そのプレゼンがどういう場であるか。
どういう人が見る可能性があるか。
その人の主張したいことは何か。
伝えたいことが伝われば、どういう可能性が開けるか。
その上で、何が足りないか。
なぜ、変えて欲しいのか。どうすれば具体的に変えられるか。
読んでくれるかどうかはわからなかったけど、これ以上になく丁寧に、どういう理由でどこをどう直した方が良いと思うか、かなり具体的に書き記して送信した。
ブーン。
返事が来た。
軽く震えながら、メールを開いた。
「あなたが普段から色んなことを考えてくれているのだとわかった」
そうして、内容はほぼ私が示唆した内容のとおりに構築し直された。
***
私みたいな人間、噴飯物なのかもしれない。
でも、例え小さくとも。
何かを変える覚悟があるのなら、聡明な智恵かどうかはわからずとも、強い意志の上に、これを情愛で調節する。
心を込めて。
本当に良くしたいという気持ちを込めて。
丁寧に。
伝えた。
多分、伝わった。
これで良かったのかは、未だに正直よくわからない。
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