ガメじいさんのものがたり
むかしむかし、あるところに、お金が好きで好きで仕方がないおじいさんがいました。
おじいさんは、たくさんお金をかせぐために必死に勉強して、医者になり、今では、大きなおうちをふたつも立てるほど裕福になりました。
しかし、何かとケチくさくてお金にガメついおじいさんのことを周りの人たちは、ガメじいさん、とあだ名していました。
ある日、もっとお金が欲しいと思ったガメじいさんは、ただでお金が稼げる方法を思いつきました。
それは、二件ある家のうち、自分が住んでいないおうちを人に貸して、家賃収入を得ようというものでした。
ガメじいさんは、早速、不動産屋さんに相談して、普通賃貸物件として、そのおうちを貸し出すことにしました。
すると、ほどなくして、借り主が決まり、ガメじいさんの期待通り、働かなくても、毎月10何万円ものお金が自動的に振り込まれるようになりました。
しめしめ、と札束をなめなめしながら、ガメじいさんはほくそ笑みました。
そして、それから2年が経とうとした3月のある日のこと、ガメじいさんは、遠くに住む息子さんから、来年、転勤で近くに引っ越すから、同居したいと言われました。
ガメじいさんは、確かに、自分のこれからの健康のことを考えると、一人暮らしより子供たちと一緒に暮らす方が安心だな、と思いました。
そして、ある妙案がひらめきました。
「そうだ!今、貸している家の人に出てもらって、そこに一緒に住めばいいのだ」
早速、ガメじいさんは、手紙とバームクーヘンを持って、そのおうちに行き、借り主の家族に事情を説明しました。
相手の人たちは、突然のことに驚いていましたが、手紙には「市内の引越しであれば、引越し代は私が負担します」と仏心で書いておいたから、たぶんオーケーしてくれるだろう、とガメじいさんは思っていました。
いや、そもそもここは自分の家なのだから、しのごの言わずに出ていけ、というのがガメじいさんの本音だったのです。
1週間後、回答を聞きに、このときも前回同様、ガメじいさんは、突撃となりの晩ごはんのヨネスケばりに、アポ無しで、借り主を訪れました。
借り主の男と女はとても低姿勢でしたが、急に出ていかなければいけなくなると、やはりいろいろと困ることがあります、と言い始めました。
しかし、事情が事情だけに、できるだけ協力はしたいので、以下の条件を認めてくれたら、出て行ってもいい、と彼らは続けました。
そして、その条件とは、
•引越し代だけじゃなく、転居に伴って発生する諸経費(新居の礼金、仲介手数料など)も負担して欲しい
•子供の学校のこともあるから、いいところが決まったらすぐに引っ越したい
•5月に支払う予定の契約更新料は、満額ではなく、退去した月に応じて、月割りにして欲しい
というものでした。
なんかごちゃごちゃ五月蝿いなあと思いながらも、ガメじいさんは、それ以上に相手が出ていくと言ったのが嬉しかったので、
「分かった。分かった。いっそ明日にでも出て行ってもらってもかまわんよ」
と答えました。
数日後、ガメじいさんのところに管理会社を通じて、借り主からこんな連絡がありました。
「よい物件が見つかったので、早速、退去したいです」
これを聞いたガメじいさんは、あのときは思わず「明日でも」と言ってしまったけど、まさかこんなに早く決まるとは思ってなかったので、急に、まだまだもらえると思っていた家賃がもらえなくなってしまうことが惜しくなりました。
そして、管理会社に対して、
「契約更新前の転居を認めた覚えはない。あと契約更新料はちゃんと満額払ってくれ、と先方に伝えろ」
と言いました。
その日のうちに借り主が新しい物件に入居するのを諦めたという連絡が入り、ガメじいさんは、よしよし、自分のいいなりになったぞ、と一安心すると同時にこう思いました。
「やはり取れるものはできるだけ絞り取ってやろう」
その数日後、管理会社からまた連絡が入りました。
担当者はガメじいさんにこう言いました。
「今後の立ち退き交渉の窓口は、借り主個人ではなく、借り主が勤めている会社の担当者が行うことになりました」
そう、おじいさんは、すっかり忘れていたのです。
自分の家を貸していたのが、単なる個人ではなく、実は年商6000億の会社だったという事実を。
果たして、ガメじいさんは、無事に、自分が満足できるだけのお金をむしりとることが出来るのでしょうか?
というか、自分のお金と家族との新生活をてんびんにかけて、ガメじいさんは、いったいどちらを選ぶのでしょうか?
そして、誰か、それ欲しさに、到底、医者とは思えないような他者への想像力を欠いた間抜けな言動を繰り返してしまうほど、ガメじいさんを虜にしてしまうお金の素晴らしさを教えてください。
宵越しの金はもたない主義の生粋の江戸っ子の僕にはまったく理解できない行動なので。
つづく
主題歌はやっぱこれだな
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