花火と雪女
夕飯の後、リビングでごろんとなる。
気まぐれにすぐ手が届く場所にある本棚から一冊の漫画本を取り出し、パラパラとページをめくり始める。
そして、その真ん中くらいに載っている話のラストシーンに目が止まる。
季節は夏
物語の主人公は、ふとしたきっかけで仲良くなった完全にアウトオブシーズンな雪女の女の子と二人、その娘の長年の夢だった
花火
を見上げていた。
「私、初めて雪女に生まれてよかったと思ったかも。」
主人公がその言葉の方向に目をやると、
花火の光に明るく照らされながら涙を流している白い着物姿の女の子が立っていた。
そして、その姿を見た主人公はこんな風なことを呟く。
「ああ、私はきっと死ぬまでこのときのことを忘れないだろうな。」
しかし、それにしてもなぜだろう。
雪女の友達なんてもちろん僕にはいるわけもないのに、気づいたら
「ああ、僕も知っているよ、このときのこと。」
と自信満々に頷いている自分がいた。
そして、この世界は時々死にたくなるほど残酷になるけれど、それでも、できれば世界中の人たちがあの女の子と同じように
「こんな自分として生まれてよかった」
と思えるようなって欲しいと密かに神に祈ったのだった。
なんて他人事みたいに言っているけど、もちろん僕自身もいつかそう思えるように、度々溺れかけては酸欠状態に陥りながらも、これからもずっとこの漆黒の大海原を自由形で泳ぎ続けていくつもりだ。
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