安西先生が三井寿になったミラクルひかるな夜
「◯◯がしたいですっ!」
東京丸の内のビルの地下一階にある海鮮居酒屋で、感極まった僕は、まるで「スラムダンク」の三井寿だった。
見た目はどちらかといえば、安西先生なのだけど…。
本当にいい年して何やってんだか、と思われるかもしれないけれど、正直、このときの僕の気持ちはめちゃくちゃ清々しかった。
実際、生まれて初めてだったからだ。
こんなふうに人に対して気遣いや忖度なく、あと自分自身に対してあらかじめ防御線を張ることもなく、
「自分はこれがやりたいんです」
という思いの丈をストレートに誰かに伝えることが出来たのは。
そしたら、相手からも、僕の想像を上回るくらいとてもあたたかくポジティブなリアクションが返ってきた。
もちろんこの先、本当にどうなるかは全く持って未知数だけど、僕としてはそれは単なるおまけみたいなもので、とにかく
自分の素直な気持ちをこんなにも真っ直ぐに伝えられた(お酒の力もたぶんにあるけれど)
自分がなんだかとても誇らしく感じられたし、その思いをしっかりと受け止めてくれる人がいてくれたことも本当に思わずみんなに手を合わせたくなるくらいありがたかった。
その帰り道、クリスマスのイルミネーションでキラキラと輝く丸の内のオフィス街を駅に向かってみんなで歩いていたら、そのうちの1人の青年が、すこぶる感じのいい笑顔で、
「なんだか奇跡みたいに楽しい夜でしたね」
って言ってくれた。
それを聞いた僕は、実はおんなじことを思っていたから驚いた。
そして、目の前に広がる人口のキラキラを見つめながら、僕は思わず
「ミラクルひかる」
と某モノマネ芸人の名前を呟いていた。
この期に及んで、よりによって親父ギャグかよと自分で苦笑いしながら、でも
確かに
言いたいことも言えないこんな世の中で、
ようやく言いたいことが言えた
こんな夜は、
ミラクルひかる
以外の何者でもないよな
と僕は、思った。