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死にたい時に限って 8/21

「人生は海だ」
突然言い放った教授、
戸惑う生徒、教室に生まれる静寂。

教授麦わらの一味にでもなったのか。
そんなふうに思いながら驚いていると
教授は続けた。

「みなさんは今を泳いでいるのです。
いろんな泳ぎ方、みんなそれぞれ自由方。

でも生まれた時から泳ぐのが、
あまりうまくない人もいるんです。

何らかのきっかけで
前に進めなくなった人もいます。

そんな人に泳ぎ方を教えるのが
僕たちのような心理職なのです。」

思い返せば、
私は小さい頃から泳ぐのが下手だった。

スイミングスクールでは
10級の中で最年長を貫き、
ビート板を掴んだまま終わった。

50メートル走は、
10秒を切ることなんてできず、
リレーでは真ん中を走らされる。

いつもピーピー泣くから
あだ名はぴーちゃんで、
やたら饒舌なくせに、
すぐに投げ出す。

ふらりと歩く吉祥寺

好きな雑貨屋は
andymoriがいつも通り流れてて、

好きな古着屋は
詰め放題3,000円だった。

何か見つかるはず。
いい雑貨、いい服。
でも、適当に歩けば歩くほど、
人生は前に進めないような気がした。

死にたいと思ったことはあるだろうか。
その時誰を思うだろうか。

自殺した人は弱かったのだろうか
自殺した人は無責任なんだろうか

どれだけ聞いてもわからないことで
芸能人が自殺したニュースに、
いまだに慣れない、
多分一生。慣れない。

それでも
最後に見た景色がどうか、
少しでも綺麗であって欲しい。

好きな雑貨屋は、
1984ばかり流す。

好きな古着屋は
Tシャツ一枚100円になった。

みんなこだわりがあって
みんなどうでも良くなる瞬間があって、
みんなちょっと不器用で、
みんな泳ぎ方に癖がある。

私はまだまだ泳ぐのが下手くそで
変で小馬鹿にされる。
また泣いて、安酒を浴びる。
それでも泳ぐしかないのだ。

なのでしばらくビート板は借りたままで、
お願いします。

なんせ犬カキ、進むのが遅いのです。
それだけなんです。

溺れないよう、見失わなないよう
止まらぬよう、息継ぎは忘れぬよう。

不格好でも、大丈夫、
泳げているなら、えらいはず。

私たちが見えている世界はほんの少しだ。
広いもっと広いはずだ。



なんせ人生は海なんだから。

今度会えるまで
どうか元気で。生きて。

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