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ここちよい時間を楽しむ

久しぶりに髪を切ってきた。それはもうバッサリと30センチ近く。生まれてこの方こんなに切ったことがあっただろうか。いや、ない。「私は丸顔だからショートカットは似合わないだろうなぁ」とか「アラフォーで髪をショートにするのって長髪が似合わなくなってきたことを表しているみたいでナンカイヤだ」と思っていた。でも急にバッサリ切ってみたくなった。

私の髪はとにかく毛量が多い。洗うと毎回大量に髪の毛が抜ける。こんなに抜けて大丈夫か?と思うが、それでも全体のほんの一部で、一生薄毛には困らなさそうだなと密かに感じている。産後の抜け毛問題も一切感じなかった。また非常に乾きにくいため、ドライヤーにめちゃくちゃ時間がかかる。美容師さんに「髪ぜんぜん乾かないね」と言われてしまうほど乾きが悪い。

髪質はストレートだが、まっすぐすぎるのと毛量の多さのおかげでお団子とか可愛い髪の毛アレンジをしたくても全然馴染んでくれない。さらに自身が不器用なこともあって、大体いつもひっつめ髪で過ごしている。オシャレアレンジヘアとは無縁だ。ついでにまつ毛もビューラーしてもカールがかかりづらくて頑固だ。天然パーマの姉からは直毛を羨ましがられるが、ストレートはストレートなりに悩みが尽きない。

そんなこんなで毎日の洗髪とドライヤーに面倒くささを感じて生きてきたのだが、この夏はさらに憂鬱だった。いつも行っている美容院から安いヘアカラー専門店に切り替えたのが原因だった。なぜお店を変えたのかと聞かれれば、美容院代を浮かしたかったのと、染めてもすぐに目立つ白髪をサクッと処理したかったからだ(ちなみに不器用すぎるので自染めは諦めている…)

初めのうちはカラー専門店でも十分だった。でもだんだんと前のお店と比較したり満足感が低いなと思うようになった。お値段なりと言われてしまえばそうなのだが、カラー液がこめかみに残っていたり、カットは予約できないから毛量が爆発しだしたりとちょっとずつ不満が溜まっていった。ちょうど夏だったのでいつものひっつめ髪で過ごせばいいやと思ったが、夏用の明るい服を着てもモサっとした自分の髪を見ると、なんだかテンションが下がった。

あーもう髪の毛切りたい!いっそのこと気分転換にバッサリいっちゃうか、と思って前に通っていたお店に衝動的に予約を入れた。そこは夫婦でやっている美容院で予約数も限られているのでいつも予約が取りづらい。2週間以上先の日付じゃないと予約できなかったので、髪を切ると決めてからもしばらくの間モサ髪でいなければいけなかった。そして半年以上ぶりにお店を訪れた。

久しぶりにお店を訪れると店長は白髪まじりのパーマになっていた。前は黒髪だったので、もしかしたらグレーヘアに移行している最中かもしれない。ちょっとカッコいい。グレーヘアっていいよね。久しぶりの来店に何食わぬ顔をして行ったが、内心は他のお店に浮気していたことを良く思われてないかも…とちょっとドキドキした。浮気する人の心理ってこんな感じ?

席に案内されて今回は髪をバッサリ切りたいこと、ついでにイヤリングカラーも入れたいとお願いした。イヤリングカラーは以前もやっていた時期があったけど途中で飽きて戻していた。でも先日お会いした方が綺麗な染め方をされていて、イヤリングカラー熱が再燃していたのだった。ちなみに秋なので全体は栗色っぽい色味を希望した。

注文を聞いた店長は「最近新しくこういう色も出たんだけどどう?栗っぽい色だとみんなやってるから」と穏やかな声でスパッと言ってきた。うん、こういうところがこの店の良いところだ。きちんと一人一人に似合う髪型や色を提案してきてくれるし、毎回仕上がりも良い。二つ返事で店長のおすすめカラーを選んだ。

髪を切っている間は暇なので、数日ぶりのSNSを見ることにした。一度SNS離れすると毎日見る習慣がなくなって、推し人や知人の動向に疎くなってしまう。見逃さないようチェックしておこうと思ってスマホを開き、しばらく色んな人の投稿を眺めていた。



ふと先日電車内で見たある親子の光景を思い出した。向かいの席に座っているお母さんと小学生くらいの兄妹。お母さんはノートPC(たぶん18インチくらいある)を膝に乗せて何やら伝票らしき紙を持って色々と入力している。子どもたちはそれぞれ公文の問題集を解いていた。途中妹のほうは飽きたようだが、お母さんとお兄ちゃんが目の前のことに熱中していたので仕方なくまた問題集を解くことに戻っていった。

それを見て私は思った。「いや、それ電車の中でやる必要ある?」

ほかの家庭の事情に首を突っ込むつもりはまったくないが、なんだか色々ツッコみたくなってしまった。それなんの伝票?機密情報の観点からして電車内はヤバくないか?それとも全く違う書類で他人に見られて大丈夫なものなんだろうか。電車の中で問題集解くってどれだけ時間がないんだろう。小学生のうちからスキマ時間に余暇さえ与えられず効率を求められているのか?というかどう見てもどこかにお出かけしている最中だよね?よほど時間が無いんだなぁ。とか色々。

仕事が溜まっていたとか、提出書類の整理してたとか、毎日忙しすぎて電車の中ですら時間が惜しいとか、公文の宿題忘れてたからやってたとか、何かしら事情はあるかもしれないけど、にしても電車の中でやらなくてもよくないか?と傍から見て思ってしまった(※あくまで個人的意見です)

逆にそのお母さんの横で図書館から借りたであろう岸田奈美さんの本を熱心に読んでいる知らないおじさんは好意的に見れた。



髪を切っている最中その光景を思い出して「私も似たようなことをしているな」と思った。今この瞬間にスマホ見る必要ある?と。久しぶりの美容院でいつもと同じくスマホをいじる。それがなんだかもったいない気がした。せっかく久しぶりに来たのだからこの空間を楽しもうではないか。さっそくスマホを閉じて、目の前に置かれた雑誌を読むことにした。

来る人の年代に合わせて置かれた雑誌たち。アラフォーにはちょうどいいキラキラしすぎない感じがありがたい。普段立ち読みすらしないので雑誌を紙で読むのも久しぶりに感じる。おしゃれな服を眺めては『高いっ!』と思ったり、『最近流行りのメイクってこんな感じなんだ~』と眺める。1冊読んだら次の雑誌へ。最近は自分が欲しいと思う情報しか見に行かないので、こうしてただただ色んな情報を眺めるだけでも楽しい。

耳元では店長が動かすハサミのシャキシャキというかすかな音が聞こえる。その奥で何語か分からないゆったりした音楽が流れ続けている。夫婦二人だけでやっているのでお客さんの入りも少なく喋る人もほとんどいない。でも気まずいとは思わない。雑誌を読む合間に飲んだアイスコーヒーは意外と美味しかった。

そうしているうちにカットが完了した。鏡で見た私は自分史上最も短い髪型になっていた。髪をかき上げるとミルクティー色のインナーカラーがちらっと見える。でも下すとインナーはまったく見えなくなって、長かった前髪と同じ長さに切りそろえられた横の髪が首を動かすたびに綺麗に揺れる。なにこれカッコいい…。モード系とか着こなせそう。店長は「けっこう似合ってますね!」と言ってくれた。

過去に姉から私の丸顔について『まんまるお月様みたいだね~』と笑われてから顔のラインが強調されやすいショートだけはやるまいと思っていた。でもこうしてみると輪郭に沿って髪を切ってもらったからか、意外と丸顔は目立たなかった。なんだ、ショート似合うじゃん私。

店長にお礼を言って店を出た。諭吉が飛んで行ったのは痛かったが(渋沢栄一は財布の中にいなかった)また来ようと思った。

帰りは近所のユニクロに寄って行った。とくに買いたいものはなかったけれど、今ならすべての服が似合うんじゃないかと思って、大きな鏡の前で何着も服を合わせてみた。楽しかった。鏡に映った自分を見てこの髪型なら大ぶりのイヤリングが似合うんじゃない?とか一人で想像して楽しんだ。結局ヒートテック1着を買っただけで終わったが、デパートで買い物するときくらいワクワクしていた。



家に帰って夫に新しい髪型を見せたら「お!いいじゃーん!」となかなかの好感触だった。「ほら、あの女優さんの髪型に似てる…えーと、ほら、アレ、えーと…名前が出てこない!」いや、誰やねん。とりあえず女優さんっぽい髪型らしいから許す。

最後に3歳の娘にもお披露目してみた。毎日保育園に着ていく服は自分で選び、私の格好にも「今日の服すてきだね!」と言ってくれるおませさんだ。どんな反応を見せてくれるかなと思って期待していたら、キラキラした目でこう言われた。「ママ!まんまるお月様みたいだねー!!」

姉と全く同じ言葉を一言一句違わず言われた。え、えぇぇ?あなた、あのとき生まれてなかったよね??どうやら髪型のフォルムがお月様っぽいと言いたかったらしい。そっか、じゃあいっか。そういうお月様なら悪くない。


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