見出し画像

戦術分析【B2リーグ '21-'22 Season 第17節①】奈良 - 佐賀

前節終了後、成績不振のためスペイン人HC、フェルナンド・カレロ・ヒルと契約を解除したバンビシャス奈良は、新HCに前青森ワッツHC堀田剛司氏を招聘。新HC招聘からわずか3日、1月22日(土)佐賀バルーナーズをホームに迎えた一戦。大黒柱マンガーノ不在の中、10連敗中のチームをどのように建て直していくかに注目が集まったこのゲームを分析していく。

第1Q : 両外国人アウトサイドプレーヤーが奮闘

スターター、奈良は横江、藤高、マブンガ、薦田、オトゥーレ、佐賀はガルシア、西川、パプ月瑠、岸田、ヘソン。序盤、奈良はマブンガが一人でペイントアタックや3ポイントとショットを量産、佐賀はガルシア、ヘソンのペイントアタックで得点を重ねていく。残分4分47秒、奈良はオトゥーレと三森が交代しハーフコート2−3ゾーンに切り替える。

画像1

佐賀は残分3分15秒から、フルコートでプレッシャーをかけ奈良のパスミスを誘発。

画像2
画像3

さらに第1Q、佐賀で光ったのがパプ月瑠を中心としたオフェンスリバウンドオフェンスリバウンドからのセカンドチャンスポイントを7点を取った佐賀が17−23の6点リードで終了。第1Q で見せた両チームのオフェンス戦術を紹介する。

奈良 : Cross screen → Rip screen

横江のボールキャリーの合わせて、左Low薦田が、右LowのオトゥーレのDFへCross screen。

オトゥーレにパスフィードされたら、薦田は次はTopのマブンガのDFへBack screen(Rip screen)し、マブンガをDiveさせる。ここに合わすことも一つのOptionであろう。

オトゥーレはバックダウンで1on1を仕掛けるも3秒Over timeでTurn overとなった。

奈良 : BLOB Rip / Double / Pin down

左Lowオトゥーレが左Wing薦田にBack screen(Rip screen)、薦田はゴール下へDive 。右Wing藤高は右Elbowへ移動。

右Elbowマブンガが藤高とオトゥーレのDouble screenを使って左Wingへ行き、パスレシーブ。

オトゥーレが右Lowの薦田へPin down screen。薦田はTop of the keyへ上がり、パスレシーブ。

オトゥーレはPin  downから自らのマークマンをシールし、Topの薦田からパスをもらってショットするもミス。リム下のオトゥーレにパスフィードするためにデザインされたBLOBだけに非常にもったいなかった。奈良はこの試合を通じて、このBLOBを使っていた印象。Topへハイピックにいくパターンも見受けたれた。

佐賀 : Stagger / Ram ghost

ガルシアが左サイドへボールキャリー。西川がヘソン、パプ月瑠のStaggered screenを使ってTopへ。

Staggeredのあと、ヘソンがパプ月瑠のPin downを使って(Ram screen)Topの西川にpickへ行くふりをし(Ghost screen)、左Wingへ出てボールレシーブ。

ヘソンがそのまま1on1でペイントアタックし、ファウルをもらい2ショット。

佐賀 : Maccabi / Chicago / Away backdoor

左2ガードポジションのガルシアから右サイドのエリスへパスに合わせて、右Wingの岸田がバックカット、コーナーの西川がWingへリフト(Maccabi action)。

リフトした西川はそのままTopへ上がりエリスとハンドオフ。

ハンドオフに対し左サイドのガルシアがボールをつなぎに行くが藤高がハードディナイ。逆エルボーにいたパプ月瑠がポップアウトしパスをレシーブ。

アングルが変わってガルシアはすかさずバックドアカット。パプ月瑠からパスを受け、そのままランニングショットを沈めた。

奈良 : ミスマッチをついた藤高のポストアップ

藤高(190cm)に対し佐賀は岸田(175cm)がマッチアップする局面。藤高はすかさず右Lowでポストアップ。佐賀は逆サイドから西川がヘルプ。

西川がHelpしてきたので、藤高はいったんPGへリターン。佐賀はエリスが薦田に、西川はマブンガにローテーションしリマッチアップ。

リマッチアップ後、再び藤高はポストアップし、次はフロントシールしパスを受けそのままファウルをもらい2ショット。ミスマッチをついた秀逸な攻撃であった。

第2Q : 序盤は奈良のミスが目立つも、中盤から追い上げる!しかし終盤・・・

スターター、奈良は板橋、種市、鈴木、三森、木村と日本人プレーヤーのみのスモールランナップ、一方の佐賀は、駒水、石谷、角田、エリス、井上の5人。このクォーターで少しでも点差を縮めたい奈良は木村がドライブでのペイントアタックを果敢に狙う。しかし奈良は序盤ターンオーバーが目立ち、逆に点差を広げられてしまう。残分7分3秒で19−29と10点差がついたところで奈良がタイムアウト。

タイムアウト明けの奈良は途中出場の玉井のスリーや鈴木のミドルショットなどで残分5分10秒、25−30と5点差まで詰め寄り、佐賀がタイムアウト。タイムアウト明けはオトゥーレのナイスブロックから木村のペネトレイトの得点で27−30。ついにワンポゼッション差まで追いつきオフィシャルタイムアウト。

オフィシャルタイムアウト明け、奈良はフルコートの2−2−1ゾーンプレスか2−3のハーフコートゾーンを敷く。佐賀は3ポイントが決まらず得点が止まる。ここで逆転したかった奈良であったがペイントエリアでのショットを決めきれず、残分3分3秒でマブンガを投入するも、ここからオトゥーレがペイントエリアでターンオーバーを連発。結局点差は縮まらず31−38、奈良7点ビハインドで前半を折り返す。

第2Q でポイントとなった場面をいくつか紹介する。

佐賀 : Early pickでミスマッチメイクしファウルを誘う

残分7分55秒、奈良のシュートミスから石谷がボールを繋いで素早く右WingへPush。インサイドプレヤーのヘソンがミドルレーンからWingへ走りながらピックへ(Early pick)。

ヘソンにマッチアップした藤高がハンドラーにスイッチした瞬間、ヘソンはもともと石谷にマッチアップしていた175cmの板橋に対しポストアップ。

石谷はすかさずヘソンへパスフィードし、ヘソンはリムアタック。板橋はファウルで止めるしかなかった。佐賀はトランジションの中でEarly pickでうまくスイッチを起こさせアドバンテージを作りファウルをもらった。クレバーなプレーだった。

奈良 : Hand off / Pin down flare

このクォーター、奈良が2度使ったエントリー。ハイポストのオトゥーレがPop outしてパスをレシーブし、すぐにPG木村がハンドオフへ。

オトゥーレは左lowにいる種市のDFへPin down screen。

種市のDFがPin downを先回りして回避しようとしたため、種市は右のWing方向へFlare cut。パスをレシーブし、3ポイントを沈めた。

奈良 : スリーを打つかポストへ入れるか・・・

これは第2Q終盤、奈良が徐々に点差を詰め、ついに4点差とした後のオフェンス。マブンガがDFにきっちり守られていたが、少々無理やり3ポイントを打って外したのだが、Low postを見ればオトゥーレが完全に相手をシールしてやっつけた状態でボールを呼んでいる。パスすれば通ったであろう。しかしマブンガは自分の3ポイントを選択した。この後のオフェンスでオトゥーレが2回連続でターンオーバーすることを考えれば、オトゥーレに一度ボールを触らせておくべきだったかもしれない。たらればだが、それをしておけばオトゥーレも安心してポストアタックできたのではないか。なかなかポストフィードされない中でボールを持つと、焦ってプレーしてしまうのが人間の性。得点効率を考えた上でもポストフィードしておくべきだったと考える。

奈良 : Floppy / Ram

第2Q最終盤、奈良頻出のエントリーFloppyからのプレー。Floppy actionから薦田が右Wingでボールをレシーブ。

右LowにいたマブンガがオトゥーレのDFにCross screen。オトゥーレはそこから薦田のDFにピックへ(Ram screen)。

薦田はpickを使いミドルドライブ。エルボーからジャンパーを沈めた。Ram screenはオンボールスクリーンの基本である、スクリナーが自らのDFとセパレーション(ズレ)を作るため(その方がpickで2対1の状況を作りやすい)
に非常に有効なアクションである。

佐賀 : EOQ、ガルシアが見事なリジェクト

残分13秒で奈良がショットを決め31−36とした後、佐賀がタイムアウト。タイムアウト明け最後のワンプレー、佐賀は右Lowのパプ月瑠がHigh pickへ。ハンドラーのガルシアはpickを使い右へドライブするふりをしてDFの藤高の意識を左に向けさせ、一気にスクリナーと反対サイドの左をドライブ(Reject)。そのままランニングショットを沈め、ファウルももらった。

第3Q : 奈良のゾーンが功を奏し遂に奈良が逆点も終盤は再び佐賀がリード!

スターター、奈良は横江、藤高、マブンガ、薦田、オトゥーレ、佐賀はガルシア、西川、パプ月瑠、岸田、ヘソン。奈良は序盤から2−3のハーフコートゾーンを敷く。中盤からは2−2−1のフルコートゾーンプレスから2−3にハーフコートゾーンを敷く。これが功を奏し、佐賀は3ポイントショットが落ち始めリズムを掴めず。逆に奈良はマブンガ、鈴木の3ポイントが大当たり。残分4分でついに46−46の同点に追いつく。さらに残分3分15秒、マブンガがバスケットカウントを決め49−47で逆転に成功する。その後はそれまでのマブンガ頼みのオフェンスのリズムが悪くなり、佐賀に再逆転を許し、52−58でこのクォーターを終えた。

奈良 : 課題のトランジションDF

これはカレロ・ヒルHCが指揮をとっているときからずっと思っていることだが、やはり奈良はトランジションのDFがまずい。特にゾーンを敷いているときの一人一人の責任が曖昧になる。このクォーターでも気になる場面があった。

残分8分52秒、奈良のミスショットからパプ月瑠がリバウンドをキャッチ。前方のヘソンへパス。

ヘソンからガードのガルシアへパス。ここからパプ月瑠がゴールtoゴールのRunを見せるのだが、この時点でまだオトゥーレの方が優位なポジションにいる(赤点線)

この後ガルシアがミドルをドリブルプッシュし、一気にフロンコートへ。そして右ウィングへパス。このとき既にオトゥーレが遅れてパプ月瑠がアドバンテージを取っている。

結局、最後までミドルを走り切ったパプ月瑠がペイントへダイブし、パスを受けてショットファウルをもらった。素晴らしいゴールtoゴールのRunだったが、オトゥーレも頑張ればこのブレイクを阻止できたのではないか。

奈良 : Floppyからの1on1でClose outの状況を作るも・・・

続いては、奈良の非常にもったいないオフェンス。残分7分51秒、奈良頻出Entryのfloppy actionから左wingで薦田がレシーブ。

薦田がベースラインドライブし、逆サイドのlowにいたマブンガはTop方向へLift、PGの横江、右Wingの藤高はそれぞれDriftし、非常に良いスペーシングに。

薦田は右のSlotに移動した横江へキックアウト、それに対しガルシアがクローズアウトしたので逆Slotのマブンガへエキストラパス。奈良のこのポゼッション、ここまでは素晴らしい崩し方ができているように思えた。

しかし左Slotでボールをレシーブしたマブンガは、アウトサイドショットが打てるシチュエーションにも関わらず、再びペイントに向けてドライブ。

結局ペイントエリアが密集してしまい、苦しいショットとなってしまった。この後、マブンガの2本の3ポイントで点差を詰めていくことを思えば、ここでも3点を放っておけばよかったと思われた。良くも悪くもマブンガの判断次第という奈良のオフェンスの現状を物語っているポゼッションであった。

第4Q : 佐賀、角田の3ポイントが火を吹きリードを広げ、奈良、万事休す・・・

スターター、奈良は藤高、マブンガ、鈴木、三森、木村、佐賀はヘソン、石谷、角田、エリス、井上。序盤、佐賀はヘソンやガルシアのミドルジャンパーに加え、角田の3ポイントが2本決まり、一気にリードを広げた。残分6分16秒、55−71となって奈良は第4Q二度目のタイムアウトで何とか終盤までに一桁差まで冷たいところだったが、タイムアウト明け、佐賀のフルコートプレスにハマってしまい二度のターンオーバー。残分2分55秒までに59−79と20点差がついてしまい、万事休す。第3Q には一時逆転するまでの頑張りを見せたが、ターンオーバーから一気に崩れ、堀田HCの奈良での初陣を勝利で飾れなかった。

このクォーター、奈良で光ったのが木村のハイピックからのプレー。その一つを紹介する。

奈良 : 木村のHigh pickで見せたJailからのDraw foul

残分7分1秒、オトゥーレがPG木村のDFへハイピック。木村のDFはファイトオーバーで対処。

オトゥーレはリピックへ。木村のDFがここでもファイトオーバーで対処したため、木村に対して後追いの形になる。

スクリーナーDFのパプ月瑠はDropでダイブとペネトレイトに備える。

木村はファイトオーバーしてきてた自分のマークマンを背中で背負って動きを封じる(Jail)。そこからペイントに侵入し、ショットを狙う。背負われたDFが止まりきれずに木村にファウル、木村は2ショットを得た。

奈良 : 佐賀のフルコートプレスに対し、二度のターンオーバー

第4Qでキーになったのはなんと言っても残分6分16秒の奈良のタイムアウト明け、佐賀のフルコートプレスに対する二度のターンオーバー。このターンオーバーで敗戦が決まったと言ってもよい。まずはこの二つ場面を見てみる。

この場面ではPG板橋が左サイドでトラップに捕まる。俯瞰すれば左コフィンコーナー付近にいる藤高へのパスコースがあるのがわかるが、板橋はフロントコートにいるマブンガへ長いパスを出してしまいターンオーバー。

次の場面ではコフィンコーナーで板橋がトラップに捕まる。こちらも左サイドからオトゥーレがカウンターでつなぎに来ればパスが入っただろう。しかし板橋は後から上がってくるマブンガへ浮いたパス。マブンガがバックコートでレシーブし、バックコートバイオレーション。

では、どうすればこのターンオーバーが防げたか。第2Qにヒントがある。第2Q残分8分51秒、ここでも佐賀はフルコートプレス。このとき奈良はチームでしっかりプレスダウンできていた。

バックコートエルボーにいるフォワードがクロスの動きで広がって走る。

その空いたスペースへ藤高がフラッシュカットでつなぎにくる。PG板橋がハンドオフ。

板橋のドリブルでのキャリーに対して三森がrip screen。これできっちりフロントコートに運べている。

第4Qの試合が決まってしまうかの場面で、なぜ第2Qのようなプレスダウンを選択しなかったのか。ここでこそプレスダウンを使う場面ではなかったか。と疑問が残る場面であった。

まとめ : このゲームを数字で読み解く

今回のゲームを"4 factors"と呼ばれるオフェンスの評価指標で読み解いてみたい。この指標は「Basketball on Paper」の著者で、NBAで初めて統計学者として雇われたディーン・オリバー氏が15年以上も前に提唱したものです。詳しくは以下のサイトを参照してください。

このサイトではこの"4 factors"の計算式をGoogleスプレッドシートで提供してくれています。このシート計算したこの試合の"4 factors"指標は以下のようになっています。

攻撃回数(POSS)は佐賀のオフェンスリバウンド獲得率(ORB%)が高いのでもちろん佐賀が奈良を上回っている。目立つのは奈良の得点効率(PPP)の低さ。3ポイントの確率は両チームそんなに変わらないが、2点の確率が奈良が圧倒的に低い。これはマンガーノ不在でインサイドよりもアウトサイド中心になりマブンガを中心にタフショットになっている場面が多く見受けられる体と思われる。さらにフリースローの確率は佐賀の方が低いがたくさんフリースローの機会(フリースローは得点効率の良いショット)を得ていることがわかる。よって佐賀の方が得点効率が高くなっている。

POSSとPPPに影響を与える"4 factors”のeFG%(シュート効率),TO%(ターンオーバー率),FTR(フリースローを打つ割合),ORB%(オフェンスリバウンドの獲得率)どれをとっても奈良は佐賀よりも悪い数値である。eFG%,FTR,ORB%はマンガーノ不在の影響が大きいと思われるが、TO%はガード陣の責任に負うところが大きい

コロナ要請者の関係で次節、次々節が中止となったので、次試合があるときにはおそらくマンガーノが復帰しているだろうが、堀田HCに課せられた喫緊の課題はターンオーバーを減らすというガード陣の強化、またプレスダウンなどの戦略の見直し・再構築に他ならないのではないか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?