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戦術分析【BCL Round of 16】 Falco Szombathely - Lenovo Tenerife

バスケットボールチャンピオンズリーグに参戦するスペインの雄、Lenovo Tenerife(CB 1939 Canarias)。2016-17年にチャンピオンズリーグを制覇し、近年はスペイン国内リーグでもプレーオフ常連となり、昨シーズンはリーグ戦3位、プレーオフもセミファイナルまで進出している。

今シーズン、レギュラーシーズングループAではウクライナのPrometey、イタリアのDinamo Sassariにはそれぞれホーム&アウェーで2勝ずつしたが、日本人アシスタントコーチの宮崎氏が所属するRiesen Ludwigsburgには2敗し、グループA2位でRound of 16に進出するためのPlay-inへ 。

Play-inではトルコのPinar Karsiyakaに2勝1敗でRound of 16へ進出。Round of 16ではハンガリーのFalco Szombathely、フランスのSIG Strasbourg、リトアニアのRytas Vilniusと同組に。ホーム&アウェイでそれぞれ戦い、グループ2位までが準々決勝に進むというシステムとなっている。

そのRound of 16の初戦となったのが敵地での対Falco Szombathely(ソンバトヘイと読むそうだ)。このチームの14番は日本でもお馴染みの選手だ。そう、Bリーグの横浜や山形でプレーした経験を持つジョルジィ・ゴロマンが所属しているのだ。

さてLenovo Tenerifeはこのハンガリー遠征にはスタートのガードを務めることが多いウルグアイ人ガード、ブルーノ・フィティパルド、さらにはボスニア・ヘルツェゴヴィナ代表インサイドのエミール・スレイマノヴィッチを帯同させず、スウェーデン人ガードのトビアス・ボルグとスペイン人フォワードSean Smithをベンチ入りさせた。そんなLenovo Tenerifeが敵地でどの様な戦いを繰り広げたのかを見ていこう。

第1Q : Tenerifeの3ポイントが火を吹き、スタートダッシュに成功

スターター、Tenerifeはウエルタス(🇧🇷)、サリン(🇫🇮)、ロドリゲス(🇪🇸)、シェルマディニ(🇬🇪)、ウィルティエ(🇨🇦)、一方のSzombathelyはケラー(🇭🇺)、ベンケ(🇭🇺)、クラーク(🇺🇸)、ゴロマン(🇭🇺)、ソモギ(🇭🇺)。両者マンツーマンでスタート。

TenerifeはウエルタスとシェルマディニのPnRを中心にバランスよく得点を重ねていく。一方Szombathelyはゴロマンのドライブを中心に攻撃を展開。中盤を過ぎたあたりからTenerifeがウィルティエ、サリンが立て続けに3ポイントを決め、残分3分41秒で17−8、9点差がついた時点でSzombathelyがタイムアウトをとる。

タイムアウト後もTenerifeはサストーレのドライブ、ウエルタスの3ポイントなどで攻撃を重ね、第1Qを終わってみれば25−13。Tenerifeのスタートダッシュが成功した。

Tenerife : 【オープニングセット】 Zipper into mid PnR Reverse / STS Rip

Tenerifeのオープニングセットは、ウエルタスが左Wingへドリブルダウンし、Zipper cutでサリンがトップでボールレシーブ。

逆サイドSLOT付近のシェルマディニがサリンのDFにピックをセット(Zipper into middle picK & roll)。

サリンがPickを使い右サイドへ、その後すぐにPopして広がったシェルマディニへパス(Reverse action)。サリンはそのままRim方向へカット、左Wingからウエルタスがシェルマディニとハンドオフへ。右コーナーのロドリゲスは左Lowへ移動。

ハンドオフからRimへダイブするシェルマディニに対してサリンがRip screen。ハンドオフの後右方向へドリブルしたウエルタスからシェルマディニへ正確なパス届いてシェルマディにがこの試合の初得点を決めた。

Tenerife : 【PnR】相手のアンダーに対するRe-pick

Tenerifeはチームの約束としてPnRに対する相手の守り方がアンダーの場合、必ずRe-pickに行くことをチームで約束として決めている模様。アンダーからのRe-pick後、再びアンダーしてきたらPGウエルタスは3ポイントを狙っていた。

Tenerife : 【DF】On ball screenやHand offに対してのHard hedge & Blitz

第1QのTenerifeのディフェンス戦術をいくつかピックアップ。
この試合、序盤からTenerifeのDFはOn ball screenやHand offに対してScreenerのDF(下の図ではシェルマディニ)が必ずHard hedgeし、ハンドラーのDFもファイトオーバーでハンドラーを追いかけ、二人でダブルチーム(Blitz)し、相手のターンオーバーを誘発していた。

Tenerife : 【DF】シェルマディニのLow postへのDouble team

SzombathelyはTenerifeの7フッター、シェルマディにニをアウトサイドに引っ張り出し、フォワードのプレーヤーがLowポストアップする場面が多く見られたが、その場合Tenerifeは必ずシェルマディニがポストへSagし、ワンドリブル目でDouble teamに行っていた。

第2Q : ペースを上げバランス良く攻撃を展開したSzombathelyが点差をつめる

第2Qのスターター、Tenerifeはボルグ、サストーレ、トドロヴィッチ、ゲラ、ドーネカンプ、Szombathelyはケラー、ベンケ、クラーク、ゴロマン、ソモギ。両チームファーストオフェンスはターンオーバー。その後、Szombathelyはソモギ、クラーク、ベンケらがバランス良く得点を重ねていく。またペースを上げ、アーリーピックからの得点を増やしていく。またSzombathelyはフリースロー後に2−3ゾーンを敷くなどチェンジングDFでTenerifeのセットオフェンスを潰していく。残分7分11秒で28−22、6点様で詰まったところでTenerifeがタイムアウト。

タイムアウト後はウエルタスがミドルジャンパーを沈めるも、その後も中外バランス良く得点を重ねたSzombathelyが残分4分43秒、Sovegjartoのターンアラウンドで遂に2点差まで詰め寄る。

終盤Tenerifeはボルグ、サリンが3ポイントを沈め、突き放したいところだがケラーが3ポイント、ドライビングフックを決め食らいつく。前半終わって43−39、Tenerife4点リードでゲームを折り返す。

Tenerife : 【セット】Horns to flare / Angle change

Tenerifeが残分4分11秒で見せたオフェンス。Tenerifeの頻出エントリーである、Horns to flare。PGボルグがPFウィルティエへパス。すかさずハンドオフ。ハンドオフ後ウィルティエは逆サイドSlotのシェルマディニのscreenを使ってflareカット。

シェルマディニがハンドオフした後のボルグのDFへPickしゴールへダイブ。

左コーナーからWingへReplaceしたサリンへパスしAngle change。

シェルマディニはDive後、左Wingのサリンに対して角度を作ってDFをシール。サリンからパスを受けドロップステップでゴール下のショットを沈めた。

第3Q : Tenerifeのターンオーバーが目立ち、2点差まで詰め寄られる

スターター、Tenerifeはボルグ、サリン、ウィルティエ、シェルマディニ、ドーネカンプ、Szombathelyはケラー、ベンケ、クラーク、ゴロマン、ソモギ。Szombathelyはクラークの3ポイント、Tenerifeはセットプレーからシェルマディニがゴール下のショットをそれぞれ最初のオフェンスで成功させる。その後、またもシェルマディニがゴール下のショットを決め5点差とし、一気に点差を広げたかったTenerifeだったが、ターンオーバーが目立ち、結局このクォーターでの最大点差は5点、終わってみれば60−58、点差を縮められる形となった。

Tenerife : 【セット】Stack out / Iverson / Ram double PnR

Tenerife、第3QのオープニングセットはTenerifeお得意のStack outから。Stack outからウィルティエがトップでボールレシーブ。

その後、PGボルグがハイポストのシェルマディニのスクリーンを使ってIverson cutし、ボールをレシーブ。

左サイドlow付近にいたドーネカンプがハイポストのシェルマディニのDFへスクリーン。シェルマディニは左WingボルグへPick。

ボルグはシェルマディニのピック、ウィルティエのスクリーン(Double drag)を使ってミドルへ。リングへダイブしたシェルマディニへパスし、シェルマディニがショットを決めた。

Tenerife : 【セット】Horns baseline stagger

第3Q終盤にTenerifeが見せたシンプルだが非常に効果的なセット。昨シーズンも使っていたセット。Hornsのアライメントからドーネカンプがリム方向へカット。逆サイドのゲラ、トドロヴィッチが左エルボーへ移動。

2枚のスクリーン(Baseline Stagger)を使ってドーネカンプが右Wingへ出てきて3ポイントを沈めた。

昨シーズン使っていたのがこちら。この時もドーネカンプに打たせてる。ドーネカンプのためのセットか。

第4Q :  シェルマディニがインサイドで奮闘!終盤はセットぷれーがハマりTenerifeが逃げ切る!

スターター、Tenerifeはウエルタス、サリン、シェルマディニ、トドロヴィッチ、ウィルティエ、Szombathelyはケラー、ベンケ、ホーキンス、バラック、ソモギ。クォーター序盤は両チームアウトサイドショットが決まらず。残分7分台にTenerifeのシェルマディニがゴール下で奮闘、さらにその後トドロヴィッチがドライビングレイアップでカウントをもらい残分6分56秒で7点差リード。一方Szombathelyはソモギがドライブで得点を重ね残分4分39秒で68−64、4点差でSzombathelyがタイムアウト。

タイムアウト後、Szombathelyはベンケ、クラークのドライブで残分2分17秒に3点様で点差をつめる。Tenerifeはここでタイムアウト。タイムアウト明け1分20秒にQuick hitterからシェルマディニがゴール下のショットを決め5点差、残り34秒でSzombathelyがタイムアウト、しかしタイムアウト後の3ポイントを沈められず最終79−73でTenerifeが勝利。

Tenerife : 【セット】Stack out into PnR / Slip

Tenerifeが残3分34秒から見せたセット。Tenerifeお得意のStack outからドーネカンプがボールレシーブ。すかさずウエルタスがハンドオフ。

ドーネカンプはフレアスクリーンで左サイドへ。

フレアスクリーンをかけたシェルマディニがウエルタスとのサイドピックへいくと見せかけ、Slipでリングへダイブ、パスを受けレイアップを沈め、カウントももらった。ケラーがハンドラーのウエルタスをケアし過ぎたことが仇となった。

Tenerife : 【セット】Stack out into ghost pin down

第4Q終盤に見せた、Stack outからのセットをもう一つ。先ほどと同様ウィルティエがスタックアウトから右Slotでボールをレシーブ、ウエルタスがハンドオフ。

ウィルティエはフレアスクリーンで左サイドへ。ウエルタスは右ウィングへドリブルダウン。

フレアスクリーンをかけたシェルマディニがウエルタスとのサイドピックへいくと見せかけ(Ghost screen)、そのままコーナーのサリンのDFへPin down。サリンがウィングへ上がり3ポイントを打った。

Tenerife : 【クイックヒッター】シェルマディニのCross screen cancel

ゲーム最終盤に見せたTenerifeのクイックヒッターというよりもシェルマディニとウエルタスの素晴らしい判断が生んだプレー。左LowのシェルマディニがシューターのサリンへCross screen。

シェルマディニのマークマン、ケラーがサリンの飛び出しをケアするためシェルマディニから目線を切った瞬間、シェルマディニがscreenをcancelしウエルタスから直接パスをレシーブし、ゴール下のショットを沈めた。

まとめ : このゲームを数字で読み解く

このゲームをFour Factorで分析すると・・・

PPPやPOSS、FTRに関してはほぼ互角。ターンオーバー率は勝ったTenerifeの方が数字が悪い。勝敗を分けたのは何か、それはズバリFGにおける3ポイントの割合である。Szombathelyがクラーク、ベンケ、ソモギらのドライブでフィニッシュまで行くのオフェンスだったのに対し、Tenerifeはサリン、ウィルティエ、ドーネカンプのためにデザインされたセットで3ポイントショットを量産。FG成功数に占める3ポイントの割合はSzombathelyが17.8%、Tenerifeは46.2%、得点における3ポイントの割合がSzombathelyが20.5%、Tenerifeは45.6%ということで、3PFG%自体はそんなに変わらないが、量産したTenerifeに軍配が上がった。また国内リーグではあまり出番のないボルグが、この日13分38秒の出場、2/2で3ポイントを沈めたことも勝利の大きな要因となった。

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