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戦術分析【B2リーグ '21-'22 Season 第15節】奈良-西宮

 2022年1月3日、バンビシャス奈良のホームコート、ロートアリーナ奈良で行われたB2リーグ第15節、前日までに7勝20敗でB2西地区最下位のバンビシャス奈良と16勝11敗で同じく西地区2位の西宮ストークスとの関西ダービーを現地観戦した。結果は71−92で奈良が敗北。その試合でキーとなったのは奈良のゾーンDFとそれに対する西宮のゾーンOF。特に第3Qから第4Qはじめの攻防が勝敗の明暗を分けたと思われる。そこで今回はこの試合の第3Q、第4Qはじめの奈良のDFに対する西宮のOFをいくつかピックアップして分析してみたいと思う。

はじめに〜両チームの状況〜

奈良は年末の高松戦で大黒柱#44グレッグ・マンガーノが右脛骨骨挫傷で全治3週間の怪我を負ったため、この日は不在。一方西宮は#18デクアン・ジョーンズが欠場。両チーム外国人選手を1名ずつ欠いた状況での対戦となった。今シーズンの両チームの対戦は前日1月2日に行われた対戦のみで72−81で西宮が勝利している。

前半の戦い

第1Q両チームマンツーマンでスタート。奈良は20点のうち#4マブンガが1on1、ファストブレイクや3ptで14得点、一方西宮は14点のうち#24ハインズが10得点、奈良がスタートダッシュに成功し20−14で終える。

第2Qは奈良のターンオーバーが続き西宮が逆点。残分7:23で奈良タイムアウト。その後も西宮は#1今野、#0川村らのベテラン勢がシュートを沈め残分3:38で26−35、9点差が開いたところで奈良が再びタイムアウト。タイムアウト明けは奈良#88木村、#0横江、#14オトゥーレらの活躍で点差を縮め、第2Q終了間際、奈良#4マブンガが速攻からレイアップ、バスケットカウント1ショットも沈め38−39の1点差で前半終了。

第3クォーター

第3Qは奈良#8薦田の3ptで幕を開け、一進一退の攻防を繰り広げたが、残分6:24で奈良のインサイドの要である#14オトゥーレが痛恨の3つ目のファウルでベンチへ下がる。交代で入ったのが202cmの日本人ビッグマン#33三森。第3Qはそれまでマンツーマンで守っていたが、ここで奈良は#33三森が208cmの西宮の外国人ビッグマン#22ムボジにマッチアップすることのリスクを考慮し(#4マブンガは193cmで西宮#22ムボジへのマッチアップは厳しい)、Half court zoneに切り替える。

第3Q:奈良のZone DFに対する西宮のOF①

第3Q残分5分55秒〜、奈良は#33三森が208cmの西宮の外国人ビッグマン#22ムボジにマッチアップすることのリスクを考慮し、Half court 2-3 zoneに切り替える。西宮はリングを守る#33三森にアタックすべく、#22ムボジがLow post up。

奈良ー西宮.001

#22ムボジがバックダウンでゴールへ近づく。

奈良ー西宮.002

#22ムボジがミドルに達してようやくコーナーにいた奈良#24鈴木がダブルチームへ。リバースターンからフックショットを決められる。

奈良ー西宮.003

第3Q :奈良のZone DFに対する西宮のOF②

残分5分11秒〜、次は逆サイドで同じように西宮#22ムボジがLow post up。今回奈良はコーナーの#24鈴木が素早くダブルチーム。

奈良ー西宮.001

西宮#22ムボジはコーナーへリターンパス。

奈良ー西宮.002

西宮#22ムボジはコーナーの#24ハインズにクリアーの指示。#24ハインズはボールをウィングの#8濵高へボールを戻し、ベースラインカットし、ハイポストへ。

奈良ー西宮.006

#8濵高はボールをトップの#13道原へパスし、フレアカット。

奈良ー西宮.007

#8濵高はパスを受け、3ptショットを打つも外れる。奈良がインサイドの#22ムボジのアタックを阻止し、それに対して西宮は結果3ポイントとなったが、コーナーのプレーヤーをベースラインカット➡︎ハイポストフラッシュさせ、#22ムボジにスペースを作った形となった。

第3Q:奈良のZone DFに対する西宮のOF③

残分4分23秒〜、西宮BLOBのシチュエーションから2ガート2コーナー1インのアライメントとなり、左の2ガードポジションの#0川村がコーナーへカット。先ほどと同じく#24ハインズはベースラインカットし、ハイポストへ。

奈良ー西宮.008

パスをレシーブした#0川村はローポストの#22ムボジヘポストフィード。それに対し奈良はコーナーの#88木村、2ガードエリアの34マブンガがローポストへ素早くヘルプ。

奈良ー西宮.009

ポストフィード後、#0川村はすぐに奈良DF#88木村と#4マブンガのギャップへ移動。#22ムボジからのリターンパスを受ける。それに対し#4マブンガがクローズアウト、その間ハイポストにいた#24ハインズはリバウンドに備え、リングへダイブ。

奈良ー西宮.010

#4マブンガがクローズアウトしてきたため、#0川村はトップの#10渡邊へパス、#10渡邊は3ptショットを放つ。そのショットに#4マブンガ、#8薦田の2人がショットコンテストする。特に#8薦田のショットコンテストによって先ほどダイブした#24ハインズがフリーに。

奈良ー西宮.011

ショットは外れたが案の定#24ハインズにOFリバウンドを取られ、プットバックショットを決められてしまう。この場合、逆サイドのペリメーターにいる奈良#24がダイブをケアしておくべきだったか、もしくは#4マブンガだけがショットコンテストに出て(コーナーの#0川村には#88木村が対応できる)、#8薦田がダイブをケアしておくべきだったか、どちらにせよもう少しコミュニケーションが必要だと感じた。

奈良ー西宮.012

第3Q:奈良のZone DFに対する西宮のOF④

続いて残分3分38秒〜、ローポストをしっかりとケアし出した奈良DFに対して、西宮はお決まりのコーナー#24ハインズがベースラインカットし、ハイポストへ。ウィングの#0川村はトップへボールを戻す。

奈良ー西宮.013

トップの#10渡邊からハイポストフラッシュしてきた#24ハインズへパス。奈良はコーナーエリアにいた#8薦田がそのままマッチアップ。右ウィングエリアの#88木村もハイポストをケアするがパスは通ってしまう。左ウィング#0川村はコーナーへカット。

奈良ー西宮.014

ハイポストでボールをレシーブした#24ハインズに対し、リング下を守る奈良#33三森は#22ムボジのサイディングDFで守ろうとするも、身長、リーチに勝る#22ムボジヘHigh→Lowが決まる。Low post upに対するコーナーからのHelpに、西宮はAngleをハイポストからに切り替えて対応した形となった。

奈良ー西宮.015

第3Q:西宮の素早いトランジションに対する奈良のDF

残分3分12秒、奈良#4マブンガの1on1からのタフショットのリバウンドを#24ムボジが右サイドの#0川村へアウトレット。左サイドにいた#10渡邊がフロントカットでボールをレシーブし、素早くボールプッシュ。このとき奈良#4マブンガはボールマンを捉えずに戻っている。

奈良ー西宮.016

先行して右サイドを走っていた西宮#24ハインズは右ウィングエリアのDF奈良#88木村をシールしてロック。奈良#4マブンガは慌ててボールにマッチアップしに行く。

奈良ー西宮.017

ウィングに到達した西宮#10渡邊に対して、奈良#88木村、#4マブンガ両選手がマッチアップに出てしまった瞬間、#10渡邊は #24ハインズへパス。

奈良ー西宮.018

#24ハインズとリングを守る奈良#33三森との1on1という奈良にとって不利なシチュエーションを生んでしまった。

奈良ー西宮.019

Half court zone時の鉄則であるまずはブレイクを狙うということを実行した西宮に対し、タフショットの後ボールへのマッチアップが遅れたことにより、フロントコートで慌てたウィングエリアDFと不用意に2人がボールにマッチアップするという状況を作ってしまった。

第3Q:奈良のZone DFに対する西宮のOF⑤

残分2分29秒、西宮はウィングにボール、ハイポストに#24ハインズ、ローポストに#22ムボジを配置しエントリー。ハイポストは奈良#3藤高がケア。

奈良ー西宮.020

このとき右ウィングエリアの奈良#88木村の位置がボールにマッチアップするでもなく、ローポストをケアするでもなく少し浮いた状況に。すかさず西宮はローポストの#22ムボジへポストフィード。

奈良ー西宮.021

奈良#88木村はパスに合わせてローポストへダブルチームしに行くも、#22ムボジはベースライン側へスピンムーブ、ファウルをもらった。

奈良ー西宮.022

第3Q:奈良のZone DFに対する西宮のOF⑥

続いても西宮は右サイドで、ウィングにボールを落とし、コーナーの#24ハインズがベースラインカットし、ハイポストへ。

奈良ー西宮.023

先ほどハイポストフラッシュにボールを入れられ、High&Lowプレーを決められていたので、奈良は#3藤高がハイポストに対してヘッジテーションしケア。右コーナーエリアの#4マブンガはローポストへSagしてケア。#88木村もローポストへのパスをシャットアウトしている。奈良は徹底してポストをケア。

奈良ー西宮.024

コーナーへのパスに対して、#4マブンガはクローズアウトからベースラインドライブを誘う、それに対し#33三森がヘルプ、#88木村はローポストの#24ムボジをケア、#3藤高はドライブに対してTopからダイブする#24ハインズをBump、逆サイドの#8薦田はドライブからのキックアウトにクロースアウト。西宮のショットは外れ、見事にリバウンドを奪取。非常に連携の取れたGood defenseであった。

奈良ー西宮.025

第3Q:奈良のZone DFに対する西宮のOF⑦

第3Q終了間際の残分50秒、奈良は1−3−1のHalf court zoneに切り替える。西宮PGの#10渡邊は左ウィングの#1今野にパスしコーナーへカット。TopのDF奈良#3藤高がそのままコーナーへ。左Low postにいた#24ハインズはハイポストフラッシュ。右Wing#8薦田とハイポストエリアの#4マブンガがケア。右Low postの#22ムボジは逆サイドLow postへダイブ。

奈良ー西宮.026

コーナーにいた#10渡邊がベースラインカットし逆Low postへ、High postからのパスをレシーブ。#3藤高からリング下を守る#33三森へ受け渡し、藤高はそのままリング下を守る。

奈良ー西宮.027

#10渡邊は右Low postからドリブルで出て、高いポジションにいた#9谷へパスし再びウィングでリターンパスを受ける。左ウィングの西宮#1今野はコーナーへ移動、奈良#8薦田がそれをケア。

奈良ー西宮.028

ウィングの高い位置でボールを持った#10渡邊に対して、Low postにいた#22ムボジがPickへ。Topの#9谷はリングへカット。

奈良ー西宮.029

#10渡邊と#22ムボジのPick&Rollからムボジはダイブしローポストの#33三森へPin down screen。それを利用して先ほどリングへダイブした#9谷がウィングへ。

奈良ー西宮.030

#10渡邊から#9谷へパス。それに対し左Wingエリアにいた奈良#88木村は、Low postの#22ムボジをケア。その一瞬のズレで#9谷へのコンテストが遅れ、3ptを決められてしまう。

奈良ー西宮.031

奈良のHalf court 1−3−1 zoneを待っていましたと言わんばかりの西宮のデザインされたZone offenseにあっぱれ。

第4Q:奈良のZone DFに対する西宮のOF⑧

第3Qは西宮ペースながらも何とか食らいついていた奈良、第4Qに入って#4マブンガを休ませ#14オトゥーレを戻し1−3−1 zoneを継続させる。それに対し西宮は3out2inのアライメントからTop#10渡邊が左Wing#1今野へパスし、コーナーへカット、と同時に左Low post#24ハインズが逆サイドのLow postへCross screen(リング下を守る奈良#33三森にScreen)し、逆サイドLow postの#22ムボジを左Low postへダイブさせる。奈良は#14オトゥーレそして左ウィングエリアの#88木村もこのCross screenをケアできず。

奈良ー西宮.032

フリーになった#24ムボジへパスゴールしたのショットを決める。西宮は非常にシンプルなZone offenseで奈良の不意をつき、イージースコアできた形となった。

奈良ー西宮.033

第4Q:奈良のZone DFに対する西宮のOF⑨

続いて西宮は先ほどとほぼ同じエントリーで、Top#10渡邊が左Wing#1今野へパスし、コーナーへカット、ボールを再びレシーブ。同時に#24ハインズは左Low postへ。奈良#3藤高はニュートラルゾーン付近まで#ハインズをケアしていたが、すぐに左エルボーまで戻ってしまう。#3藤高は左ウィング#88木村へコーナーにマッチアップするよう指示を出しているところを見ると、おそらく西宮#24ハインズには#14オトゥーレがマッチアップするものだと思っていたのだろう。

奈良ー西宮.034

しかし#14オトゥーレは#22ムボジの方に意識を向けていたものと思われる。#24ハインズをフリーにしてしまい簡単にスコアされてしまう。

奈良ー西宮.035

第4Q:奈良のZone DFに対する西宮のOF⑩

残分7分15秒、尚も1-3-1を継続する奈良に対し、Double low postで攻める西宮。このOFも右Lowの#24ハインズへポストフィードする。奈良としては何としてもLow postをケアしたいところ。#24ハインズには#3藤高がマッチアップ、#22ムボジにも#14オトゥーレがマッチアップ。トップの#23種市もLow postをケアしてるのだが、Low postしか見ておらず、ペイントエリアの高い位置に大きなGapができてる。

奈良ー西宮.036

このGapをすかさず狙ったのが逆Wingにいた西宮#1今野。GapにDiveし#24ハインズからパスを受けイージースコア。

奈良ー西宮.037

第4Q:奈良のZone DFに対する西宮のOF⑪

二桁点差がつき、これ以上離されたくない奈良は#4マブンガを投入。西宮は同じエントリー。#24ハインズのCross screenを今回は#14オトゥーレ、#88木村でケアし、#24ハインズはハイポストフラッシュ。

奈良ー西宮.038

これを#4マブンガがしっかりケアし、西宮は逆サイドへ展開。左コーナーの#10渡邊はBaseline cutし逆サイドへ。

奈良ー西宮.039

展開のパスをレシーブした#1今野がTopへドリブルし、#24ハインズは左Wingへ。左Wingにいた#9谷はBaseline cutを始める。#10渡邊は右Wingへ。

奈良ー西宮.040

Top#1今野→右Wing#10渡邊へとパス、そしてBaseline cutから右コーナーへ出てきた#9谷へパス。奈良#0横江はHigh postへ移動してきた#22ムボジをケアした後コーナーの#9谷へマッチアップ。

奈良ー西宮.041

西宮#9谷を#0横江へ受け渡した#88木村は受け渡し右のLow へ戻る。Baseline cutを狙う西宮#1今野を#23種市がケア。一方ボールマンの#9谷はコーナーから#24ムボジのscreenを使いながらミドルへドライブしジャンプショット。それに対し左Elbowにいた#4マブンガがブロックショットしに行く。

奈良ー西宮.042

西宮#9谷のジャンパーを奈良#4マブンガがブロックしたかと思われたが、一度ブロックされたボールを空中で持ち直した#9谷はBaseline cutし奈良#88木村のBlindに入っていた西宮#1今野へ合わせ、#1今野がゴール下のShotを沈めた。

奈良ー西宮.043

奈良のDFが優ったと思われたが粘りも虚しくスコアされてしまった。このポゼッションで奈良の集中の糸が完全に切れてしまい、ゲームが決まってしまった。

まとめ

大黒柱のビッグマン#44グレッグ・マンガーノを欠く奈良が不利な状況で戦ったこのゲーム。前半は#4マブンガや#88木村の活躍で何とか食らいつくことができた。#14オトゥーレがファウルトラブルでベンチにいた第3Q後半、2-3や1-3-1のHalf court zoneで凌ごうとしたが、西宮がチームでしっかりとZone  Offenseを遂行し、さらに奈良のコミュケーションミスなどでイージースコアを許してしまい、第4Qの早い段階で勝負が決まってしまった。だが、奈良もゲームの中でミスを修正し、集中して守れる時間帯もあった。この攻防の駆け引きがこのゲームの見どころであったし、このゲームの勝敗の鍵となった。


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