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ポケットに相棒

 お気に入りの小銭入れがある。黒猫の顔をした小銭入れで、全面にビーズの刺繍が施されている。この猫とも、長い付き合いだ。

 大学生の時、関東に住む姉の家に遊びに行ったことがある。駅まで姉が迎えに来てくれて、駅前を2人で歩いていると、路上で外国人のお兄さんがお店を開いていた。ちょっと胡散臭いカタコトの日本語で話しかけてくる。

「オネエさーん、これヤスイよ。カワイイよ。」

こんな感じで、声をかけてくる。猫の小銭入れには、そこで出会った。かわいいので、姉とおそろいで買った。

「いい買い物をしたね。」
「お兄さん、胡散臭かったよね。」

などと話しながら、姉の家まで歩いた。姉の家に遊びに行って、どこに行ったとか、何をしたとかもう憶えていないのに、この出来事だけはなぜか憶えている。

 日常的には、普通の財布を使うことが多いのだが、散歩に行ったり、ちょっと公園まで行く時などには、ポケットに猫をしのばせて出かける。ビーズがキラキラしてかわいい。触りごごちもよく、なめらかでひんやりとしている。時々ポケットに手を突っ込んで、そこにいるかどうかを確かめる。ちゃんとそこにいる。

 もう25年ほどの付き合いで、夫との付き合いよりも長い。長く使うと、愛着がわく。大好きなものは、大切に長く使いたい。こうして相棒が増えていく。最たる相棒(夫)も大切にしないとなあ、ポケットには入りそうもないけれど。

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