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コンプライアンスや法令遵守に対する個の主権と他者危害原理の位置を公共の福祉の定義と併せて考える

最近コンプライアンス、コンプラコンプラってうるさいんで、法令遵守とは何なのか、法令は必ず遵守しないといけないのか、そしてその理由というところを確認します。あくまで個人的にです。

法令遵守とコンプライアンスの定義

まず法令遵守とは、コンプライアンスとは何なのか。
法令の定めを自然に解釈し従うことと、違反の危険をむやみに犯さないことであり、併せて社会規範に関してもこれを準用することがコンプライアンスの定義であることは、最も多くの同意を得られるはずです。
私自身の定義も、概略はこのとおりです。

個における法令遵守1

誰にも危害をなさず、誰の自由も権利も侵害せず、誰の利害も損わない、かつその行為が任意法規の範囲内であれば、行為は当事者の任意であろうと考えます。ただし強行法規の範囲内である場合には、その適用は受けねばなりません。
例えば、民法に定められた時効に関することは強行法規と解釈されています。これは法によって定められているものを無視して、当事者間で契約した場合に、その一方に法の定めに反する利益、もう一方に同じく不利益の生じることを防ぐために、法が常に上位であり、契約のその部分は常に無効なのです。
ただし、民法のなかには任意法規と解釈されているものも多くあります。

また、もう1段階上の階層の話をすると、たとえ強行法規であっても必ずしも遵守する必要はないと考えられる例外があります。ただし罰や制裁については法の定めによらねばなりません。
徴兵の法規がそれにあたります。それが施行された場合でも、自分が兵役に就き、軍務に服することが、自分の主義、信条、信仰に反するので兵役につかないという主張と選択は当然あり得ます。第一次大戦時のイギリスにおける良心的兵役拒否者、あるいは良心的兵役忌避者とよばれる人たちです。

いま例を1つ挙げましたが、その法令が個の主権を犯そうとするものである場合、必ずしも個がその法令を遵守する必要があるかどうかというのは、その個々人に対して慎重であらねばならないということです。過去の法が現在の基準でみれば悪法である例など、どこにでも見つけることができます。

公共の福祉の定義

さて日本国憲法には“公共の福祉のために”、“公共の福祉に反しない限り”と定められていますが、ここにおける公共の福祉とは何でしょうか。まず公共とは何で、その福祉とは何であるかをそれぞれ定義する必要があります。
公共とは国や自治体などの行政体ではなく、あくまで個の集合としての共同体、およびそれを構成する個の、概念上の集合体と考えるべきです。つまりいずれの個も公共の不可分の一部であると定義できます。
福祉は厳密に定義するのは難しいですが、利便性や快適さの維持向上、教育や文化に対する寄与、さらに継続的社会的な不利益ならびに個の主権の回復も含まれると解釈します。
公益や公の秩序など埒外です。
なぜ行政体を公共の福祉でいう公共から外すかというと、機構としての行政体というのは、そもそもその社会に属する集団あるいは個そのものの福祉のための独自の所産であり、その単位として見る以上、それは何からも福祉を受けることがない存在として定義するほかないからです。

上記のとおり公共の福祉について定義したので、それに基づき、法令を遵守するか否かの主体として、まず個の場合についていますこし補足し、次に集団あるいは組織の場合について考えます。

個における法令遵守2

まず個としての日常を考える場合、最初にあげた原理原則に基づいて行動してよいと考えます。
つまり法令を遵守せねばならないケースというのは、それが他者危害的である場合と、他の主権や利得を毀損侵害する場合においてのみということです。これらは公共の福祉の定義に完全に包含されています。この包含は、いずれの個も公共の不可分の一部であることと、うえに述べた福祉の定義によって説明できます。

まさにその包含されていることによって、うえの2つの場合にはたとえ法令の定めがなくとも、その行為は許されるべきではないともいえるのです。
1つ例を挙げるとすれば、健康増進法第27条及びその2です。
そこには以下のとおり定められています。
“第二十七条 何人も、特定施設及び旅客運送事業自動車等(以下この章において「特定施設等」という。)の第二十九条第一項に規定する喫煙禁止場所以外の場所において喫煙をする際、望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならない。
2 特定施設等の管理権原者は、喫煙をすることができる場所を定めようとするときは、望まない受動喫煙を生じさせることがない場所とするよう配慮しなければならない。”(太文字は筆者)
読めばわかるように、配慮義務として定められています。ですので配慮をすればよいという解釈が一応成立するかのように見えますが、十分に周知されているとおり、喫煙行為は多くの場合に他者危害的ですから、他者に対して危害が及ぶか、他者の主権や利得を圧迫する可能性がある場合には、それに必要かつ十分に注意し、喫煙者自身がそれを最大限に防がなくてはなりません。公共の福祉について得た定義のとおり、いずれの個も公共の不可分の一部であるので、他者危害行為を行なうことは、同時に公共の福祉に反することなのです。つまり他者危害行為や他の主権や利得を毀損侵害する行為が、喫煙においては許容されうるかのような解釈は成立しないのです。

集団あるいは組織における法令遵守の必要性

次に集団あるいは組織の場合について考えます。
基本的な考え方は、個の場合と同じです。
ただし言うまでもなく、集団あるいは組織は公共に対して、より影響があることが一般的です。そしてそれを完全に制限できる唯一のものは、実体価値の有限性だけです。
したがって、そこに法令遵守という考えを持ち込もうとすれば、必然的に公共の福祉も持ち込まねばならないのです。つまり集団あるいは組織が自らを規制・規正しようとする法令遵守の基準には、公共の福祉を用いる必要があるということです。
もう一つの基準として、その集団あるいは組織が共有する利害について考える必要があります。
ただし、それが利害を共有するのかしないのかで分けて考えるべきです。
利害を共有しない集団については、上記の公共の福祉のみを基準に考えてよいでしょう。ただし、利害を共有する集団あるいは組織に関しては、その共有される利害も基準とすべきであって、かつせざるを得ないはずです。主に任意法規に関する意志と行為についてです。

社会規範の遵守について

まず念頭におくべきことは、社会規範は全てその社会、その時代の所産に過ぎないということです。
この前提にたてば、概ね法令に対する考えを、より控えめに当てはめることができます。
より厳密にいえば、社会規範であることのみを理由としてそれを遵守する義務は何者にもなく、遵守することを主体的に選択してよいものです。

結論として

個の法令遵守に対しては、法規に対する個の主権の優劣の原則を述べ、他者危害原理の適用については公共の福祉に照らしても確認した。
集団あるいは組織の法令遵守については、基準に公共の福祉を用いる必要があることをみた。
公共の福祉については、いずれの個も公共の不可分の一部であるとの定義も得た。
社会規範およびその遵守については、上記で充分である。

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