水樹和佳先生の作品紹介(投稿時代編)

過去の記事で全作品リストをアップしていますが、情報が多くなってきましたので、各作品を年代別に区切り、画像付きで紹介していきたいと思います。(現在激務のため、更新は未定です。何卒ご了承ください…)

まずはデビュー前の投稿作品からご覧ください。

作品名:詩人の恋
掲載誌:りぼん1974年11月号(りぼん漫画スクール努力賞入賞)
概要:水樹先生のデビュー前投稿作品第一作目

<講評>
★幼年時代の絵は、かわいくて好感がもてます。成長してからの主人公の表情が冷たいので、ちょっと気がかり。全体的にまとまりもあり、かなりの力が感じられます。幼い日の思い出の場面の変形ゴマも、効果をあげています。細い線にムダな線がありますから、整理してスッキリさせてください。
★いろいろな要素を全部ぶちこんでしまった感じ。そのため印象が不鮮明になってしまいました。テーマをしぼったらいい作品になったでしょう。



作品名:少女の笑み
掲載誌:りぼん1975年1月号(りぼん漫画スクール佳作入賞)
概要:投稿作品第二作目

<ストーリー>
J・ウィルソンは体の中に歌と踊りがつまっているような男の子。もちろん将来の志望はミュージシャン。彼が転校した日、ふと耳にした天使のような歌声の主が、無表情、無感動、人造人間(アンドロイド)みたいな学院長の娘だとしった時の驚き!彼女に人間らしい笑顔を取り戻そうと彼は…!?

<講評>
★非常にていねいで、きれいな線です。表情が乏しく固いのが少し気になります。今回の話では学院長の娘マーラの場合はかえってその固さが生かされていますが、少年やラストのマーラに、もう少し躍動感があればと思います。特に眉や眼を変化させて顔の表情を出す練習、全身であらわす表情を練習してください。
★背景の苦心ぶりを評価します。背景の課題は、空間に奥行をだす事です。今のままでは人物と背景がはりついているようで立体感があまりでていません。人物と背景の線が同じタッチなのも気になります。
★話の発想は平凡。構成もラストがしりきれとんぼになってしまった。特に学院長の妥協が簡単すぎるのが苦しい。しかしとにかく読ませてしまうのは、めざめてくる少女の心の動きが確実に魅力的に描かれているからだと思います。すきだきらいだと一言もかかずに、ウイルソンにひかれていく少女の気持ちが見事に捕えられています。そのため歌の余韻に身を委ねているマーラにウイルソンくちづけするシーンから雪の中で抱擁するシーンまでのクライマックスが感動的です。(この場面は絵も美しいが左にのせたページの絵はもう少し工夫してほしかった!)
★以上総合力はまずまずですが、特に絵の魅力をもう一つつけること。そのためにはムードっぽいジャンルばかりでなく他のジャンルの習作もしてみること。例えばスポーツものなどかいてみると自分の見えない絵の欠点がわかるかもしれませんよ。


作品名:春の舞姫
掲載誌:りぼん1975年4月号(りぼん漫画スクール佳作入賞)
概要:投稿作品第三作目

「水沙」は「みずさ」と読む(ルビが振ってある)ようですが下の読みは不明。

<ストーリー>
貧しい踊り子フランシーヌは、雪の中でサイフを落として困っていた。そこを通りがかりの画家のたまごシャルルが、親切にサイフをみつけだしてくれる。この日以来、二人の仲は急速に親しくなる。しかしある日心臓の弱いフランシーヌは、劇場でたおれてしまう。病気の母をもち、とほうにくれるフランシーヌの前に大金持ちの青年が現れプロポーズする。その日以来、姿を消したフランシーヌを探し求めるシャルル。その彼に突然、彼女が今日結婚すると知らせてくれる人があった…。

<講評>
★大変ていねいにきれいにかかれてあり、作品によせる水沙さんの愛情がよく感じとれます。しかし、やはりまだ表情に乏しく、固さが残っています。登場人物にも、もう少し親しみやすさ、かわいらしさが欲しいところ。全体にペンタッチが細く、しかも人物とバックの線が同じ調子でかかれているので、やはり立体感に欠けます。線に変化、アクセントをつけるよう心がけてみてください。
★ストーリーの構成力はあるようです。愛する者同士の心の動きが、情感豊かにえがかれていて、大変説得力があります。いい持ち味をもっています。ただ気になるのは、このストーリー自体がいろいろな話(映画の)を寄せ集め構成されている点。もっと自分の独創性を出すように。


以上、三作が投稿時代の作品となりますが、一応注釈を。
各投稿作品については、「水樹 和佳」名義ではなく「水沙 和」名義ですので、念のためご本人で間違いないか確認しました。

水樹先生は1953年(昭和28年)の3月22日生まれですので、三作目が載った1975年4月号(1975年3月初旬発売)の時点では21歳。各種インタビューでも埼玉県在住とありますので、年齢と地域が一致します。

また、投稿三作目『春の舞姫』の講評内容は、雑誌「ぱふ」1984年9月号のインタビューに書かれている内容と一致します。

───きっかけになった作品はやはりラブストーリー?
水樹 そうですね。よく覚えてないけど、ラブストーリーだったと思うんですね。それが、戻ってきた原稿にコピー紙が貼ってあって、各編集さんがひとことふたこと書いた表なんです。本来、それは戻ってくる時にはとっちゃって、投稿者の目にはふれないようになってるんですけど、持ち込みなんかしてたものですから、いきなりもらって帰ってきたらそれがくっついてて。それで読んでみますと──ラブストーリーだったんですけど、──倉持さん(※)だったと思うんですけど、批評のところに、”ラブストーリーの映画の要素をあちこちから取り入れたようなところがある”と書いてあって、ラブストーリーの映画のタイトルが三つか四つ並んでたんですね。でも私は、ラブストーリーの映画を一本も観たことがなかったんですよ。(笑)そうか。映画観てなくても、ラブストーリー物が描けるのかなんて。(笑)

(※)当時水樹先生の担当をしていたりぼんの編集者(後のぶ~け副編集長)。

ぱふ1984年9月号「まんが家リレー・インタビュー第8回 水樹和佳」より引用

雑誌『きみとぼく』に掲載された先生のデビュー秘話漫画「ドラマチック・デイズ」では「4作しあげてデビューが決まりました」とありますが、投稿作品3作とデビュー作「かもめたちへ…」を合わせて4作となり一致します。

上記の内容から、水沙 和さん=水樹和佳子先生であると判断しました。

当時から水樹先生の初期の絵柄の特徴が表れていますね。
三作品の題名がいずれも絵画のタイトルみたいだなぁと思いました。

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