ぶ~けに載ったとある疑惑について

ぶ~け1993年2月号を読んでいたところ、読者ページ「ビーズガーデン」に、ちょっと気になる投稿を発見しました。

「ホントの事が知りたい」
友達から気になる話を聞いたのでおたよりしました。実は、何かの雑誌に載っていたらしいのですが、水樹和佳先生が、どこかの宗教にコってらっしゃるっていうんです。もちろん個人の自由ですが、なんか信じられないので、真偽のほどを知りたいのです。宗教のことをとやかく言うつもりはまったくないけど、水樹先生ファンの私としては、とても気になるんです。
東京都 トト

ぶ~け1993年2月号「ビーズガーデン」より引用

この投稿について、編集部からの回答は以下の通り。

水樹先生にホントなのかどーか、直撃してみたぞ!

「ホーホホホホッ、私の部屋には、おみやげとしていらっしゃったマリア像が鎮座し、ひとめぼれした百毫寺の勢至菩薩のお写真が掲げられ、狂兕に似たモアイ像にらみをきかし、アラハバキの神といわれる遮蔽器(ママ)土偶が飾ってある。神社参りお寺巡りが好きで、クリスマスには友達らと乱痴気騒ぎ!!
どうです?すごい宗教家でしょう?(オイオイ)…というわけでその記事はデマだよ~ん。安心した?私は無宗教だからね!!
私が今コっているのは肩と…いや違う違う(笑)陶芸とパソ通とゲームなのでした」

…とゆーことで、そんな噂はウソウソ。安心しなさい。

ぶ~け1993年2月号「ビーズガーデン」より引用

…と、きっぱりと先生本人がデマですと仰られて終わっていたのですが、そもそも発端となった雑誌は何だったのだろうと気になり国会図書館で調べたところ、雑誌「噂の真相」1992年12月号でそれっぽい記事を発見しました。時系列的にも辻褄は合います。

「”未婚の母”内田春菊で注目される女性漫画家の”性と愛” 漫画雑誌編集者
匿名座談会」という企画で、編集者4名(文中では名前の代わりにA~Dのアルファベットが振られている)が、女性漫画家の恋愛や結婚事情について語るものなのですが、その中にこんな記述があったのです。

B「(中略)しかし、あんまり知られてないけど、中堅少女マンガ家の見合いの話って、時々聞くから、確率としては多いんじゃないかな」

A「合同結婚式じゃないならいいじゃない(笑)」

C「もっとも、あの合同結婚式の中に少女マンガ家が入ってても全然驚かない。男じゃなくて、宗教に行く人も時々いるしね。山本鈴美香とか、○○○の水樹和佳とかね」
※○○○の部分は団体名が入っていましたが伏せてあります

噂の真相1992年12月号より引用

…という風に、漫画編集者が具体的な団体名まで出していたのですが、
個人的にはデマ(もしくは勘違い)だと思っています。

 私はどの宗教にも属していない。
お土産にもらったマリア像と普賢菩薩の写真を同じ部屋に飾ってしまうような人間だ。

『イティハーサ』豪華本14巻「あとがきにかえて」より引用

ビーズガーデンでの回答と豪華本のあとがきの内容が一致してますね。

また、水樹先生はイティハーサを描くことになったきっかけについて、インタビューで次のように語っています。

大切な友人がある宗教に入信したことがきっかけになっています。余計なお世話だと言われるでしょうが、あの時その人になにもしてあげられなかった……というつらい気持ちが今でもあるんです。
あともう一人別の宗教に入信した友人がいて、その人に『あなたのような人が一番危ない』……と言われたことがあるんです。私はどうもそういう人たちには危ない人らしいんですね(笑)。
だからそういう人たちにとって危ない話は私にしか書けないんじゃないかと思いまして……

ダ・ヴィンチ1997年11月号マンガ家スペシャルインタビューより引用

『イティハーサ』を描いたきっかけは、日本の多神教のあり方が不思議だったから。「八百万の神がいるのに、私たちはその存在に縛られず自由です。自由だけど信じていないわけではない。私はそんな多様性が好きですが、いろいろな神のあり方について考えてみたかった」

毎日新聞1999年6月18日夕刊「このごろ通信」より引用

こういう回答は、特定の宗教に傾倒してると絶対できないはずだし、何よりイティハーサは「一つの答えしかない世界」を否定する話です。

噂の真相はその後1999年にも、水樹先生が引退宣言をしたとの記事を書き、水樹先生が自身のHPで「引退宣言はしていません」と事情を説明する事態が発生しています。

二十年近く描き続けられてきた大作少女マンガ「イティハーサ」が、今年になって完結したのだが、その完結祝いのパーティが七日に開かれたらしい。それと前後して、作者である水樹和佳のマンガ家引退説が囁かれている。本人の宣言という話なのだが、これ以後はマンガ原作や小説という形で作品を発表していきたい意向のようだ。絵を描くのに疲れたり限界を感じたのか、それともマンガで大長編を語ることの労力に疑問を感じたのかはわからない。

噂の真相1999年9月号「メディア裏最前線」より引用

そういえば、とあるゴシップ雑誌ににわたしが引退宣言をしたと書かれてあるようなのですが、宣言はしていません(^^;)。ただしばらくは漫画が描けない状況なんです。長いつきあいだったアシストさんたちをこのまま縛っておくのはさすがに申し訳ないので、解散したのです。新しいアシストさんを募集するところから、またはじめるとなるとそう簡単に漫画の仕事は引き受けられなのです。幸い、小説のアンソロジーに参加しませんか……というお誘いがいくつかあるので、ではちょっと漫画のワクをはずして違うことに挑戦してみるのもいいかも……と思っているわけでして……。
 谷さんとのコラボレで、一年近く一人でやる仕事をやってきて、自分は一人でやる仕事の方が向いているのかも……と思ったのも事実ですが、まだ先のことは正直いってわからないのです。

水樹和佳子ホームページ・1999年9月7日「8月の近況」より引用

この流れを見ると、噂の真相は関係者からの又聞きをそのまま憶測で語っているように見えるので、先に挙げた宗教関係の話も信憑性が極めて低いと思われます。

というわけで「水樹先生が宗教にコってる」というのは完全にデマだと判断しました。
ていうか、本当に宗教入っていたら、そもそもそんな投稿はぶ~け編集部が採用しませんよね(笑)

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