単行本未収録作品『葦の中のフランツ』

『葦の中のフランツ』現物を入手したのであらすじを書いてみます。
いわゆるネタバレです。
※ストーリーの結末まで記載されていますのでご注意ください。また、何かあれば消すかもしれませんのでご了承ください。


<扉の紹介文>
異常な愛の形を描くフレッシュ力作
異常な叔母の手でひきさかれた双子のきょうだいのふしぎな運命は!?

<扉絵のモノローグ>
少年は 葦の中に見捨てられた舟をみつけた
ひとりぼっちの少年は その舟に名をつけ友とした
舟の名はフランツ 少年の名は…

<主な登場人物>
フランツ…双子の片割れの男の子
ポリーヌ…双子の片割れの女の子
ジンクレール…双子の兄
ルイーゼ…双子の父の義理の妹

<舞台>
ドイツ
(ノントホルンという地名が出るのでニューザクセン州のあたりと思われる)

<本編>
ルイーゼは、親の再婚で兄妹関係となった義兄に恋愛感情を抱いていた。
しかし義兄は別の女性と結婚してしまい、傷心のルイーゼはアメリカに行く。

10年後、兄夫婦には長男・ジンクレール、さらにその下に男女の双子・フランツとポリーヌが生まれていた。
双子を出産した義姉の手伝いのためにアメリカから帰国したルイーゼ。

「私もこんな子供が欲しかった かわいいフランツ おまえがにいさんとわたしの子だったら フランツ わたしの子 わたしと兄さんの…」

そのままフランツはルイーゼに連れ去られる。

13年後。成長したジンクレールは建設省の職員となっていた。測量仲間と共に干拓工事のための地質検査に出かけようとすると、髪を短くしたポリーヌがついていくという。

場面が変わり、舟に乗って川にたゆたう少年がいる。
「河のむこうはどんな世界なんだろう 町ってどんなふうなんだろう ママは何も教えてくれない ママはね ぼくが町に行きたいというといつもこうなんだ」

町には悪い人がいっぱいいて おまえをさらっていってしまうのよ ローラン だれともあっちゃだめよ 河のそばに行ってはいけなくてよ

だってママは買い物に行くじゃない もう小さくないよ

おまえは小さなローランよ いつまでも小さなローランよ

「そんなときのママの目 すこし変なんだ」

ルイーゼが町に出かけたのを見計って「ぼくはもう小さくないんだ きょうこそ!」と自分も町に出ようとするローラン。
沢山の人に驚きながらも町を散策する。
「すてき すてき すてき 舟(フランツ)! 悪い人なんかどこにもいないよ」
浮かれて歩いていた時、ポリーヌとぶつかる。

同じ顔?
慌ててジンクレールを呼ぶポリーヌ。

何故かドキッとして逃げるローラン。

「にいさんつかまえて!フランツよ!」

ローランを追いかけて湿地に入るジンクレール。
しかし、ぬかるみに足を取られて逃げられてしまう。
「くそ!足場を心得てるのか!」「逃げられちゃったのにいさん」「お手上げだ!思ったより地盤がゆるい 10メートルも行くと泥だ しかし変だな 調査の報告じゃ葦が原にはだれも住んでいないってことだったけど…とにかく杖かヘリコプターでもなきゃ先に進めないよ」

場面転換。家に戻ったローラン。ルイーゼがローランに問いかける。
「どうして服をぬらしたの?髪もビショビショ」
「河に落ちそうになったんだ」
「河のそばに行ってはだめよローラン」
「どうしてさ」
「いつも言ってるでしょ 悪い人がやってきて…」
「悪い人なんかいないよ」
「ローラン」
「空はどこまで続いているの?河はどこまでつづいているんだい?」
「ローラン」
「どうしてママは何も教えてくれないの!」
「知ったら行ってしまうわ おまえはここをでて行ってしまうわ」
「どうしたのママ… ぼくはどこにも行かないよ ぼくはただ知りたいだけなんだ」

場面転換。ホテルに滞在しているジンクレールと測量仲間とポリーヌ。
「わたし見たんだもの 水にぬれて髪の色が落ちてたの あの子絶対フランツよ」
「こいつは本物だぜジンクレール おそらく葦が原の中央にある小さな森の中に住んでいるんだろう 宿の主人の話によると古い館が残っているといってましたから」
「こんな所にいたんだなあ 見つかりっこないわけだ」
「測量はおれたちにまかせて おまえはがんばってあの森へ行ってこい」
「わるいな…」

場面転換。舟に乗るローラン。
「きのうの子ね フランツってよんだんだよ ぼくのこと そうよんでおっかけてきたんだ」

髪…あの子ブロンドだったよね
ぼくもほんとはブロンドなんだよ でもママがきらいなんだ
そういえばぼく…どうして君にフランツって名前をつけたんだろう
もうずいぶん昔のことだからおぼえてないけれど…

「ぼくときたらなんにも知らないんだ」

3日後、雨が降り続いたために河が増水しはじめる。フランツ(舟)が流されたら、と心配になり外に飛び出すローラン。ルイーゼがそれを追いかける。
水に足を取られ河に落ちるローランを、ルイーゼが救出するが、流れて来た流木の枝がルイーゼの腕に刺さり負傷する。自分のせいで母親が傷ついたと悔いるローラン。

雨が止んだあとフランツ(舟)を探し始めるローランは、丁度湿地帯を探索に来ていたジンクレールとポリーヌに出会う。「フランツ!」と叫びローランを抱きしめるポリーヌ。
「ぼ ぼくローランだよ」
「ローラン?フランツでしょ」
「フランツはぼくの舟の名前だよ」

(おどろいたな 男女の双子は似ないっていうけれど)
瓜二つの双子に驚くジンクレール。
ジンクレールとポリーヌは彼に質問する。
「舟に名前をつけたの?どうしてフランツなの?」
「忘れちゃったよ」
「学校に行ってる?」
「何?それ」
ローランが就学していないと分かって顔を見合わせる二人。戸惑うローランに、自分たちは君の兄妹だと告げるジンクレール。
自分に兄弟はいない、ママと二人きりだと答えるローラン。

「ママじゃないわ!おばさんよ あなたをさらっていった人よ」
事実が信じられないローラン。
重ねるように二人が語り掛ける。なぜ舟にフランツって名前をつけたの?なぜ髪を染めているの?自分の子供の髪の色をきらう母親なんて世界中探したっていないよ、とうさんもかあさんもぼくもポリーヌも13年間フランツってよんできたんだと説得するが、ローランは信じることが出来ず、その場から逃げ出す。

家ではルイーゼが義兄との子供時代の写真を眺めていた。そこに、髪を洗い流して金髪になったローランが帰ってくる。動揺するルイーゼ。
「ママ どうしてブロンドがきらいなの?」
「にいさん…アメリカからあいたくて 会いたくて帰ってきたのに なぜ妹っていうの 愛してるのに 愛してるのに」
錯乱してローランの首を絞めるルイーゼ。
気が遠くなり、ローランは「フランツ」と口にする。我に返るルイーゼ。なぜその名を知っているのか。

そこにジンクレールが入ってくる。
最愛の義兄に生き写しのジンクレールを見て「つれていかないで 兄さん…あの子は私の子よ 私と兄さんの子よ」と呟きながらルイーゼは銃を手に取る。
愛しているのに 愛しているのになぜみんな行ってしまうの?
「どこにも行かないよ」とローランが呼びかけるが、ルイーゼはジンクレールに銃を向けた。
ジンクレールを庇うローラン。肩を負傷して倒れる。
銃声を聞きつけ、追い付いたポリーヌと測量仲間。
「にいさん!」
「たいしたことはない 肩をかすっただけだ」

ルイーゼは完全に正気を失っていた。
「ローラン わたしのローラン ローラン河のそばにいってはだめよ」
「ルイーゼおばさんだよ かわいそうに 一番つらかったのはこの人かもしれないね」
とジンクレールが呟く。

ジンクレールがフランツを抱いて病院に向かう。
「ママは?」「病院」「病院?」「病気をなおすところだよ ポリーヌとぼくの友人が一足先につれていったんだ」「あえる?」「しばらくは会わない方がいいと思う」「ママなおる?治るといいね」

世界はいったいどれくらい広いんだろう…

少しおびえるフランツ。
「どうした」「ぼくね ほんとのこというと ここから出てくの怖いんだ」
「だいじょうぶ おまえならどこに行ってもやっていけるよ」

その時、葦の中に舟(フランツ)を見つける。
「待っていてくれたんだね」
「ジンクレール 河はどこに向かって流れているの?」
「海という所だよ とても広い すべての河が海に向かって流れ込んでいるんだよ」
「舟(フランツ)はね いつでも河を下って行きたかったんだよ そしてたくさんの事を知りたかったんだ」
「そうだ おまえはこれからたくさんの事を知らなきゃいけない しあわせに生きるために」

ジンクレールの持っていた杖を借りて舟を押し出すフランツ。舟は河を流れていった。

舟(フランツ)…フランツ…いま君は海へ… そしてぼくもいま この葦の中から出て広い海に向かうんだ
「フランツ」「ん!ぼくも行くんだ」  

<最終ページの欄外コメント>
フランツは、やっとほんとうの家族のもとへ…そして幸せをつかむことでしょう!


<勝手に考察>
正直「なんでこれが未収録なの?勿体ない」と思ってしまいました。デビュー2作目でこの完成度は結構すごいのではないでしょうか(個人の感想ですが)。内容が子供の拉致というシリアスものだからか、単純にページ数の都合だったのか、はたまた作者が気に入らなかったのか。これは書籍化してほしいですね。電子でいいから。



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