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映画「パーフェクトデイズ」を見て

とても静かな映画だった。

主役の役所広司はとてもセリフが少なく、それがとてもリアルだった。
その分、表情や発した少しの言葉が引き立って、その彼の声や表情にこちらは穏やかな気持ちになる。 

トイレの清掃員である男は、毎日掃き掃除をする音で目を覚まし、一日が始まる。 

私はそのぐらいの情報しか知らず、前評判だけで見に行った。 

 私は、彼が同僚の若い男になけなしのお金を貸したり、女の子が急にキスをして車から飛び出したり、そこからどんな話が繰り広げられるのだろうかと内心ドキドキした。
特に中学生ぐらいの女の子が突然表れて、彼の部屋に何日か泊まって過ごした時は、捕まりやしないだろうかとハラハラした。
でもそれは、それ以上に深堀されるストーリーではなく、日常の切り取られた一場面にすぎなかった。
終わったときにちょっと物足りなさを感じたが、
それはえ?もう終わり?もっと見たい!という感情がそう思わせたのかもしれない。
アラフィフにもなるとこのぐらいが心地よく、あとからじわじわと来るものがずっとあって、見終わって数日経つけど、思い出しては温かい気持ちが続いている。

掃除中にもかかわらず、我関せずと用を足そうと人が入ってきたり、迷子を見つけても、その親には自分の存在がなかったかのように無視される。普通ならこういうところから人格がねじれて性格がゆがんでくる。きっと彼も複雑な性格を持った人物なのだろうと思っていたけど、顔見知りの浮浪者やOLに会釈したり、トイレの中でちょっとした手紙のやり取りをしたり、優しさであふれている。

たまにはハプニングはあるものの、
毎日それほど変わり映えのない日常ではある。
だけど彼はいつも心穏やかで、幸せをかみしめているようにも見える。
彼は小さな幸せを見つけるのが得意なのかもしれない。

車の中でカセットテープの音楽を聴く、植物を愛でる、古本屋に立ち寄る、木陰の写真を撮る、お風呂屋に行った帰りに大衆居酒屋で一杯ひっかける。
週一回スナックのような小さな割烹料理屋に通う。ここにはお互い心を通わせているママがいる。これ以上親密になろうとしない距離のあるプラトニックな関係が見ていて心地よい。

私にとっての小さな幸せとはなんだろう。
朝起きた時に焼けているホームベーカリーのパンのにおい。
朝早くにジムをしてシャワーに入り終わって外に出た瞬間。
ご飯の時の家族でする他愛もない会話。
こうやって考えるとたくさん出てくる。今ある当たり前を当たり前にしない。

人によって幸せに感じるものってそれぞれ。でも小さな幸せって意識すればたくさんあるはず。日頃から意識して暮らしていきたい。
そう気づかせてくれた映画で、この映画に出会えたこともその小さな幸せの一つ。


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