人は基本的に忘れん坊だし、別にリーダーにもならなくて良い

『コツ』とは要点のこと。『要点』の対義語は『全体』ですから、コツを知るには全体を把握せねばなりません。また、何も知らないまっさらの初心者にコツを教えても、初心者にとってはそれが全体なので、コツとは呼べません。

……と、屁理屈をこねるのが好きなヒネクレ慈岳です。

与太ごとはこれくらいにして、私がこれまで励行してきた仕事のコツを語ります。なお現在お寺勤めですので、一般企業に当てはまらないものもあるかも知れませんが、どうぞご容赦ください。


●新しく習った仕事は復習を怠らない

『エビングハウスの忘却曲線』をご存知でしょうか。これは、いろいろすっ飛ばして乱暴に言えば『人は忘れる生き物である』という事実をグラフにしたもので、教育界でもビジネス界でもよく知られています。

今日初めて習った仕事は、まったく予備知識のない状態であったならば、24時間後の明日におおむね7割忘れます。これを避けるためには午前に習って午後にまたやってみる。帰ったらノートを書き、翌朝そのノートを読み返す。そしてその日にまた同じ仕事をする。つまり『復習』をすることが、なるはやで仕事を覚えるコツとなります。

こう書くとダルくて地道な作業に思えますが、覚えた物事を短期記憶から長期記憶へ移行させる最も手っ取り早い方法なので、習い始めのうちほど時間を詰めて復習し、同じ仕事に繰り返し取り組んでみましょう。長時間のガリ勉は必要ありませんよ。

●できないことはできるようになるまで取り組む

人間の物覚えについて、有名な『学習の5段階』があります。

  1. Lv1:無意識無能 知らないしできない

  2. Lv2:有意識無能 知っているができない

  3. Lv3:有意識有能 意識すればできる

  4. Lv4:無意識有能 無意識にできる

  5. Lv5:意識有能/無意識有能 他者に教えることができる

Lv2の段階が、恐らく最もシンドイです。Lv1は気楽ですし、Lv3まで来れば小言を言われることが減りますが、Lv2は叱られやすいのです。何回言えば分かるんだ!的な理不尽パワハラを受けることが多いのもLv2ですね。

Lv3に至るまでに心が折れてしまい、「自分には向いてない」と諦めてしまう人を、私は公私ともにたくさん見てきました。しかしここを越えれば少しずつ仕事や会社の面白さも見えてきて、Lv4で中堅に食い込めます。Lv5まで行けばリーダー職クラスですよ。

●社内でお手本となる人を見付ける

学ぶは真似ぶ。マネしたくなる人を会社で見付けましょう。別に1人でなくとも構わないし、もちろん年下の人や後輩でも良いです。IT知識に秀でた人、コミュニケーションに長けた人、書類作成のセンスがある人、仕草が美しい人、電話応対が上手い人、いつも定時で要領よく仕事終わらせる人……。

ピンポイントで何らかの特技を持つ人は、以外とたくさんいるものです。ひとつやふたつ気に入らないことがあるからと言って、その人すべてをイヤがることほど勿体無いことはありません。まずは人の美点を探す癖を付け、いろいろな人をお手本にして良いとこ取りをしましょう。

私の場合、師僧でもある住職が全方向的にスゴイ人なので、起居振舞や話し方、トラブル発生時の冷静沈着さ、感情の徹底した制御、分からないことは部下に気軽に相談するところ、鼻歌交じりにトテトテと登場するところ(!)など、人間性や人格に直結するもののほとんどすべて、住職をお手本にしています。

●お殿様から3歩下がって付いていく

古来日本の婦人の美徳とされていたこの価値観、実はビジネスの場でも多大な力を発揮します。他人を矢面に立たせておいて、自分はその後ろで好きなように仕事できる。このことは『参謀型』の性格である人にとって、最高の状態と言えます。

トップはどうしてもヤイヤイと雑音を多く耳にしますし、自分の仕事を止めてでもお付き合いや頭を下げる作業が必要となりますが、参謀はそんなの関係ありません。トップの陰に控えて知略に徹する。3歩後ろどころか表そのものに出なくても良いくらいです。

リーダー経験のない人は分からない、ともすればリーダーに嫉妬するのかも知れませんが、私は子供のころからリーダーに『互選』されやすく、進んで参謀ポジションを確保する術を学ぶまではそれら雑音や余計な仕事にけっこうストレスを溜めていました。

『軍師』タイプの方は、ぜひとも3歩後ろへ。思考の邪魔をする面倒な人は、ぜんぶお殿様に振っちゃいましょう。リーダーに本当に向いているのは、広範囲に気を配れる人です。なぜ私がリーダーに選ばれやすかったかといえば、成果を出すからというただそれだけ。

人には自分の居心地のよいポジションがそれぞれあります。リーダーになるのが全てではありません。自己分析を疎かにせず、良い立ち位置を選びましょう。

それではまた。

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