上司「こんな始末書、何の心もこもってない」

どもども。今回は書道民慈岳のほろ苦い思い出話です。

一般的に、字がキレイ且つ文章を書くのが速いとメリットが多いです。エピソードを出して行けば沢山思い出しますが、基本的に字や文章で小学生のころ(書道を習う前の1年生時代は除く)から苦労したことはありません。

しかし……なんとなんと!
それがアダになってしまったことがありました!

時を新卒1年目に戻しましょう。

研修期間も終え、先輩に付いてもらわずとも自分の持ち場をこなせるようになった駅員ワタクシ、気の緩みか徹夜明けの疲れか、やらかしてしまいました。

払戻窓口の現金が合わなかったんだっけか、とにかくお金関係でした。金額が5,000円で、主任のおじさま先輩(元運転士の50代)が「俺がちゃんと見てなかったから、ごめんね」と、私の代わりに弁納してくれたことは覚えています。

とはいえその日の窓口担当は私ですから、本社に対しては自分名義で責任取らなきゃなりません。

周辺情報ではお金関係のミスは処分が重いとのことで、懲戒免職はなくても訓告くらいはもらうんじゃないかと、まだ社会のいろはも分からない私は座して判決を待ちました。徹夜明けでしんどいから半分寝ながら。

勤務明けて女子宿舎で待機していたところ、ほどなくして上司のYさん(高卒叩き上げ50代)から呼び出され、始末書の提出を申し渡されました。

慈岳「Y係長、始末書はどのように書けば良いのでしょうか」
Yさん「まずは会社へのお詫びだね。それから自分がやっちゃったことの明言」
慈岳「(復唱からのメモ) φ( ..)」
Yさん「次に、再発防止に向けて何ができるか。最後に改めてお詫びと署名捺印だよ」
慈岳「φ( ..)……かしこまりました。すぐに書いて提出致します。雛形ありますか?」
Yさん「この社用レポート用紙でいいよ。2枚以内にまとめてね」

この情報を得た時点で書くことは決まりました。あとはそれを社用レポート紙に懇切丁寧に書くだけです。自分のミスですから素直に真摯に取り組みましたが、何しろ書道民の作文狂い。書くこと決まっていれば何の問題もなく、20分で仕上がりました。

慈岳「Y係長、これで大丈夫でせうか?」
Yさん「んー、ふむふむ。……慈岳、これ誰かに考えてもらった?」
慈岳「え、どういうことです?」
Yさん「新卒でこんな文章書ける人いないんだけど」

……はぁ!?

いや、ここにいますが?

Yさん「字もキレイだねぇ。前から雛形予習してたんじゃない?」
慈岳「いえY係長のアドバイスをいただいて、すぐに考えました。字はまぁ、私ずっと書道してたのでそれでかなと」
Yさん「へー。とてもそうだとは思えないんだよねー」
慈岳「そう仰有いましても事実ですよ。てか私のイメージどんなんなんです?何を見る目で私を見てらっしゃるんです?」
Yさん「何なのかな、その言い方。いやそこまでは言わないけどね。人事資料見たら、まぁ書道はやってたのは間違いないけど普通の人間が一晩かけてやることを、慈岳は半時でやったよね」

なんかパワープレイきた!!
おまいの『普通』はどんだけレベ低なんよ!!

Yさん「この始末書前提でさ、ほんとは始末書で済むの分かってて5,000円ガメたんじゃないの?」
慈岳「なんで5,000円で、憧れて入った鉄道会社をクビになるリスク冒すんですか。有り得ないですよ」
Yさん「へぇ、『5,000円ぽっち』って僕には聞こえるね」

歪んでる。めちゃ歪んでる。
嫌味が過ぎる。このジジイやばい。

しかしそんなこじらせおじが相手でも、当時のクソガキ慈岳は『いい感じ』に人を騙くらかすスキルがありません。全力で無実を訴えますが水掛け論となり、そうなれば年の功で優勢なYさんに負けそうになります。

Yさん「こんな始末書、何の心もこもってない」
慈岳「……え」
Yさん「キレイな字で立派な文章だけどさぁ、所詮事務処理だと思ってるでしょ?」
慈岳「そんなわけないです、金額合わなかったとき冷や汗出ましたし必死でお金探しましたし(何このオッサン……)」
Yさん「その気持ちが全然伝わってこないんだよね」
慈岳「はぁ……(どうする?どう切り返す?)」

親より年上の上司にここまで決め付けられて、後先考えず反撃し、論破に走れる1年目社員はなかなかいないと思います。ここは元お役所。逆らえば干されてしまうでしょう。

でも状況は私を見捨てなかった。
ここで神が降臨します。

小娘慈岳が完全に思考停止した絶妙なタイミングで、我らが『おやじさん』こと駅長が登場。

駅長「Yくん、なんで若手社員をそんなにイジめてるのかな。少し聞いたけどさすがにその言い方はひどいよ?」
Yさん「いえ、イジめてなど……。あまりにも始末書提出が早いのでヤラセではないかと確認してただけですよ」
駅長「それはYくんの疑心暗鬼ではないのかな?直属の部下だろ?まだ入って半年、少しは庇ってやったらどうかな? まぁいい、あとは僕が判断する。慈岳くんの始末書見せてみ」
Yさん「こちらです」

びしばしと畳み掛けた駅長は一流大卒。本社勤務も新幹線の運転もしていたエリートです。そんな駅長なら絶対分かってくれるはず……!おやじさぁん!

駅長「Yくん、言い掛かりは感心できないね」
Yさん「……え」
駅長「君は責任者で、嘘偽りがあれば公明正大に判断しないとって気持ちはすごく分かるよ。でも今のは人格攻撃だし決め付けだよね」
Y「……」
駅長「あのねYくん、慈岳くんの人事資料隅々まで読んだことある?」
Yさん「いえ、ざっくりとだけ」
駅長「それは直属の上司として重大な怠慢だよ。控えがあるから駅長室で待ってて。中でちょっと話そう」
Yさん「かしこまりました」

忠実なワンコと化して駅長室に消えるYさんを見送り、取り残された慈岳に駅長は言います。いや待って、その資料私も見たい。

駅長「まぁ彼も悪気はないから許してあげて。この始末書で大丈夫」
慈岳「はっはい、ありがとうございます。お手間掛けてすみません」
駅長「謝らなくていいよ。そのための駅長だから」

うっわもうこれ駅長しか勝たん!

ここで学んだのは、ミスしたときの始末書は悩み抜いて考え抜いたフリして、少なくとも一晩は掛けねばならないということでした。『タメ』を利かせるというか、あぁそこまで悩んで書いたなら分かったよ!みたいな気持ちを、相手から引出さねばならないわけですね。

お詫び文=さらさらと書いて最速でポストにポイしちゃダメ。
このことは今の仕事にも活かしております。

Y係長、駅長、ありがとうございました!

おしまい

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