ニューヨークタイムズ5/17掲載意見広告(日本語訳)

 前回、前々回と紹介したニューヨークタイムズに5/17に掲載された公開初回の日本語訳です。
原文は下記のものです。
Russia-Ukraine War: The U.S. Should Be a Force for Peace - Eisenhower Media Network

「ニューヨーク・タイムズ意見広告2023年5月17日

米国は世界の平和のための力であるべき

 ロシア・ウクライナ戦争は、今なお続きエスカレートしています。数十万人が死亡し、負傷しました。何百万人もの人々が避難しています。環境と経済の破壊は計り知れません。特にこの戦争において核使用に近づいた場合には、この破壊の規模は将来指数関数的に大きくなる可能性があります。
 われわれは、この戦争の一部をなす暴力、戦争犯罪、無差別ミサイル攻撃、テロリズムとその他の残虐行為を悲しみます。この衝撃的な暴力の解決策は、さらなる死と破壊をもたらすことになるより多くの武器の供給や戦争の継続ではありません。
 アメリカ人として、そして国家安全保障の専門家として、私たちは、なによりも制御不能になりかねない軍事的エスカレーションの重大な危険性を考慮して、バイデン大統領と議会に、外交を通じてロシア・ウクライナ戦争を迅速に終わらせるために全力を行使するよう要請します。
60 年前、ジョン F.ケネディ大統領は、今日の私たちが生き残る上で極めて重要となる次のように所見を述べました。「とりわけ、核保有国は、私たち自身の死活的利益を守る一方で、敵に屈辱的な撤退か核戦争かのどちらかを選択させるような対決を回避しなければなりない。核時代にそのような対決を選択することは、私たちの政策の破綻か、あるいは世界に対する集団的な死の願望か、いずれかを意味することになる。」
ウクライナでのこの悲惨な戦争の直接の原因は、ロシアの侵略です。それで
も、NATO をロシア国境にまで拡大する計画と行動が、ロシアの恐怖を引き起こしたことは否定できません。そしてロシアの指導者たちは 30 年間この点を指摘してきました。外交の失敗が戦争につながったのです。現在、ロシア・ウクライナ戦争がウクライナを破壊し、人類を危険にさらす前に、ロシア・ウクライナ戦争を終わらせるために外交が緊急に必要とされています。

平和の可能性
ロシアの現在の地政学的不安は、チャールズ 12 世、ナポレオン、カイザー、ヒトラーからの侵略の記憶によってつくられています。米軍は、第一次世界大戦後のロシアの内戦(ロシア革命のこと・・白井注)で勝者側に対抗して介入し敗北した連合国の侵略軍の一員でした。ロシアは、NATO の拡大と国境でのプレゼンスを直接の脅威と見なしています。米国と NATO は慎重に準備するということしか考えていません。外交では、敵を理解しようとして、戦略的な共感を持って見ようとしなければなりません。これは弱さではなく、知恵です。
私たちは、平和を求める外交官が、この場合はロシアかウクライナのどちらかを選ばなければならないという考えを拒否します。外交において、私たちは正気 sanity の側を選びます。人類の側、平和の側です。
ウクライナを「必要なかぎり as long as it takes」支援するというバイデン大統領の約束は、その定義が不明確で最終的には達成不可能な目標を追求するものである、と私たちは考えています。それは、昨年のプーチン大統領の犯罪的な侵略と占領を開始するという決定と同じくらい破滅的となってしまう可能性があります。私たちは、最後のウクライナ人までロシアと戦わせるという戦略を支持することはできませんし、支持しません。
私たちは、外交による解決、特に、無条件の即時停戦及び交渉を提唱します。考え抜いた挑発はロシア・ウクライナ戦争をもたらしました。同様に、考え抜いた外交がそれを終わらせることができます。

米国の行動とロシアのウクライナ侵攻
ソ連邦が崩壊し、冷戦が終結すると、米国と西ヨーロッパの指導者たちは、
NATO がロシアの国境に向かって拡大しないことをソ連とロシアの指導者に保証しました。「 NATO は東方へ1インチも拡張しない。」米国国務長官の
ジェームズ・ベイカーは1990年2月9日にソ連の指導者ミハイル・ゴルバ
チョフにこう語りました。1990年代を通じて、米国の他の指導者や英国、
ドイツ、フランスの指導者からも同様の保証がなされました。
メキシコやカナダに現在ロシア軍がいたら米国は耐えられないように、またはキューバのソビエト・ミサイルが 1962 年がそうであったように、2007年以来ロシアは、ロシア国境での NATO の軍隊は耐えられないと繰り返し警告してきました。ロシアはさらに、ウクライナへの NATO の拡大については、とりわけ挑発的であると強調してきました。

ロシアの目を通して戦争を見る
 この戦争に関するロシアの見方を理解しようとする私たちの試みは、その侵略と占領を承認するものではなく、ロシア人がこの戦争以外に選択肢がなかったことを意味するものでもありません。
 しかし、ロシアに他の選択肢があったように、戦争に至る瞬間まで米国と
NATO にも他の選択肢があったのです。
 ロシアは彼らのレッド・ラインを明確にしていました。グルジアとシリアでは、彼らはそれらの線を守るために力を行使することを証明したのです。2014年、クリミアの即時征服とドンバス分離主義者への支援は、彼らが彼らの利益を守るということに真剣であることを示しました。なぜこれが米国と NATO の指導部によって理解されなかったのかは不明です。無能、傲慢、シニシズム、またはその三つすべての危険な組み合わせが要因であるのかもしれません。

 また、冷戦が終わったときでさえ、米国の外交官、将軍、政治家は、NATO をロシア国境に拡大し、ロシアの勢力圏に悪意を持って干渉することの危険性について警告していました。元政府閣僚のロバート・ゲイツとウィリアム・ペリーは、尊敬すべき外交官のジョージ・ケナン、ジャック・マトロック、ヘンリー・キッシンジャーと同様に、これらの警告を発しました。1997 年、50人の上級米国外交政策専門家がビル・クリントン大統領に公開書簡を書き、NATO を拡大しないように忠告し、そうするのは「歴史に残る政策ミス」であると主張しました。しかしクリントン大統領はこれらの警告を無視してしまいました。
ロシア・ウクライナ戦争をめぐる米国の意思決定における傲慢さとマキャベリズムを理解する上で最も重要なのは、現在の中央情報局長官であるウィリアムズ・バーンズが発した警告の却下です。2008 年にコンドリーザ・ライス国務長官に宛てた公電で、駐ロシア大使を務めていたバーンズは NATO の拡大とNAtoへのウクライナの加盟について、次のように書いています。
「ウクライナとジョージアの NATO 加盟の願望は、ロシアを刺激するだけでなく、地域の安定への影響について深刻な懸念を生み出す。ロシアは、包囲されると認識し、地域におけるロシアの影響力を弱体化させる試みだと考えるだけでなく、ロシアの安全保障上の利益に深刻な影響を与える予測不可能で制御できない帰結も恐れることになる。専門家によると、ロシアは、NATO 加盟をめぐるウクライナ内の強い分裂が、加盟に反対するロシア人コミュニティの多くとともに、暴力や最悪の場合内戦を含む大きな分裂につながる可能性があることを特に懸念している。その場合、ロシアは介入するかどうかを決定しなければならないだろう。ロシアが判断したくない決定である。」
 なぜ米国は、そのような警告にもかかわらず、NATO の拡大に固執したのでしょうか。武器売買からの利益が主な要因でした。NATO 拡大への反対に直面して、ネオコンのグループと米国の兵器製造業者の最高幹部は、NATO 拡大のための米国委員会を結成しました。1996 年から 1998 年の間に、最大の武器メーカーはロビー活動に5100万ドル(今日では9400万ドル)を費やし、キャンペーンへの寄付にさらに数百万ドルを費やしました。この大規模な金額で、NATO の拡大はすぐに後戻りできない政策となり、その後、米国の兵器製造業者は新しい NATO 加盟国に数十億ドルの武器を販売しました。
 これまでのところ、米国は300億ドル相当の軍事装備と武器をウクライナに送り、ウクライナへの援助総額は1000億ドルを超えています。戦争という
大災害は特定の少数の人々にとっては非常に有益なものであると言われています。要するに、NATO の拡大は、レジーム・チェンジと先制戦争をちりばめたユニラテラリズムを特徴とする軍事化された米国の外交政策の鍵となる柱です。最近ではイラクとアフガニスタンでの失敗した戦争は、虐殺とさらなる対立を生み出しました。これがアメリカ自身が作り出した厳しい現実です。ロシア・ウクライナ戦争は、対立と虐殺の新たな舞台を開きました。この現実は全的に私たち自身が作ったものではありませんが、殺害を止め、緊張を和らげる外交的解決をつくりだすことに献身しない限り、それは私たちの不作為だとされるかもしれません。
アメリカを世界平和のための力にしましょう。

署名
デニス・フリッツ(アイゼンハワー・メディアネットワークのディレクター、
米空軍司令部長、退役軍曹)
マシュー・ホー(アイゼンハワー・メディアネットワークのアソシエイトディ
レクター。元海兵隊将校、国務省・国防総省官吏)
ウィリアム・J・アストア(退役米空軍中佐)カレン・クビアトコウスキー(退役米空軍中佐)
デニス・ライヒ(退役米陸軍少将)
ジャック・マトロック(ソ連駐在米国大使、1987-91、著書『レーガン
とゴルバチョフーー冷戦がどのように終わったか』)
トッド・E・ピアース(退役米陸軍少佐、法務官)
コリーン・ローリー(退役 FBI 特別捜査官)
ジェフリー・サックス(コロンビア大学教授)
クリスチャン・ソレンセン(元米空軍アラビア語学者)
チャック・スピニー(退役国防省技師/アナリスト)
ウィンスロー・ウィーラー(4 人の共和党と民主党の国家安全保障顧問)
ローレンス・B・ウィルカーソン(退役陸軍大佐)
アン・ライト(退役米陸軍大佐、元米国外交官)

この広告は署名者の意見を反映しています。広告費はピープルパワーイニシアチブのプロジェクトであるアイゼンハワーメディアネットワークによって支払われました。
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 途中に示されている図は、左側が現実の図、右側が仮想の図です。右側の図のような状態にあった場合アメリカ政府は軍事的脅威は感じないでしょうか?そしてどのような行動に出るでしょうか?ちなみにアメリカ政府は、遠いイラクに大量破壊兵器がある、としてイラク攻撃を行いました。そうしたアメリカ政府の行動様式から考えたらどうでしょうか?

白井邦彦
青山学院大学教授


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