ゼレンスキー政権の「徹底抗戦・全領土武力奪還」支持は、実は「反ウクライナ市民・社会」ではないのか?

日本政府はガザでのイスラエルによる虐殺に対し以下の姿勢です。
政府「ガザ停戦」求めず 国会論戦が活発化、野党批判(共同通信) - Yahoo!ニュース(11/11)
「中東情勢を巡る国会論戦が活発化している。政府は、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃を事実上追認。パレスチナ自治区ガザでの即時停戦を呼びかけるかどうかでは、及び腰の態度を見せ、親イスラエルの米国との協調を重視する姿勢をにじませた形だ。野党は「中東でのバランス外交を失った」と批判する。  9日の衆院安全保障委員会。イスラム組織ハマスからテロ攻撃を受けたイスラエルに関し、上川陽子外相は「国際法に基づいて自国と自国民を守る権利を有する」と説明し、国際法順守を前提とした反撃を認めた。即時停戦の必要性を問われると「人道状況の改善へ外交努力を粘り強く続けたい」と述べるにとどめた。」(同記事より直接引用)
 ドイツ首相の発言です。
独首相、ガザ「即時」停戦に反対(AFP=時事) - Yahoo!ニュース(11/13)
「【AFP=時事】ドイツのオラフ・ショルツ(Olaf Scholz)首相は12日、パレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)で続くイスラエルとイスラム組織ハマス(Hamas)との武力衝突の「即時」停戦には反対するとの考えを示した。国際社会からは停戦を求める声が大きくなっている中での発言となった。 【写真】いまだに数千人が退避 ガザ地区最大の「シファ病院」  ショルツ氏は、地方紙ハイルブロナー・シュテメ(Heilbronner Stimme)主催の討論会に出席し、「即時停戦も長期停戦も結局は同じ結果を招くだけだ。望ましくないと考える」と述べた。 「どちらもハマスに態勢を立て直し、新しいミサイルを入手する機会をイスラエルが与えることになる」とし、必要なのは「人道的一時停戦」と訴えた。」(同記事より直接引用)
 イスラエル首相の発言です。
ガザ統治「イスラエル軍が責任」=パレスチナによる管理拒否―ネタニヤフ氏 | 時事通信ニュース (jiji.com)(11/13)
「【エルサレム時事】イスラエルのネタニヤフ首相は12日、米NBCテレビの番組で、イスラム組織ハマスを打倒後のパレスチナ自治区ガザの統治について「二度と脅威にならないようにするための唯一の勢力は、イスラエル軍だ」と述べた。ガザを実効支配するハマスに代わり、イスラエルが全体の軍事的責任を担って管理する方針を表明した。」(同記事より直接引用)
  ロシア・ウクライナ戦争では日本は国会決議をあげ、米欧日とも「武力による現状変更は許されない」と強く主張していました。この主張はパレスチナ問題ではどこにいってしまったのか、世界はこうした米欧日の姿勢をしっかりみています。

(19) 野口和彦(Kazuhiko Noguchi) on X: "アブラハム氏「ウクライナ戦争について絶えることなく偽情報を提供して、犠牲を生み出す無意味な戦闘を奨励した識者はみな、ウクライナ国民に甚大な損害を与えた。自称親ウクライナ派は、病的なまでに反ウクライナ的だった」。" / X (twitter.com)
原文は下記の次第です。
Max Abrahms
@MaxAbrahms
Every pundit who provided nonstop disinformation about the Ukraine war and encouraged all the costly, pointless fighting did enormous damage to the Ukrainian people. The self-described pro-Ukraine camp was pathologically anti-Ukraine.
9:37 AM · Nov 8, 2023
 ゼレンスキー政権の「徹底抗戦・全領土武力奪還」方針を支持することは本当に、ウクライナの市民・社会に寄り添うことなのか、実は逆で「反ウクライナ市民・社会」ではないか、と私も感じていました。
 ロシア政権による侵略は許されない、ロシア軍は撤兵すべきである、私は強く訴えますし、私はその立場です。しかしその方法として「徹底抗戦・全領土武力奪還」が現状から適切なのか、それはむしろウクライナの市民・社会に取り返しのつかない犠牲を与えてしまうことになるのでは、ともずっと考えていました。
 下記の猪野弁護士の論考は示唆に富むものと思います。
ウクライナはなお徹底抗戦すべきなのか。見えた米国・欧州のマネー至上主義 - 弁護士 猪野 亨のブログ (fc2.com)

 ウクライナ軍総司令官の発言です。
(19) 野口和彦(Kazuhiko Noguchi) on X: "ウクライナ軍のザルジニー総司令官「深く鮮やかに(ロシア防御陣を)突破することは、おそらくないだろう。彼ら(西側諸国)には、我々に何も与える義務はないし、我々は得たものに感謝しているが、私は事実を述べているにすぎない」。 https://t.co/SWOrabmBMn" / X (twitter.com)
 また小泉氏の最近の発言です。
[深層NEWS]ウクライナ軍の反転攻勢「特定の兵器があれば勝てるわけではない」…小泉悠氏 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)(11/10)
「小泉氏は今後の戦況について「特定の兵器があれば勝てるということではない」と指摘し、米国のF16戦闘機や新型無人機は戦局を一変させる「ゲームチェンジャー」にならないとの認識を示した。」(同記事より直接引用、なお小泉氏はつい最近「とにかく軍事支援を」と言っていたのですが・・・)。
 下記のような記事も配信されています。
「支援がなければ自分たちで戦う」 欧米“支援疲”とゼレンスキー大統領の苛立ち(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース(11/11)
「■「武器が届いても、ウクライナにはそれを使う兵士がいない」
 しかし、ウクライナで問題なのは「欧米の支援疲れ」だけではない。兵士の動員が滞っているため戦闘部隊のローテーションが進まず、武器弾薬の不足とともに兵士不足が深刻になっていることだ。 米国の雑誌「タイム」は、ゼレンスキーの側近の言葉を引き、「たとえ米国や支援国が約束した武器が届いたとしても、ウクライナにはそれを使う兵士がいない」と、兵力不足の深刻さに警鐘を鳴らした。
■動員逃れの賄賂横行 徴兵事務所責任者を全員解任  
兵役忌避の風潮が広がり、動員逃れの賄賂が横行し、8月にゼレンスキー大統領はウクライナ全土の徴兵事務所の責任者全員を解任したほどだ。 侵攻直後のゼレンスキー大統領の役割は世界中で共感の輪を作り出すことだった。しかしイスラエルとパレスチナの紛争でゼレンスキー大統領が「ロシアとハマスは同じ悪だ」と語り、早々にイスラエルへの全面的支持を発表したことによって、ゼレンスキーは、これまでの支援国の社会に「戦争の大義」と「感情の共感」のねじれを作り出してしまった。」(同記事より直接引用、なお「徴兵逃れ」という言葉は私は使わず「徴兵拒否」としますが、記事の引用のためその部分はそのままにしました)。
 武器以前に兵力が不足していっています。「兵力の供給」を米欧日が行うのはハードルが高すぎるし、万が一行ってしまったらNATO日本参戦、世界大戦です。
 さらにゼレンスキー氏がガザ問題で「イスラエル支持、全ての国の指導者はイスラエル訪問へ」としたことも、ゼレンスキー政権への共感を薄めてしまったと思います。同時にウクライナ軍の戦いは「米欧日の軍事支援があってのもの」ですが、その米欧日、とりあけ最大の軍事支援国アメリカはガザで連日虐殺を繰り返すイスラエルを支持、欧日諸国の多くも一部の例外を除きイスラエル支持の立場を示していますから、「米欧日のダブルスタンダード」「米欧日の軍事支援の欺瞞性」が際立っている、少なくとも世界の多くの国・市民はそのようにみていると思います。
 またトッド氏のインタビュー記事です。ぜひ読んでいただければ幸いです。
勝敗はすでに決しているのに、空約束の軍事支援で、米国はウクライナに戦争継続を強いている E・トッド氏インタビュー(文春オンライン) - Yahoo!ニュース(11/9)
この記事の末尾です。
「ウクライナ戦争の“真実”
 しかし、この戦争が長期化すればするほど、多くの犠牲を強いられるのは、ウクライナの人々だ。 〈戦争が長期化するほど、多くのウクライナ人が犠牲となり、ウクライナの建物や橋が破壊されていきます。実際、「反転攻勢」が始まった6月4日以降、ウクライナ側で大量の死者・負傷者が出ています〉  ここから、ウクライナ戦争の“真実”が明らかになる。 〈米国は“支援”することで、実はウクライナを“破壊”しているわけです〉」(同記事より直接引用)
  ロシア・ウクライナ戦争で「即時停戦・和平交渉での解決」を主張すると「親ロ派」とレッテルを貼られ、「徹底抗戦・全領土武力奪還を支持し軍事支援を容認する立場こそウクライナに寄り添うもので、即時停戦はウクライナ市民を蔑ろにするもの」と常に強く非難されました。
 しかし現状を考えた際、「徹底抗戦・全領土武力奪還」方針は本当にウクライナの市民・社会のためなのか、むしろウクライナ市民に犠牲を強いウクライナ社会の破壊を促進する、「反ウクライナ市民・社会」の立場ではないのか、そのように私は考えます。
 なお政権と市民・社会は違い区別すべき、「ゼレンスキー政権=ウクライナ市民・社会」、でないことも強調しておきます。

白井邦彦
青山学院大学教授


  
 

 
 







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